ナンバルゲニア・シャムラードの日常 116
「気にせんでええで!ええから続けんかい」
何とか立ち直った明石。誠はホッとしたようにボールを握り締めると岡部とのサインの交換を始めた。アイシャは別に変わった様子も無くただ眺めている。悠然としたその態度。シャムは今度こそ誠は打たれるような気がしてきていた。
何度か岡部のサインに首を振る誠。なかなか決まらない。
『誠ちゃん……動揺してる』
そんなシャムの思いが通じたのか、ようやくサインが決まると誠はセットした。
静かなモーションが始まる。じりじりと力をためていく誠の左腕。そして先ほどと同じような軌道で腕は動き、しなり、球が放たれる。
アイシャのスイング。バットの打撃音。
ボールはまた跳ね上がるとそのままハンガーの方へ向かう飛球となった。
「打ちそこなったー!」
悔しそうにアイシャが叫ぶ。岡部は球が高いと言うことを言いたいと言うように腕を振って誠に示す。
シャムが見てみるとハンガーの手前にはすでに着替えを済ませたランがボールを拾うとそれを持って真剣な目つきの要に向かって歩いてくる姿が見えた。
「タイミングは合ってるわよね」
「完全に打ちそこないでしょ」
シャムの言葉にサラが答える。それを聞いているだろう誠。再び要からボールを受け取るとしばらくじっとボールを見つめていた。
『今度はどうかな』
背中が小さく見え始めた誠を見ながらシャムはじっとグラブを抱えて睨みつけていた。
誠は再びサインの交換を始める。今度は一発でうなづく誠。
また投球動作が始まる。
『危ないな』
直感がシャムを駆け抜ける。アイシャは心持ちシャムとヤコブの守る一二塁間を見たような気がしていた。
ボールが放たれるがアイシャはバットを振らなかった。ワンバウンドのボールを岡部が体で止める。
『カーブが引っかかったのかな』
「何やっとんねん」
カウントするのも忘れたと言うように明石が叫ぶ。誠は苦笑いを浮かべながら岡部からボールを受け取った。
「早くしろよ!」
ベンチに腰掛けた小さく見えるランが叫んでいる。そんな上司にいかにも済まないと言うように誠はマウンドの上で頭を下げていた。
『余計なことを言うからな』
シャムは苦笑いを浮かべながらまた投球に集中しようとしている誠の顔を見つめていた。