ナンバルゲニア・シャムラードの日常 36
「弓だね!それは名人がいるよ!」
シャムの言葉に気分を害したと言うように要がうつむく。
「もしかして西園寺大尉が?」
「違うよ、隊長。隊長の家の芸が流鏑馬なんだって」
「流鏑馬?」
不思議そうでそれでいて興味津々のロナルドに嫌々ながら要が口を開いた。
「馬を疾走させながら的を射抜くんだ。結構慣れとか必要らしいぞ」
「隊長が……あの人はスーパーマンだな」
ロナルドは感心したように何度と無くうなづいた。それを見ている部下のジョージ岡部大尉とフェデロ・マルケス中尉はすでに知っていると言うような顔でロナルドを見つめていた。
「でもなあ……叔父貴がスーパーマンだとスーパーマンがかわいそうだな」
「確かにね。あんなに汚い部屋に住んでるんだもんね」
シャムの言葉にロナルドはうなづいた。
隊長室。そこは一つのカオスだった。趣味の小火器のカスタムのために万力が常に銃の部品をはさんでいてさらにそこから出た金属粉が部屋中に散らかっている。かと思えば能書で知られることもあって知り合いから頼まれた看板や表札のためにしたためられた紙があちこちに散らばる。そして常に書面での提出を求められている同盟司法局への報告書の山がさらに混乱に拍車をかける。
「まあ芸が多いのと部屋を片付けられるのは別の才能だからな」
ロナルドは納得したように席に戻った。
「それにしても……誠ちゃん大丈夫かな」
話を変えてシャムはそのままにやけながら要を見つめた。
「何が言いてえんだ?」
明らかに殺気を込めた視線で要はシャムをにらみつける。
「だって東都の病院でしょ?警察とか軍とか誠ちゃんの秘密を知りたい人達の縄張りじゃないの。下手をしたら隊長みたいに解剖されちゃうかも知れないよ」
シャムの豊かな想像力に要は大きなため息をついてシャムを見上げた。