ナンバルゲニア・シャムラードの日常 132
またシャムはチャンスだと思った。誠は今度はシャムにビールを注ごうとしてくる。
「あのさあ……」
「誠ちゃん!私も」
シャムがグラスを差し出すところでタイミング良くアイシャが叫ぶ。
「はい!今行きますね!」
飛び跳ねるように誠はそのままビールを持ったままアイシャに向かって行く。
「また聞き損ねたか」
吉田の痛快という笑顔にシャムはエビをほおばりながらむっとした表情を浮かべて見せた。
「師匠!」
突然声をかけられて驚いてシャムは隣を見る。シャムよりも一見年上に見える中学生家村小夏。エプロンを着けたままいつものようにきっちりと正座をしている。
「どうしたのよ小夏。お仕事は?」
「はあ、菰田の野郎が自分がやるからって」
「あれだな、下にいるのはマリアだろ?おべんちゃらでも使ってうまいこと取り入ろうって魂胆だ。アイツらしいな」
吉田の言葉にシャムも何となく頷いた。
「それで小夏。どうするの?」
「今度のライブの件ですよ!ネタがまだできて無いじゃないですか」
「ライブのネタねえ……ずいぶん先じゃん」
シャムは考え込んだ。シャムと小夏はコントのコンビを組んでいる。時折ライブと称して近くの老人施設などの慰問をすることもあった。節分の次の週の日曜日にもその予定があった。考え込むシャム。
「最近はどつきネタばかりだって言われてるから……」
「まあどつかれるのは師匠なんですけどね」
小夏の合いの手に思わず頭を掻く。ネタ的にマンネリなのはシャムも感じていた。特に誠が転属してきてからはいろいろと事件が多くネタを仕込む時間もない。
「お困りのようね」
すいと二人の間にビールの瓶が差し出される。見上げてみれば満面の笑みのアイシャだった。
「いいアイディア……やっぱりいいや」
「なによ、シャムちゃん。ずいぶんつれないじゃないの」
すねるように大げさに首を振るアイシャ。こうなると手が付けられないのはシャムも十分承知している。
「じゃあ何かあるの?」
シャムがおそるおそる尋ねるとアイシャはいつものように不敵な笑みを浮かべた。