ナンバルゲニア・シャムラードの日常 27
駐車場には爆音を立てる車があった。
「ロナルド大尉!」
シャムはグレゴリウスの肩の上に身を乗り出して叫ぶ。エンジンを吹かしていた車から身を乗り出して手を振るのは第四小隊隊長のロナルド・J・スミス上級大尉だった。
「シャム!レースでもするか!」
「勝てるわけ無いじゃん!」
コンパクトなボディーに大出力ガソリンエンジン搭載車。シャムがものを知らなくてもその車の速さは容易に想像がついた。
「スミスさん。かなりいい具合になったでしょ?」
「いい仕事だな……うちのM10も同じように仕上げてくれれば最高だけどな」
「言わないでくださいよ……」
ロナルドの隣にはすでにつなぎ姿に着替えた技術部整備班長の島田正人准尉の姿がある。シャムは二人のこれから展開される専門用語の入り乱れた会話を避けるべくそのままグレゴリウスに乗って進んだ。
「シャムさん。お父様はいるんですの?」
高級車から降りた紅色の小袖を着た茜がシャムに声をかける。シャムはグレゴリウスがその着物の色に興奮しているのに気づいて少し頭を撫でて落ち着かせた後でグレゴリウスから飛び降りた。
「多分いると思うよ。でも起きてるかなあ……」
「まあ良いですわ。今日は書類関係の話があるくらいですから」
それだけ言うと茜はそのままエンジン音につられて集まった野次馬の中へと消えていく。シャムはそれを見送るとそのまま巨大なゲージに向かうグレゴリウスの後を追った。
「それじゃあどこで食べようかな……」
「食うことしか考えてないのか?お前は」
ずっとシャムを待っていたというようにゲージの前に座り込んでいた吉田が声をかけてきた。
「そんなわけ無いよ!ね!」
「わう!」
シャムの言葉に合わせるようにジャンプするグレゴリウス。その巨体はゲージの前に座っていた吉田の上に落ちて埃を立てた。