ナンバルゲニア・シャムラードの日常 124
「いやあ!女将さんにはかないませんなあ!」
快活に笑う明石。それを見てなぜかうれしそうに笑う誠。シャムは不思議に思っていた誠の少しだけの復活について聞いてみたい欲求に駆られて身を乗り出す。
「おう!ワシのおごりじゃ。好きなだけ食ってええで」
剛毅なところを見せようとふんぞり返る明石。それを見ながらランは呆れたような苦笑いを浮かべている。
「それじゃあボトルは?ボトル入れてもいいか!」
「いい訳あるかい!」
要に突っ込みを入れる明石。シャムは話を切り出すタイミングを失ってそのまま座布団に腰を下ろす。
「遅れました……」
それにあわせて入ってきたのは菰田とソン、それにどこか疲れた表情の岡部だった。
「おう、岡部!こっち来いや!」
末席に菰田達と一緒に座ろうとする岡部に向かって明石が叫ぶ。岡部は周りを見渡した後、どうやら自分が明石の接待をすることになりそうだと悟って少しばかり恥ずかしげに頭を掻きながらランの隣にまでやってくる。
「ずいぶん賑やかになりそうね。……小夏!突出しをあと三つ追加。それじゃあとりあえずビールでいいですわよね」
「ああ、頼みます」
すっかり場を仕切る明石。シャムはさらに岡部が揃ったことで誠のピッチングの件を切り出しやすくなったとタイミングを計っていた。
「おい、お前は何にする?」
そんなところに邪魔するように声をかけてくる吉田。シャムは少し感情が表に出そうになりながらそれも大人げないと少し首をひねった。
「豚玉も飽きてきたなあ……」
「あれ?オメエも飽きるとかあるのか?」
「失礼だな、要ちゃん。私も気分を変えたいときくらいあるんだよ!」
要の突っ込みに何となくシャムはムキになってメニューを覗いた。ちらりと見たそのお品書きにおすすめとして載っている太字の文字に自然とシャムの視線は引きつけられた。
「あれ?新エビ玉って?」
「さすがシャムちゃんね。新港のエビがシーズンなのよ。それでこの前源さんがたくさん仕入れてきたから試してみたらおいしくって……お勧めよ」
春子の口から出た『新港』の言葉に場が少しばかり不穏な空気に包まれた。