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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 111

 静かにカウラはバッターボックスに入った。右打席でじっとマウンド上でうつむいている誠をにらみつけていた。シャムは黙ってセカンドの守備位置から二人を見ていた。見た限りでは誠に変化は無い。


 ようやく落ち着いたように誠は長身を折り曲げるとキャッチャーの岡部の顔を覗き込むように見つめていた。何度か首を振り。そして構える。


『あれ?』 


 ここでシャムは少し感覚的にいつもの誠ではない誠をそこに見た。明らかに力が抜けている。ゆっくりとしたモーション。


 いつもよりそれは大きく見えた。


 しなる様な左腕がボールを話した瞬間。カウラの表情は意外なものを見たというように変わった。


「ストライーク!」 


 明石が叫ぶ。シャムから見るとそれはどう見ても打ちごろの高めの直球。だがカウラは手を出せずにいた。岡部から白球を受け取った誠は今度は確実に落ち着いていた。


 シャムにはまだなんで誠の球にカウラが手を出せずにいたか分からなかった。しかし今の誠の少し安心した様子を見ると次もカウラはヒット性の打球は打てないだろうと確信した。


 再び誠が構える。明らかにゆったりと構えていて盗塁が得意なシャムがランナーなら絶対に走りたくなる姿だった。


 投球に移る動きも明らかに以前よりゆっくりとしている。そして誠の左腕が引き絞られた弓のように方の後ろに回ったときから急激な動きの変化を見せる。


 しなった左腕、それに合わせるようにカウラがスイングする。


「ファールボール!」 


 明石の叫び声が響いた。振り遅れたバットに当たった打球がそのままグラウンドから部隊のゲートに向けて転がっていく。


 不思議なことがある。そんな感じでカウラが首をひねっている。シャムにも比較的緩急のあるピッチャーを得意とするカウラが明らかに振り遅れていることに疑問を感じていた。


 だが誠は淡々とボールを手にするとすぐに岡部にサインを要求する。今度は一発でうなづく。


『スライダーかな?』 


 シャムはそう思いながら振りかぶる誠を見つめていた。シャムの勘は外れた。


「ストライーク!バッターアウト!」 


 明石のジャッジ。インコースをえぐるような速球にカウラが手を出せずに立ち尽くしていた。誠は別に誇ることも無く帽子を脱いでカウラに頭を下げる。カウラはそんな誠の方を一瞥すると参ったというように要が立っているハンガー前のベンチへと向かう。


「ナンバルゲニア!」 


 アンパイアーの明石が叫んだ。ベンチの近くでヘルメットを置いたカウラがグラブを持ってセカンドの守備位置に走ってきていた。


 シャムはそれを見るといつもと変わらない誠を不思議そうに眺めながら要のところにあるヘルメットを取りに走った。



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