ナンバルゲニア・シャムラードの日常 30
「さすがの東和政府も重い腰を上げたって訳だ」
「検査の強制?」
シャムの顔に少しばかり影が走る。彼女もまた法術師。それも飛び切りの熟練した技を持っているとなれば無関心ではいられなかった。
「それもあるが……有効活用のために希望者には軍関係の訓練と同レベルの訓練を施してくれるんだそうな。しかも無料。それどころかその訓練の間に会社などを休んだとなればその分の保障までされるっていう至れり尽くせりだ」
「でも……それは東和だからできるんでしょ?」
シャムの言葉に思わず吉田は振り返った。明らかに泣き出しそうな顔。仕方なく吉田は少しばかり歩みを緩めてシャムの頭を撫でた。
「まあ……あれだ。世の中どうしようもないことが結構あるもんだ。主に法術犯罪にかかわる人間は遼南やベルルカン大陸諸国の貧困層が多いのはわかるよな。自分の能力がどんなものかも知らされずに政府や民間の反対勢力の施設などでドカンと自爆。それが今でも続いているのは事実だが……できることはできるだけやっておく。それは悪いことじゃないと思うがな」
そう言いながら吉田は隊舎の正面玄関をくぐる。仕方が無いというようにシャムもそれに続いた。
「おはようございます!」
オレンジ色、緑色、ライトブルー。さまざまな髪の色の女性仕官達がシャム達を追い抜いて隊舎に駆け込んでいく。
「あいつら運用部の連中も法術師とたいして変わらないんだ。戦争のために作られて人間以上の力を持ったがゆえに軍や警察なんかに職種が限定されての社会進出。苦労は多いとは思うよ。だから……」
そこまで言う吉田を突然シャムが振り向く。
「遅刻!」
「別に良いだろ?」
「でも遅刻!」
そう叫ぶとシャムは吉田を置いて走り出した。一階の運用艦『高雄』の航行を管理する『運用部』の部屋の手前の女子更衣室にシャムは飛びこんだ。
「ナンバルゲニア中尉、遅いですよ」
入り口にたむろするさまざまな色の髪の運用部の女性士官達から離れたところで金髪の長い髪をなびかせながらブラウスを脱いだたわわな胸を見せ付けているように見える女性仕官が声をかけてきた。
「レベッカは日勤?」
「そうですけど……」
シャムが隣のロッカーを開けるのを見ながらレベッカ・シンプソン中尉は珍しそうにシャムを眺めていた。