ナンバルゲニア・シャムラードの日常 2
「おう!シャムちゃんおはよう」
寝癖だらけの頭を掻きながらそう言ったのはこの店の亭主でありこれから市場に向かう予定の佐藤信二だった。まだ40手前だというのに妙に白髪が多いばかりでなく、最近はかなり老眼が早く進んでいて、かけているメガネを鼻の先に引っ掛けるようにしているので見た感じでは50を過ぎて見えた。
「おはよう……」
いまだ眠気と戦いつつシャムは食卓に腰を下ろした。両隣の椅子には主はいない。右隣の長男信一郎は今年高校受験ということで深夜まで勉強を続けていて今頃ようやく深い眠りについていることだろうそして……。
「お母さん!私のランドセルは?」
「昨日帰ってきてそのままじゃないの?本当に……」
ひょっこりと顔を出す長女の静香。小学校三年生だが小柄なシャムとほぼ同じ身長の彼女がトンとシャムの横に座った。
「朝に宿題って……いつも思うけど間に合うのか?」
「お父さん……人間の頭は朝のほうが情報を吸収しやすいの!だから朝に勉強するんだから」
屁理屈をこねながら母の和美から味噌汁を受け取る静香。その光景は今の時間が午前三時前ということを感じさせないものだった。
「それなら信一郎も朝に勉強すればいいのに」
「駄目よ。どうせ勉強せずにラジオを聴いているだけなんだから……お母さん味噌汁にまた納豆入れたでしょ!」
「そうよ、納豆汁だもの」
母の一言に顔をゆがめる静香。それを微笑みながら眺めて味噌汁をすするシャム。
「そう言えばお父さん!」
静香に突然声をかけられてしばらく呆然とする信二だがすぐに思い立って食卓に乗ったサバの味噌煮から箸を離すと立ち上がった。
「何?またお魚?」
「そうだ。実は品物にならない鮭をもらってきててさ。あの……グロ……テスク?」
「お父さん!グレゴリウス!グレゴリウス……で……えーと何世?」
部屋の隅から発泡スチロールに入った鮭を取り出す信二に静香が突っ込みを入れた。しかしそんな彼女もシャムが勤務している遼州同盟保安隊の隊長嵯峨惟基のとんでもないネーミングセンスについていくことはできなかった。