ナンバルゲニア・シャムラードの日常 39
「そう言えばさあ……」
島田が去って10分も経っていない時間にシャムは飽きたように伸びをした。
「オメエ少しは我慢を覚えろよ」
いらだたしげに要がシャムを眺める。第四小隊は誰もが黙り込んで二人にかかわらないように決めているようだった。
「でも……やっぱり楓ちゃんと行けばよかったかな……」
「じゃあ今からでも行けよ」
「それって酷くない?アタシは仕事を片付けたくてこうしてがんばっているのに!」
「それで片付いたのか?」
冷たく放たれた要の言葉にシャムの薄笑いが困惑に変わる。
「片付かない……」
そう言いながらシャムは目の前の吉田に目を向けた。吉田は先ほどから目をつぶってじっとしていた。首筋にあるコードは端末に直結しているので彼が寝ているのか仕事をしているのかは誰にも分からなかった。
「そうやって吉田に頼っているからいつまで経っても事務仕事や報告書で詰まるんだろ?自分でやれたまには」
要はそれだけ言うと自分の仕事に戻った。シャムは話し相手を失って周りを見回す。
「そう言えばアン君は?」
第三小隊三番機担当アン・ナン・パク曹長。部隊でも数少ない十代の新人の姿は朝からシャム達の前には無かった。
「ああ、アイツなら神前と一緒に東都だ……」
軽くそう答えてから要は猛烈な後悔に襲われた。その視線の中でシャムの笑みが大きく育っていくのが要にも分かる。
「じゃあ二人して今頃は……」
「妄想中止だ!それじゃあアイシャだぞ!」
要はそう言うとそのまま再び画面に向き直ろうとした。だがシャムは自分の椅子から飛び降りるとそのまま軽い足取りで要の肩にしなだれかかる。
「やめろって!」
「ふふふ……先輩……僕……」
そう言うとシャムは要の頬に手を伸ばした。