ナンバルゲニア・シャムラードの日常 16
朝焼けから朝の光へ変わる中でシャム達は黙々と草をむしり続けた。ハンガーの前ではシャム達の変わらない姿に飽きたのか、嵯峨の姿はすでになかった。
「隊長!」
遠くで呼ぶ声がしてマリアは腰を伸ばす。さすがに鍛えているだけあってまるで動じるところはない。周りの新入隊員が立ち上がったりしては腰を抑えている有様とは対照的だった。
「終わったのか?」
「ばっちりですよ。先週生まれた子ヤギも元気いっぱいです」
「それはいいな」
古参隊員の顔がほころぶ。自然とマリアも笑みを浮かべていた。
「シャム、すまないがうちの連中に食事を取らせたいんだが……」
「うん、そうだね。みんなありがとう!」
小学生のようなシャムに頭を下げられて新入隊員達はどうしていいかわからないように顔を見合わせていた。
「おい、中尉殿の謝意だぞ」
『こちらこそありがとうございます!』
外惑星コロニー出身者らしく時折発音がずれてはいるが日本語でシャムに敬礼する姿が展開された。
「またよろしくね!」
シャムの言葉に送られるようにして腰を押さえながら新入隊員達は畑を後にする。
「どうなるかねえ……あの連中」
その言葉とともに黒い塊がシャムの前に現れた。それは背中に吉田を乗せたグレゴリウス16世だった。
「大丈夫。みんな物覚えが早いから。すぐに慣れるよ」
「いやあ……畑仕事に慣れられてもこま……うわ!」
吉田の叫び声が響いたのはグレゴリウスが二本足で立ち上がったからだった。どかりとサイボーグが地面に落ちる音が響く。
「グレゴリウス!だめじゃないの!」
「わう!」
背中の吉田を振り落として軽くなったのがうれしいようでそのままシャムに近づいてくるグレゴリウス。その姿に苦笑いを浮かべながらシャムもまた歩み寄っていた。