ナンバルゲニア・シャムラードの日常 133
「『らくだ』って知ってる?」
突然のアイシャの言葉にしばらくシャムはあんぐりと口を開けた。
「『駱駝』?地球の砂漠にいる?」
「違うわよ。落語。まあなんて言うか……ブラックな話」
アイシャの言う『ブラック』な話はだいたいとんでもない展開を見せるものである。シャムの顔が引きつる。隣を見ればなぜか分かっていると言うように頷いている小夏がいた。
「小夏は知ってるの?」
「ええ、まあ嫌われ者の葬式を出す話ですよ」
「ああ、西園寺の葬式を出す話だな」
吉田の言葉にシャムは思わず要の方に目を遣った。明らかにシャムを睨み付けている要。シャムは頭を掻きながら得意げに話を続けようとするアイシャを遮った。
「まあ、いいから。この話は後でね!」
「ちぇっ!もう少し面白いところまで話したかったのに」
「何も話していないような気がするんですけど……」
「小夏ちゃん。何か言った?」
「別に……」
小夏を威圧した後はすっかり言いたいことを言ったと言う表情でアイシャはそのままカウラの肩に手を乗せて意味もなく笑っていた。
「変な人だとは思っていましたけど……やっぱり変な人ですね」
「ねえ、小夏。らくだってなに?」
シャムは尋ねるが小夏は答える気が無いというようにそのまま立ち上がると階段を駆け下りていく。
「俊平は知ってる?」
「落語は噺家から聞くものだ。俺が語ってもつまらないだけだよ」
そう言うと平然とビールを飲む吉田。シャムはただ呆然と話に取り残されたことだけを実感してエビを口の放り込む。
「なんやねん。渋い顔して」
声をかけてきたのは明石だった。ふと見るとランはなにやら携帯で話し込んでいる。ようは退屈しのぎにシャムをからかいに来たというところなのだろう。
「しかし……うまそうやな」
明石はそう言うと素手でシャムのエビ玉をちぎって口に放り込む。
「取らないでよ!」
「おっとすまん。ワシもこれを頼めばよかったんかもしれんな」
禿頭をなで回しながら明石はつぶやいた。