ナンバルゲニア・シャムラードの日常 24
「それがね……」
「うん」
明らかにしょげているドム。それを興味津々の目でシャムは見つめていた。浅黒い色の小太りの男と小さな女の子がしゃべっている光景。工場の中とは思えない組み合わせに回りにギャラリーが集まり始める。
「明石君に誘われて行った東都銀座の店のマッチをコートの中に入れてたら見つかってさあ……」
「なんだ、別居じゃないんだ」
「おいおい!そんな大事にしないでくれよ。今朝だって怒ってたからカップ麺で朝食だったし」
「あれ?子供がいたよね」
「ああ、昨日は俺抜きでピザを取って食べてたから。それの残りを食べて出かけてったよ」
「ふーん」
一通り話し終えて我に返ったドムの周りに人垣ができていた。急にドムの表情はあせりに満ちたものへと変質した。
「それじゃあ!」
シャムに何も言わせずに弁当を手にレジへと急ぐドム。シャムはその後姿をにやにや笑いながら眺めていた。
「ああ、アタシも買お!」
ドムへと視線を向ける野次馬達を無視してシャムは惣菜売り場に足を向けた。
「朝のおやつには……」
そうつぶやきながらシャムが手にしたのは天丼弁当だった。それを当然のように二つかごに入れてレジへと向かう。
くたびれた顔の作業着姿の従業員のならぶレジ。シャムはとりあえずカードで買い物を済ませるとそのままグレゴリウスの待つ駐輪場へと向かった。そこには当然のように座っているグレゴリウスとその首を撫でて和んでいるアイシャの姿があった。
「シャムちゃん、ドム先生に会った?」
「うん。落ち込んでたね」
「もしかして奥さんに逃げられたのかな」
「違うって……普通の喧嘩」
「ふーん」
アイシャは話が犬も食わない話題だったと知ると飽きたというようにグレゴリウスの頭をトンと叩いて立ち上がった。