ナンバルゲニア・シャムラードの日常 33
「今日は午後から猟友会の猪狩ですよ!」
「あれ?そうだったの?ランちゃん……」
シャムは助けを求めるようにランを見る。ランはため息をつくとそのまま吉田に目をやった。
「半日休暇届。出てましたね」
「でてたな」
「そうだったの?」
改めてランが溜息をつく。
「いいねえ……午後から優雅に猪狩か……貴族の楽しみじゃねえか」
茶々を入れる要。そんな要を見て楓は目を輝かせた。
「お姉さまもいかがですか?」
楓の『お姉さま』は強烈だった。それまでは自分の事務仕事に集中していた第四小隊のロナルドが低い笑い声を立て始める。
「なんでアタシが野山を駆け巡らなきゃならねえんだ?それに午後はうちの御大将と落ちこぼれ隊員一号が帰ってくるんだから無理だよ」
あっさりそう言うと要は楓の熱い視線を無視して目の前のモニターで書類の作成を開始する。
「それならかなめちゃん……じゃなくて渡辺さんは……ってその格好は来るんでしょ?」
楓の部下で付き合いの長い渡辺かなめ大尉は青いボブカットの上に青いベレーをかぶっている。
「ええ……楓様と一緒なら私……」
「かわいいなかなめ……」
「楓様……」
思わず手を握りあう楓と渡辺。その姿に部屋の中の空気がよどんだものに変わった。
「要ちゃんいる!」
全員が助けを求める中に救世主のように現れたのはいつもはくだらない馬鹿話をするだけに来るアイシャの姿だった。いつもなら怒鳴りつけて追い返すランですら感動のまなざしをアイシャに向けていた。
「ここにいますよー」
何とか一息ついた要が手を振る。アイシャはそれを見るとニヤニヤ笑いながら要の所まで来て大きなモーションで肩を叩いた。
「分かるわ……要ちゃんの気持ち。本当によく分かる」
「何が言いたいんだ?」
アイシャの言葉に要のそれまでの感激の表情が一瞬にして曇った。