ナンバルゲニア・シャムラードの日常 107
シャムとサラはその誠の後姿を眺めていた。
明らかに自信はそこには無かった。186cmの長身がどこと無く小さく見える。マスクを付けてすでに構えを始めている明石。だが明らかに誠は投げたくないというようにしばらく手にしたボールを弄っていた。
「はよ投げんかいな」
そんな明石の声でようやく誠はセットに入る。
「構えが小さく見えるね」
シャムはサラに思わずそう言っていた。サラもうなづく。都市対抗の予選の第一戦の時に見たどこと無くおびえた誠の姿がそこにあった。
振りかぶる。その動きはかつての誠と違いは無いように見える。だがシャムにはこのピッチャーなら打てるというような直感が働くモーションだった。
左腕がしなりボールが放たれ、ストレートが明石のミットにズバリと収まる。
「ああ、とりあえずキャッチボールからしようや」
ボールを投げ返しながらの明石の言葉。誠はまるで責苦から開放されたとでも言うようにそのままマスクを投げ捨てた明石に続いてマウンドを降りていった。
「やっぱり重症かな」
シャムはそう言うとサラにボールをトスした。突然のことだがさすがに人造人間で反射神経に優れているサラは何とかそのボールを受け取った。
「どうしてああなっちゃったのかなあ……」
サラが下がりながらボールをシャムに投げる。シャムはただ首を振るだけ。
シャムも誠の不調は受けるのが岡部に変わったからだと思っていた。しかし肩が温まってはいないとはいえ、マウンドに上がる時点で誠の投球には期待ができないのが見て取れたところからそれが原因でないことは明らかにわかった。
「たぶん本人も分かってないんじゃないかな、原因は。今までは岡部さんのリードと相性が悪いからだと思っていただろうけど……あれほどびくびくして投げてるなんて……」
サラはシャムからのボールを受け取りながらつぶやく。
すでに日は西に沈んでいた。照明の明かりだけがグラウンドに光をともしている。
「おーい、内野の面子は集まれ!」
ホームベースにはいつの間にかバットを持った要が立っていた。彼女の隣には箱が置かれている。
「ノックだね」
シャムはそう言うとそのまま要のところに走り出した。
まずサラとシャムが集まる。そして嵯峨の代わりにファーストの守備を担当する警備部の工兵のヤコブ・ラビン伍長がたどり着いた。
「他の面子は?」
いらだっている要の声に三人は顔を見合わせる。
「ごめーん!」
タイミングを計ったようにグラウンドにかけてくるのは三塁手であるアイシャだった。