ナンバルゲニア・シャムラードの日常 145
「アイツ等も進歩がねーな」
「それもええんとちゃいますか?」
呆れるランをたしなめるようにそう言うと明石は携帯を取り出した。
「なにか?タクシーでも呼ぶのか?ならアタシも乗せてけよ」
ランの注文に頷きつつ明石はつながった電話と話し始める。
「ごちそうさまでした!」
さっぱりした表情のパーラの礼。明石は軽く手を挙げる。サラもそれにあわせるように頭を下げそのまま駅の方に歩き始める。
「全く、女将さんには頭があがらねーや」
ランの苦笑いにシャムも自然と頭を下げていた。そこに急に現われるワンボックス。
「明石、先に失礼するな」
顔を出した吉田に電話を握ったまま明石が手を振った。シャムはそのまま車道に出てワンボックスの助手席に乗り込む。
「いいの?もう少しカウラちゃん達がどうなるかとか見て無くても……」
「餓鬼じゃないんだから自分でなんとかするだろ?」
吉田はそれだけ言うと車を走らせる。すでに深夜と呼べる時間だが繁華街を歩く人は多い。多くが頬を赤く染め、機嫌が良さそうに歩き回っている。
「平和だね」
シャムの言葉に吉田は静かに頷いた。すぐにアーケードは途切れ、シャッターの閉まった商店街の中へと車は進み、信号で止まる。
「それよりお前の所……静かに入れよな」
気を利かせたように吉田が言った言葉にシャムは頷く。今日はそれほど酔ってはいなかった。何となくいつも通りの一日。
車が走り出すと周りの景色が動き出す。花屋、金物屋、模型店。どれも光るのは看板だけでシャッターは閉まり繁華街のように人が出入りする様子もない。時々見かけるのは会社帰りのようなサラリーマンやOL。誰も彼も取り付かれたように早足でこの商店街から抜け出すように歩いている。
大通りが見えたところで吉田は車を路側帯に止めた。
「どうしたの?」
シャムの問いに弱々しげな笑みを浮かべる。吉田がこういう顔をするときは彼のネットと直結された脳髄になにがしかの情報が入力されていることを意味していた。
「なんでもないさ……私的な……本当に私的な通信だ」
それだけ言うと吉田はウィンカーを出して再び車を走らせた。