ナンバルゲニア・シャムラードの日常 32
シャムはそのままスキップするようにして階段を駆け上がった。扉の開いた医務室ではドムが伸びをしながらシャムを見つめていた。
「早くしろよ!」
ドムの声に手を振るとそのまま廊下をスキップして進む。男子更衣室からは次々とつなぎを着た整備班員が吐き出される。
「みんなおはよう!」
元気なシャムの声に苦笑いとともに手を振りながら隊員はそのままハンガーへ続く道を走る。
「今日は姐御は待機だからな……アイツ等も少しは楽できるだろ」
コンピュータ室のドアに体を預けて立っていた吉田にうれしそうにシャムはうなづく。
「おい!シャム!吉田!早くしろよ!」
実働部隊の執務室から顔を出して叫ぶ要。シャムと吉田はその声にはじかれるようにして部屋に飛び込んだ。
「ぎりぎりセーフ!」
「いやアウトだ」
シャムの言葉を一刀両断するラン。彼女は先日の誠達が解決に道をつけた違法法術発動事件の報告書の浮かんでいるモニターから目を離そうとしない。
「それランちゃんの時計ででしょ?私の時計は……」
「秒単位での狂いなんてのは戦場じゃよくある話なのはテメーが一番よく知ってるだろ?アタシはここのトップだ。アタシの時計がうちの時計だ」
淡々とそう言うとシャムは明らかにその小さな体にしては大きすぎる椅子の高さを調節する。
「災難だな」
シャムが自分の席に着こうとすると後ろの席の要がニヤニヤ笑いながらシャムの猫耳をはじいた。
「それにしても……」
吉田がそう言ったのは明らかに場違いな格好をしている人物がいたからだった。彼女の姿は猫耳にどてらと言うシャムの姿の遥か上を行っていた。
赤い鳥打帽にチェックのベスト。本皮のパンツに黒い同じく皮のブーツを履いている。
「楓ちゃん……」
「何だね、ナンバルゲニア中尉」
「猟に行くの?」
「忘れてたんですか?」
第三小隊小隊長嵯峨楓少佐の身なりに呆然としていたシャムだがシャムの言葉で今度は驚いたのが楓だった。