ナンバルゲニア・シャムラードの日常 110
「ラビン。やっぱり一塁は辛いか?」
明石の言葉にしばらく躊躇した後、ヤコブはおずおずとうなづいた。
「そやけどなあ、あと左利きはうちは神前しかおらへんのや。練習したら取れるようになる。ええか?自分を信じや」
「はい」
ヤコブが少しばかり笑顔を浮かべたのを確認すると今度は要に向き直った。
「神前な。ここにおる全員に投げたい、言いおんねん。試してみてもええか?」
「は?」
しばらく要は明石の言葉の意味が分からないと言うように立ち尽くした。自然とその目は誠に向く。誠は逃げるわけでもないがいつものように自信がなさそうにうなづく。
「いいんじゃねえの?まあそんな急に変わるもんじゃねえと思うけど・・・」
要の言葉。シャムの同意せざるを得なかった。フォームの調整をしたにしては時間が短すぎる。気持ちの切り替えと言うが、誠にそんなことができるわけが無い。
シャムがアイシャを見上げてみると彼女も同じことを考えているようだった。
「どう言う形式でやりますか?」
「そやな……とりあえずバッターは島田……島田は?」
「作業中です」
言い切るカウラ。すぐに納得したと言うように明石はカウラを見下ろすとにんまりと笑った。
「じゃあ、ベルガーと……ナンバルゲニア。最後はクラウゼや。それでええな」
いかにも得意げに明石がつぶやく。それを確認すると要は大きくうなづいた。
「それじゃあそれぞれ守備位置に……それとアイツ等」
要は外野で延々と遠投を続けている菰田達を指差す。
「守らせればいいのね」
そう言うとサラは分かったと言うように外野に走る。
「じゃあ最初は普通の守備陣形で……ヤコブ。ちゃんと取ってね」
シャムの言葉にヤコブがおずおずとうなづく。そのままシャム達はそれぞれの守備位置についた。
そこでシャムには意外な出来事が目の前に起きた。シャムはキャッチャーは明石がやると思っていた。だが座ったのは岡部。明石は当然のようにアンパイアの位置に立ってマウンドに上がる誠を見つめている。
『どうなるんだろ?』
バットを短く構えてスイングを繰り返しているカウラを見ながら次の状況がどうなるかはらはらしながら眺めていた。