ナンバルゲニア・シャムラードの日常 23
広い店内はこの工場が野球場が100個も入る巨大なものであることをシャムにも思い知らしめた。だがシャムはすぐに笑顔になるとそのままかごを片手に歩き始める。目指すのは惣菜コーナー。今の時間は出勤している職員が多いので品揃えも多くシャムのお気に入りのメニューが簡単に手に入った。
「あ……」
惣菜コーナーに群がる工場の従業員の群れの中に一人浅黒い顔の男が立っていてすぐにシャムの存在に気づいて振り返った。
「あれ?先生?」
それは保安隊医務局の医師ドム・ヘン・タン大尉だった。見つかったとわかるとドムはそのまま逃げるように立ち去ろうとする。そこに少しばかり思いやりがあれば見逃してくれるところだったがシャムにはそういうことに気を回すデリカシーはかけらもなかった。
「逃げるな!」
「ひ!」
目の前に立ちはだかるシャム。驚くドム。二人はにらみ合い、そしてドムはうなだれた。
「お弁当!いつも奥さんの奴があるじゃないの!太るよ!」
そこまで言ってようやくシャムはドムの異変に気づいた。手にはたっぷりおかずとご飯の幕の内弁当。手にしていたかばんにはいつもの愛妻弁当の姿はなかった。
「いいだろ……俺の勝手だろ……」
「もしかして……」
「は?」
立ち上がったドムに泣き出さんばかりの表情で見つめるシャム。それを見てドムは呆然とするしかなかった。
「逃げられたのね!奥さんに!」
シャムの叫び声が響く。惣菜売り場で昼の食事や夜勤明けの朝食を探していた職員達の視線がシャムとドムに集中する。
「なっ……何を言い出すんだ!君は!」
「でも愛妻弁当じゃないじゃん」
「意味もわからず愛妻弁当とか言うんじゃない!」
「でも奥さんにいつもお弁当作ってもらってるじゃん」
そこまでシャムが言ったところでドムは幕の内弁当をかごに入れてため息をついてうつむいた。
「どうしたの?先生らしくもないよ」
シャムになだめられているという現実をまざまざと見せ付けられてドムはうつむいて再びため息をついた。