ナンバルゲニア・シャムラードの日常 25
「じゃあ行きましょ」
アイシャの言葉にシャムは大きくうなづいた。
周りでは相変わらずシャムとグレゴリウスの様子を写真に収める女性職員の群れが見えている。だがそれもいつものことなのでグレゴリウスは黙って先頭を歩くシャムに付き従った。
「それにしても寒いわね」
「冬は寒いもんだよ」
「わかってはいるんだけど……シャムちゃんは寒くないの?」
アイシャに改めてそう言われてシャムは自分の姿を見た。厚手のジャンパーに綿の入ったズボン。かつて遼南の山に隠れ住んでいたときに比べれば遥かに暖かく、そして気候も遥かにすごしやすい。
「寒くないよ」
そう言いながらシャムは押しボタン信号のボタンを押した。
「それならいいんだけど……あれ?」
答えたアイシャの目の前で四輪駆動車が止まる。その運転席と助手席には見慣れた顔があった。
「あれ、アイシャじゃないの」
運転しているピンク色の長髪の髪の女性がアイシャに声をかけた。その髪の色が彼女がかつての大戦で人工的に戦闘用に作られた人造人間であることを示していた。そんなパーラ・ラビロフ中尉はアイシャの同期で今はアイシャの補佐を担当する部隊の運用艦『高雄』のブリッジ要員の一人だった。
「もしかして乗せてくれるの?」
喜びかけたアイシャだが、パーラの表情は硬い。それはアイシャの隣に立つシャムとグレゴリウスを無理して後部座席に詰め込むことになりかねないということを心配しているからだった。
「いいわよ、パーラ。私が降りて歩くから……」
赤いショートヘアーの女性がそう言って助手席から降りた。彼女もアイシャと同期のサラ・グリファン少尉。アイシャ達と同じく人工的に作られた戦闘用の女性兵士だった。
「まあそう言うなら……先行くわよ」
安堵の表情を浮かべながら窓を閉めるパーラ。シャム達はニコニコ笑いながら走り去っていく大型の四輪駆動車を見送った。
「シャムちゃんはおやつを買ったの?」
サラの言葉に大きくうなづくシャム。そしてグレゴリウスもうれしそうに信号が青に変わった横断歩道を歩き始めた。