ナンバルゲニア・シャムラードの日常 1
遼州同盟司法局実働部隊、通称『保安隊』第一小隊一番機担当、ナンバルゲニア・シャムラード中尉の朝は早い。
「おはよう……」
誰もいない六畳間にシャムの声が響く。冬の朝三時。当然のことながら朝日などはまだまだで、部屋は冷気と暗さの中。それでもシャムはもぞもぞと起き出す。
「アルマジロは寝てていいよ」
布団の中には地球の南米に生息する哺乳類であるアルマジロではなく『アルマジロ』と彼女が名付けたサバトラ模様の猫がまどろんでいた。ちなみに彼女の故郷、遼州星系第三惑星『遼州』の遼南共和国ではそこにすむ大型のアルマジロを『猫』と呼ぶ習慣があった。そのため彼女の飼った猫の名前はすべからく『アルマジロ』だった。
そんな彼女は布団から這い出すと畳の上を四足で歩いてそのまま箪笥までやってきた。二番目の棚に手を伸ばすとそのまま着ていたジャージを脱ぎ始める。
「眠い……」
寝ぼけ眼で近くにぶら下がっていた電気の紐を引っ張ると、暗い六畳間は一気に明るくなる。それでも相変わらずのんびりとしたペースで彼女はまず裸の上半身。ほとんどない胸にブラジャーをつけることからはじめた。だが小柄でぺったんこな胸にブラジャーを着けるのは無理矢理布を巻き付けるような形だった。そしてそのままその上の引き出しからシャツを取り出しすばやく頭を入れた。
「む……」
しばらく寝ぼけたように頭を振りながらシャツに頭を通すと回りを見回す。特に何も変わったところはない。外では何かを恫喝するように犬が吼えていた。いつものことなので気にもかけずにあくびをした後、シャムは今度はその上の引き出しを引っ張って中からジーパンを取り出してよたよたしながら履いてみた。
「眠い……」
相変わらず眠そうなシャム。だが自然とその手は隣のクローゼットから美少女戦隊モノのヒロインがプリントされた厚手のシャツに伸びていた。そのまま再びのろのろとそれを着込む。そしてようやく気分が出てきたというように自分の頬を叩いて気合を入れると天井を見上げて意識を集中させた。
「シャムちゃん!」
階下から彼女を呼ぶ声が響いた。シャムが下宿しているのは商店街の魚屋の二階の一部屋。大家の店主が仕入れに出かける今の時間に起きるのはいつものことだった。シャムはシャツの上にセーターを着込むと周りを確認する。
「ご飯よ!」
「今行きます!」
おばさんらしい声になんとなく答えるとシャムはそのまま自分の部屋から廊下へと歩き出した。