ナンバルゲニア・シャムラードの日常 100
キーボードを叩く音が部屋に響き渡る。沈黙。あまりこう言う状況が好きではないシャムだが自分からこの沈黙を破るほどの勇気もない。
事実見上げる吉田の顔は真剣だった。機械はまるで駄目なシャムはこう言うことはすべて吉田に任せている。そして吉田は常にシャムの期待に答えてきた。
『今回もいいのができるかな』
微笑んだシャムだがその瞬間に部屋の沈黙が破られた。
「ったく……あの糞中年が!」
忌々しげに悪態をつきながらの要の登場。部屋の中の全員の視線が彼女に集中する。
「な……なんだよ」
少しひるんだ要だが、その視線の中にシャムを見つけるとそのまま彼女のところに向かってきた。
「おい、シャム。叔父貴がお呼びだとよ」
「隊長が?」
シャムは怪訝そうな顔で不機嫌の極地という要を見つめた。
「おう、あのおっさんすっかり練習に出る気でいたみたいでさ。ユニフォーム着て屈伸してやがった。もう来なくて良いよって言ったら泣きそうな顔しやがって……まるでアタシが決めたみたいじゃねえか」
「あれか?隊長の法術封印効かなくて試合に出れないことをまだ根に持ってんのか?でもよー、良いじゃねーか。練習くらい出してやれよ」
シャムに言いたいことを言って気が済んだように自分の席に戻る要にランがなだめるような声をかける。
「あのおっさんはサボりたいだけなんだよ。もし叔父貴が練習しているところを司法局の本局の連中に見つかってみろ。今度こそ廃部だぞ」
確かに要の言う通りなのでランは仕方なくうなづくとそのまま自分の仕事を再開した。
シャムや誠などの野球部の面々は試合中は試合の公正を計るため、鉢巻のような法術封印をつけてゲームに参加することになる。その繊維の中に埋め込まれた転移式ベーター派遮断装置のおかげでそれをつけている間は法術の使用はほとんどできない状態になる。
普通の法術師の場合はそれでよかったが嵯峨にはそれの効果が薄かった。法力のキャパシティもそうだが、彼は先の大戦で戦争犯罪人として死刑判決を受けたあと、実験体として法術の解明のためにアメリカ陸軍のネバダの砂漠で各種の実験に供された経歴があった。
その際に無理やりそれまで施されていた封印を解かれた副作用で法術のコントロールが不完全だと言うのがシャムがヨハンから受けた嵯峨の法術封印ができない理由だった。
「まあ……いいか。アタシ、行って来るね」
「行って来い」
ランの力ない声に押されて立ち上がったシャムはそのまま詰め所から廊下へと出た。