第43話 マシュマロ彼女の恋敵への思い
「優!起きて!」
「うん?」
優が目を開けると穂乃花が立っていた。
「朝練遅刻するよ?」
「穂乃花……抱き枕になって?」
「……5分だけだよ」
穂乃花がベッドに寝転がると優が抱きしめる。
「穂乃花……柔らかい……」
「……」
穂乃花は顔を真っ赤にして耐える。
昨日、あんなことしてから優といるとドキドキする。
「優……5分経ったよ?」
「嫌だ……」
「どれだけ眠いのよ……」
「眠くないよ。とっくに目が覚めてる」
「じゃあなんで起きないのよ?」
優が穂乃花をギュッと抱きしめる。
「ずっとこうしていたいんだけど……ダメか?」
「!!!」
「それとも朝練休んで……するか?」
「えっと……」
「もしかして迷ってる?」
「ま、迷ってないもん!」
「じゃあどうする?」
「……じゃあ……」
休み時間、優は机に倒れた。
「疲れた~」
「まだ1時間目だぞ」
「こっちは朝練を無断欠席したせいで監督に怒られたんだよ」
「なんで休んだんだ?」
「……秘密だ」
(雪宮とイチャイチャしたせいだろうな~)
同じ頃、穂乃花は美咲に怒られていた。
「なんで今日の朝練休んだの?」
「寝坊しちゃって……」
「本当?」
「うん……」
「山城とイチャついてたからじゃないでしょうね?」
穂乃花がピクッと反応する。
「そ、そんなことないよ!」
「ふ~ん……」
図星だろうな。そう思った美咲であった。
放課後、優が投球練習をしていると呼び出しがかかった。
『野球部2年山城、雪宮、濱野。野球部2年山城、雪宮、濱野。至急、生活指導室に来なさい』
「何だろう?」
「とりあえず行ってみよっか」
「そうだな」
三人が生活指導室に行くと空と紗也華が立っていた。
「秋風先輩……」
「久しぶりだね。山城君、穂乃花ちゃん、美咲ちゃん」
「どうしてここに?」
「紗也華が明日から登校するからね。その手続きとか色々あって」
空が紗也華の方を見る。
「何か言うことがあるんじゃないか?」
「……皆さん。この度は傷つけてしまって申し訳ありませんでした」
紗也華が頭を下げる。
「特に山城先輩と雪宮先輩にはたくさんひどいことを言ってしまいました……本当にすみませんでした……」
「擁護するわけではないが紗也華は彼氏に浮気され、振られた過去があったんだ。
だから好きな人に自分を好きになってもらうためならどんな手を使ってでも自分の彼氏にするという考えになったらしい」
「先輩たちが嫌ならマネージャーを辞めるつもりですが……続けさせてくれないでしょうか?これから仕事に徹することで、少しでも償いができればと思っています。
信頼を取り戻すには時間がかかるのは分かっています。それでも……もう一度だけ、チャンスをいただけませんか?」
紗也華の声は震えていたが、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。
「……」
優と穂乃花が顔を見合わせる。
「私は嫌よ」
美咲が口を開く。
「ちょっと美咲……」
「だって私は濡れ衣を着せられたのよ?そのせいで色々言われたんだから!」
「……」
紗也華は俯いている。
「あんたたちも復縁できなかったかもしれないのよ⁉」
「それはそうだけど……」
「あんたたちも嫌でしょ?」
「……俺は嫌じゃないよ」
優が口を開く。
「マネージャーに残ったら紗也華ちゃんが色々言われるんじゃないかっていう心配の方が強いかな」
「うちも優と同じ意見かな」
「はぁ⁉なんでそんなこと考えられるの⁉」
「確かに俺たちは紗也華ちゃんのせいで別れることになったし、このまま思い通りに進んでいたら復縁もできなかったかもしれない。
でも紗也華ちゃんはマネージャーの仕事を真面目にやっていた。ユニフォームの洗濯も……おにぎり作りも……皆のトレーニング管理も……
大変な仕事なのに一生懸命に頑張っていた。それだけは紛れもない事実だよ」
「……!」
「それもあんたへのアピールだったかもしれないじゃない!」
「俺はそうは思わない。紗也華ちゃんはマネージャーの仕事をするときは誰にでも平等に接していたから」
優は紗也華に歩み寄る。
「紗也華ちゃんがよかったらこれからもマネージャーとして俺たちをサポートしてほしい」
「うちからもお願い。美咲とだと大変だからさ」
「……怒ってないんですか?」
「全部何とかなったからもう怒る理由がないでしょ?」
優が微笑む。
「美咲はどう?嫌?」
「……勝手にすれば!」
美咲は顔を逸らす。
「ありがとう皆。改めて妹が迷惑かけてすまなかった」
空が頭を下げる。
「顔を上げてくださいよ先輩」
「うちらは大丈夫ですから」
紗也華は二人の暖かい返事に涙を流した。
「先輩……本当にすみませんでした……」
「大丈夫だから泣かないで」
穂乃花はハンカチで紗也華の涙を拭った。
翌日の朝練から紗也華はマネージャーに復帰した。
「辞めないのかよ。優たちにあんな酷いことしたのに」
「可愛いと思ったのに……女ってやっぱり見た目で判断したらダメだな」
「……」
紗也華は黙って耐える。こうなることは分かっていたのだから。
そう思っていると和夫が話していた部員に話しかけた。
「その話は解決したから紗也華さんを責めないでくれって山城先輩に言われたの忘れましたか?」
「でもよ……」
「サボっていること監督に言いつけますよ?」
「……行こうぜ」
部員たちが練習に向かう。
「……ありがとう」
「いえいえ。復帰してくれてよかったです!それじゃあ僕も練習に行きますね!」
紗也華が練習に向かう和夫の背中を見つめる。
「……私も頑張らないと」
紗也華は段ボールを持ち、運び始めた。




