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マシュマロが好き  作者: 鵲三笠
第一部

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第32.5話 第一部まとめ読み

第一部全話をまとめましたのでお楽しみください。




『マシュマロ幼馴染の好きな人』


最近、野球部に入部した山城優やましろゆうはグラウンドでピッチング練習をしていた。


「ナイス!いい球だぞ!」

「ありがとうございます!」


優は再び投げる体制に入る。


(レギュラーに選ばれてあいつにカッコイイところを見せるんだ!)


優は幼馴染への想いを胸に球を投げた。



「優~!起きて!」

「うん?」


優が目を開けると幼馴染の雪宮穂乃花ゆきみやほのかがいた。


「朝練遅れちゃうよ?」

「あと5分だけ……」

「起きないと必殺技使っちゃうぞ~」


寝ている優に穂乃花の重い体が乗っかる。


「重い!潰れる!」

「重いって何よ!ちょっと肉づきがいいだけだもん!」

「よすぎるにも程があるだろ!」

「早く起きて!」

「わかった起きるから!」



「おはよう優」

「母さん!穂乃花を部屋に入れるのはやめてくれよ!」

「起こしてくれるんだからいいじゃない」

「母さんが起こしてよ!」

「起こしてもあんた起きないでしょ。早く歯磨きして朝ごはん食べなさい!」

「わかったよ」


優は洗面所に向かい、歯磨きをする。


「穂乃花ちゃんもいつもごめんね」

「いえいえ!優を起こせるのはうちだけなんで!」

「是非とも穂乃花ちゃんが優のお嫁さんになってほしいわ」

「それはちょっと……」

「あらごめんなさい!一人で早起きできないような人と結婚しても嫌よね!」

「あはは……」

「ほら優!さっさと食べなさい!穂乃花ちゃん待たせてるわよ!」

「わかってるって!」



その後、優は何とか朝練に間に合いひたすら練習、練習、練習。

やがて、登校時間になり朝練が終了。

優は更衣室でユニフォームから制服に着替えて、教室に入る。


「おはよう」

「おはよう優!野球部は大変だな」


優の後ろの席に座っているのが親友の前田咲人まえださきと。優の親友だ。


「ヤバい。眠すぎる……」

「おいおい。まだホームルームすら始まっていないぞ」

「無理矢理起こされて……朝練に参加して……」

「幼馴染のモーニングコールがあったんだろ?よかったじゃないか」

「よくないよ……起こされるのはマジで勘弁してほしい」


ちなみに咲人は優が穂乃花のことが好きなのを知っている。

正確に言えば知られてしまったのだが。


「そういえば聞いたか。サッカー部の六皇子先輩また告白されたみたいだぞ」

「マジか。やっぱりイケメンはすごいよな~。で?付き合ったの?」

「いや、断ったみたいだ。なんでも好きな人がいるらしい」

「そうか~。六皇子先輩にも好きな人いるんだな~」

「お前も頑張れよ」

「何をだよ」

「告白だよ。しないのか?」

「俺が告白するのは甲子園出場してからって決まってるんだよ」

「そんなロマンチックな雰囲気いるかな?」

「いるよ!かっこいいだろ!」

「そうかな?好きだったら今告白しろって俺は思うけどね」

「お前な……」


それが難しいんだよ!という言葉をグッと堪えた。



昼休み。穂乃花が教室にやってきた。


「優~!一緒にご飯食べに行こう~!」

「ほら。大好きな幼馴染がお呼びだぞ」

「うるせぇ!」


優は教室を出る。


「優。ポテト奢って!」

「なんでだよ」

「私が起こさないと遅刻してたよ?」

「ちゃんと時間通り起きれていたよ」

「本当かな?」


優はきつねうどん、穂乃花はカツ丼定食(ご飯大盛)を頼んだ。


「いただきま~す!」

「よく食べれるな。その量……」

「優が少食なのよ。美味しい~!幸せだよ~!」


穂乃花が美味しくご飯を食べているのを見ると元気が出る。


(今日も癒されるな~)

