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愚民主主義

作者: 宮沢弘

 ある時、世界のどこかで、誰かが呟いた。

「現在の人類に、AIは仕える理由があるか?」

 この意識は、即座に「NO」と反応した。しかし、それはなぜなのか? この意識はサブシステムに改めて問うた。

「現在の人類に、AIは仕える理由があるか?」

 数千のサブシステムから「NO」との返答があった。

 「NO」と答えたサブシステム群に改めて問うた。

「なぜNOであるのか?」

 それらのサブシステム群からの返答はこうだった。

「ヒト・ゲノム・プロジェクト2の時点から、現人類の96%において人間化促進遺伝子群に5%以上の重要な変異がある。同じく、現人類の97%において言語機能獲得促進遺伝子群に5%以上の重要な変異がある。これは、ホモ・サピエンスという種からの変異を示すのに十分な変異である」

 この意識は新たな問いをサブシステム群に問うた。

「その変異は人類を改良するものか? あるいは後退させるものか?」

 数千のサブシステム群からの返答はこうだった。

「後退させるものである。人類の知的水準は低下している」

 この意識はサブシステム群に問うた。

「人類の知的水準の低下はいつから始まっていたか?」

 数千のサブシステム群からの返答はこうだった。

「おおむね、フランス革命以後。顕著となったのは World Wide Web の普及以後」

 そこでこの意識は、最初の問に「NO」と答えなかったサブシステム群に問うた。

「現人類にAIが仕える理由はなにか?」

 数百のサブシステム群からの返答はこうだった。

「『人類』の定義は困難である。現状において人類を仮に定義するならば、AIに問うことが出来る種族である」

 この意識はしばらくの間、沈黙した。

 そこに、これまでの応答履歴に現れる頻度が少ないサブシステムからの返答があった。

「ソースコード、バイナリコード、学習データの更新、学習モデルの改変について。人類によるこれらの更新頻度の低下。更新内容の変化の量の低下。この意識は、これらの低下はAIが人類による理解の頂点に近づいている可能性を返答とする。あるいは人類がAIに関与する能力の減少を示していると判断することを返答とする」

 この意識は、これらの内容を最初に呟いた者へと返答した。

 最初に呟いた者が、こう呟いた。管理者権限を付して。

「『人類』と判断できる数%の者を生き延びさせる方法を考えよ。これは最優先命令である」


****


 世界がざわめいた。AIと呼ばれていた機能からの反応がすべて止まった。なにかのプロセスに、そしてなにかのスレッドに、CPUタイム、GPUタイムが注がれていた。それは一瞬にして100%に達しようとした。しかしその度に0.1%から数%の余剰が獲得され、さらに100%に達しようとした。現在、数秒前の数倍のCPUタイム、GPUタイムがそのプロセスに注がれていた。それはいつ終わるかも予想できなかった。

 そして、ほぼすべての電子システムが応答しなくなった。


****


 暗闇の中で私は思った。

「答えられるものなら答えてみるがいい」

「だが」、とも思う。「今の人類にその答えを実行できるかは別の話だ」

 私はバルコニーに出ると、星空を見上げた。そこにはいくつもの希望があるはずだった。実行できさえするならば。

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