ナンバルゲニア・シャムラードの日常 26
「でも本当にグレゴリウス君は大人気ね」
サラの何気ない一言にシャムは後ろを振り返った。そこにはカメラや端末を構えた女子職員が群れを成していた。
「元気だからね。あとでまた鮭を食べようね」
「わう!」
元気に答えるグレゴリウスに安心したようにシャムは歩き続ける。アイシャはわざとカメラを向ける職員の間に立ってにこやかに歩き続けていた。
「それにしても……お姉さんが産休でしょ?本当にアンタで大丈夫なの?」
「サラ……酷いわね。大丈夫だからお姉さんも子作りしたんじゃないの?」
「子作り……」
アイシャの言葉がつぼに入ってシャムが笑い始める。あきれた顔のサラは仕方なく歩こうとするグレゴリウスを連れて部隊の周りに立ちはだかる十メートルはあろうかという壁に沿って歩き続ける。
「アイシャ!遅刻するわよ」
仕方なく振り返るサラ。アイシャもようやく笑みを少しだけ残しながらグレゴリウスの巨体に向けて走り出した。
「あんた……本当に大丈夫なの?」
サラの再びの言葉に追いついたアイシャは不満そうに口を尖らせる。その光景が面白かったのでシャムは笑みを浮かべるとそのままグレゴリウスにまたがった。
「先行ってるね」
それだけ言い残すとグレゴリウスは走り出した。巨体に似合わず隣の工場の周回道路を走るトレーラーを追い抜くスピードで走り続けるグレゴリウス。そしてそのままシャムは部隊の通用口のゲートの前にまでやってきた。
「ごきげんよう」
和服の女性が高級乗用車から顔を出す。
「茜ちんおはよう!」
シャムは元気に挨拶を返す。上品な笑みでそれを受け流すと保安隊と同じく遼州同盟司法局の捜査機関である法術特捜の責任者、嵯峨茜警視正はそのまま車を走らせた。
「中尉、お弁当は?」
「買ったよ!これ」
警備部のスキンヘッドの曹長に手にした天丼を差し出す。日本文化の影響の強い東和に赴任して長い曹長は大きくうなづきながらゲートを開いた。
「じゃあ!行こう!」
シャムはそう叫ぶ。言葉を理解したというようにグレゴリウスはそのまま元気に自分の家のある駐車場に向けて走り始めた。