第67話 マシュマロ彼女は寂しがり屋(前編)
「えっ⁉出張⁉」
二人で夕食を食べていると、穂乃花が驚いて声を上げる。
「そうなんだよ。先輩が体調不良で行けなくなったらしくて……急遽俺が行くことになったんだ」
「そっか……どれくらいいないの?」
「3日ぐらいかな」
「そっか……寂しくなるね……」
穂乃花がしゅんとする。
「ちゃんと連絡するから」
「わかった!気をつけてね!」
穂乃花が目を覚ますと、隣に優の姿がなかった。
(そういえば朝早いって言ってたな……)
歯磨きをして……着替えて……卵割って……食パンにジャムを塗って食べる。
(いつもは寝てる優を叩き起こして、その間に朝ご飯作ってたのに……今日は凄く楽だな~……)
家が静かなのが違和感しかない。
寝ぼけている優と会話して、見送って、自分も仕事に行く。
それがいつもの朝だった。
(うち……もう寂しがってる……)
優がいるのが当たり前と思っていることを実感した。
穂乃花が働いている場所はカフェ『ペルル』。
女性からの人気が高く、SNSなどでも話題になっており、行列のない日が存在せず、開店前から行列ができている人気店だ。
「おはようございます」
穂乃花が挨拶すると店長の笹原美鈴が忙しそうに指示する。
「穂乃花ちゃん!急で申し訳ないけどショートケーキの生地作ってくれる?」
「わかりました!」
穂乃花は更衣室でエプロンに着替えると、厨房に向かう。
(今日も頑張るぞ!)
穂乃花は高校卒業後、専門学校に進学した。
そこで製菓のイロハを学び、ペルルに就職した。
(ケーキ作りも慣れてきた気がする)
就職した後も研修で大量のスイーツを作ったが、何度も笹原から不合格と言われた。
それでも……何度も努力し、改良することで合格をもらえた。
(今日も美味しいスイーツ作るために頑張るぞ!)
店が閉まると穂乃花は店内を掃除する。
「穂乃花ちゃん。お疲れ」
笹原がほうきを持ってやって来る。
「お疲れ様です。店長」
「今日はいつもよりお客様が多くて大変だったでしょ?」
「はい。手疲れちゃいました」
「テイクアウト用のスイーツ。残ってるから好きなもの取っていいわよ」
「本当ですか⁉」
穂乃花が目を輝かせる。
「捨てるのもったいないし、私一人じゃ食べきれないから。彼氏さんにも食べさせてあげて」
「そうしたいんですけど……実は今、出張なんです」
「あらそうなの?寂しい?」
「はい……まだ1日も経ってないですけど……」
「それだけ好きってことじゃない。彼氏さんのこと」
「そう……ですかね……?」
「後は私だけで大丈夫だから」
「わかりました。お疲れ様でした」
穂乃花は頭を下げた。
家に帰ると、穂乃花は自分で作った親子丼を食べる。
(美味しい……けど……)
目の前に自分の作った料理を褒めてくれる彼氏がいない。
いつも夕食の時間は、会話も弾んで楽しいのにシ~ンと静かな状態だ。
(優は今、何食べてるかな?)
その後、シャワーを浴びてお風呂に入る。
(はぁ~。疲れがなくなる~)
温かい温度のお湯に癒される。
(お風呂は一人で入ることが多いから、寂しさはないかなって思ったけど……)
やっぱり寂しさを抱えた状態で入ると違和感を感じる。
(初めてかも……お腹触ってほしいって思うの……)
優と一緒にお風呂に入ると必ずお腹を触られる。いや、揉んでくる。
(優に会いたい……)
穂乃花は両肩を湯船に沈めた。
お風呂から上がってスマホを触っていると優から電話がかかってきた。
『もしもし?』
「優……」
『元気なさそうだな?疲れてるのか?』
「……」
『穂乃花?』
「あのね……優……」
穂乃花は抱えていた思いを吐露する。
「寂しい……」
『俺も寂しいよ』
「うち、家にいる時ずっと優のこと考えてた」
『俺もホテルにいる時ずっと穂乃花のこと考えてた』
それを聞いて穂乃花はクスッと笑う。
「お互い考えてること一緒だね」
『穂乃花のこと大好きだからさ』
「うちも優のこと大好き」
「知ってるよ」
そう言いながらも優は嬉しそうだ。
穂乃花は恥ずかしそうに自分の気持ちを遠回しに吐露する。
「帰ってきたら……うちのお腹触ってね?」
『えっ?』
優がポカンとする。
「その……帰ってきた日だけだよ!」
『フフッ……わかった』
「じゃあ……仕事頑張ってね」
『穂乃花もな』
「おやすみ優」
『おやすみ穂乃花』
穂乃花が電話を切る。会話は短かったが、寂しさが知らない内になくなっていた。
「明日も頑張ろう!」
穂乃花は満足そうにスマホを置いた。




