ナンバルゲニア・シャムラードの日常 135
「あそこに行くの?」
「できれば私は勘弁ね」
現役実働部隊長のランとそれを支援する本局の調整官の明石。その会話が相当高度でシャムに手に負えないものであることは間違いなかった。小難しい理屈をこねるのが好きなアイシャもどうせ捕まれば説教されることが分かるので近づく様子もない。
「まあ夜も長いのよ・・・と言うわけで」
アイシャはそう言うとビール瓶を手に持つ。シャムは照れながらグラスを差し出した。
「ほら、吉田さん。ちゃんとラベルは上でしょ?」
「そんなことどこで覚えたんだか・・・つまみが欲しいな」
「小夏!小夏!」
吉田のオーダーに答えてシャムがカウラとなにやらひそひそ話をしていた小夏を呼びつけた。小夏はと言えば突然のシャムの呼び出しにいつものように嫌な顔一つせずに飛び出してくる。
「何でしょう、師匠」
「俊平の・・・つまみは」
「エイひれで」
一言そう言ってビールを飲む吉田。小夏はと言えば元気にそのまま階段を駆け下りていく。
「小夏ちゃんとお話・・・珍しいのね」
アイシャは堅物のカウラの意外な光景に興味を引かれたように絡む。シャムが見た感じではアイシャはかなりよっているようで頬はすでに耳まで朱に染まっている。
「なんだ。私が小夏と話しているとおかしいことでもあるのか?」
カウラはそう言ってビールを傾ける。それでもアイシャのにやにやは止まらない。四つん這いでそのままカウラのそばまで這っていくとそのままカウラのポニーテールに手を伸ばす。
「止めろ!」
「なに?お嬢様?うぶなふりして・・・この!」
「クラウゼ。酔っているな貴様」
睨み付けるカウラにアイシャはとろけるような笑みを浮かべる。
「酔ってますよ・・・だって・・・ねえ」
「だってと言われても困るんだけど」
シャムは色気のあるアイシャの流し目を受けながらただ戸惑ってつぶやく。
「ひどいんだ!カウラちゃん。シャムったらひどいのよ!」
「お前の頭の中がひどいんだろ?」
呆れかえるカウラはそう言ってアイシャの肩を叩いて落ち着かせようとした。