第35話 マシュマロ彼女の嫉妬
日曜日。野球部の面々がグラウンドでランニングしていた。
「皆さ~ん。頑張ってくださ~い!」
紗也華がメガホンで応援する。
「今のうちに私たちも準備しましょうか」
「紗也華ちゃん。おにぎり作るの手伝ってくれる?」
「はい!」
炊飯器で炊いた白米をラップの上に乗せて、握り始める。
「熱っ!先輩たちよく握れますね」
「まぁ一年間やってたらね」
「うちらも最初は大変だったね」
「これ何個作ればいいんですか?」
「一人三個で部員は26人だから……大体78個かな?」
「えぇ⁉」
昼休憩に入り、野球部員たちがマネージャーからおにぎりを受け取る。
「美味ぇ!」
「塩が疲れた体に効くな~」
「この後も頑張るか~!」
穂乃花がおにぎりを持って優のところに行こうとすると真っ先に紗也華が優にかけ寄る。
「先輩!おにぎりです!」
「ありがとう」
素直におにぎりを受け取る優に穂乃花は頬を膨らませる。
(なんで紗也華ちゃんのを受け取るのよ……)
「どうですか先輩?」
「美味しいよ。塩もちょうどいいし、形もしっかりしてるし」
「本当ですか?よかったです!」
優に褒められて嬉しそうだ。
(いいもん……このおにぎりはうちが食べるもん……)
練習を再開し、優がピッチング練習をしていると喉が渇いてきて、水筒に入った水を飲む。
(あっ……水なくなった)
給水所に移動しようとする優に穂乃花が近づく。
「優。水ならうちが……」
「先輩!水なら私が入れますよ」
「いやいいよ。水ぐらい自分で……」
「いえいえ!こういう時こそマネージャーを頼ってください!」
「じゃあ……お願いしてもいい?」
「はい!」
紗也華が水筒を受け取り、給水所に向かう。
それを見た穂乃花は再び頬を膨らませた。
練習が終わり、優が荷物を片付けていると穂乃花が帰ろうとしていた。
「穂乃花?先に帰るのか?」
「……ふん!」
穂乃花は不機嫌そうに帰って行く。
(あれ?俺なんかしたっけ?)
「先輩!」
紗也華がやって来る。
「今日一緒に帰りませんか?」
まぁ穂乃花も帰ったし……
「いいよ」
「やった!」
優がリュックを背負って帰ろうとすると美咲に呼び止められた。
「山城!監督が呼んでる!」
「ごめん。長くなりそうだから先に帰ってて」
「待ちますよ?」
「それは申し訳ないよ。じゃあまた明日!」
「ちょっと……!」
優は美咲の方に向かった。
「で?監督はどこにいるんだ?」
「いないわよ」
「え?じゃあなんで……」
美咲はため息をついて話す。
「ねぇ。あんた本当に穂乃花のこと好きなの?」
「当たり前だろ!」
「じゃああの子と距離を取りなさいよ」
「あの子って……紗也華ちゃん?」
「そうよ。あの子まだ山城のこと諦めてないわよ」
「そんなことないだろ。付き合ってるって言ってるし」
「じゃあ穂乃花と秋風先輩が付き合ってたらあんたは簡単に諦められるの?」
「それは……」
「それに穂乃花も山城と紗也華ちゃんが話してるところ見て嫉妬してたわよ」
「そっか……」
「喋るなとは言わないけど、ある程度距離を取りなさいよ」
「わかった」
翌日。朝練が終わり、優が教室に戻ろうとすると紗也華が話しかける。
「先輩!今日お昼一緒に食べませんか?」
「悪い。お昼は穂乃花と食べる約束してるから」
「じゃあ明日の……」
「紗也華ちゃん。申し訳ないけど俺は紗也華ちゃんの気持ちに答えられないんだ。だから俺と距離を取ってくれないか?」
「……」
紗也華が黙ってしまう。
(言い過ぎたかな……)
「わかりました!すみません。先輩の迷惑になっちゃって」
「いや、迷惑ではないよ。でも次から気をつけてね」
「はい!」
紗也華が教室に戻って行くと背後から美咲が話しかけた。
「次からは気をつけなさいよ?」
「あぁ」
「ちなみにあんた朝は穂乃花に起こしてもらえたの?」
「うん。気づいたら上に乗られてたよ」
―――「優。起きて」
「……来てくれたんだ」
「うち以外に誰が優を起こせるのよ?」
優は起き上がると穂乃花に抱きつく。
「ごめん穂乃花。ちょっと紗也華ちゃんと距離近すぎた」
「……ちょっとじゃないでしょ」
「これからは気をつける」
「本当かな?」
穂乃花は疑い深い表情で優を見つめる。
「ということで5分だけ抱き枕になってくれ」
「えぇ……」