「あのね……相談したいことがあるんだけど……」

「何?」

「その……うちね、好きな人がいるんだ……」


優は思わず、箸で掴んでいた油揚げを落としてしまった。


「へぇ……そうなんだ……ちなみにその好きな人って……?」

「誰にも言わないでよ……」


穂乃花がもじもじしながら名前を言った。


「秋風……先輩……」

(なん、だと⁉)


穂乃花が言った秋風先輩とは本名『秋風空あきかぜそら』。

野球部のキャプテンで文武両道のイケメン。俺とはかけ離れている存在だ。


「お願い優!うちと秋風先輩が付き合えるように協力してほしいの!」

(おいおい……噓だと言ってくれ~!)


俺は深く絶望することになった。



『マシュマロ幼馴染との恋に絶望する』


「はぁ……」

「ため息つくなよ。昼休み一緒に食べたんだろう?」

「そうだけど予想外のことが起こった……」


優は咲人に穂乃花は空のことが好きと言われたこと、付き合うのに協力してほしいと言われたことを話した。


「マジか。強敵だな」

「だろ~?どうすればいいんだよ~」

「ちなみになんて答えたんだよ」

「キャプテンとあんまり喋ったことないから無理って答えた」

「だろうな。優はレギュラーに選ばれたことがない落ちこぼれ君だからな」

「お前冷たすぎるだろ!」

「優はいつから雪宮のこと好きなんだよ」

「小学生の頃から……」

「じゃあ中学生までに告白しなかった優が悪いな」

「そんなこと言うなよ~!」

「事実だろ。優が中学生までに告白して付き合うことができれば秋風先輩のことを好きになることもなかった」


グサッ!優に言葉の針が刺さる。


「そもそもこんな落ちこぼれ君と付き合っていたか分からないけど」


グサッ!さらに言葉の針が刺さる。


「~!」

「で?ここからどうするんだ?」

「そんなの俺が聞きたいよ~!」


優の悲鳴が学校中に響いた。



放課後。グラウンドにはバッティング練習をする空の姿があった。


「ふぅ~……」

「お前すごいよな。この前の練習試合でもホームラン打つなんて」

「俺より凄い奴なんて全国にたくさんいるよ」

「そうは思わないけどな」

「あ、秋風先輩!」


穂乃花が水筒を持ってやってきた。


「今日暑いので……」

「ありがとう穂乃花ちゃん。気が利くね」

「そ、そんなこと……マネージャーとしての役割を果たしてるだけです……」


穂乃花は否定しているが嬉しそうに照れている。


「そんなことないよ。穂乃花ちゃんはよくやってくれてるよ。いつもありがとう」

「い、いえ……ではこれで……」


穂乃花は顔を真っ赤にして去っていく。


(あの野郎~!)


ずっと見ていた優は怒りをあらわにしていた。


(あんなこと言って穂乃花を惚れさせるなんて……許せない~!)

「空って穂乃花ちゃんのこと好きなのか?」

「えっ?」

(ナイス鈴木先輩!どうなんだ?)

「好きだよ。この学校で一番可愛いと思ってる」

「……」

「へぇ……美女が好きなイメージだけどな」

「そんなことないよ」


優はゆっくり両膝を地につけた。


(終わった……)


優はしばらくしてから監督に話しかけた。


「監督……」

「おう。どうした?」

「今日は早退させてください……」



家に帰り、寝転がると穂乃花からメールがきた。


『早退したみたいだけど体調大丈夫?』

「誰のせいだよ……」


優はスマホの電源を切る。


(咲人の言う通りだ。俺が告白していれば今頃付き合っていたのかな?)


後悔しても仕方ない。そう思った優はとりあえずメールを開く。


『穂乃花はキャプテンのどこを好きになったの?』


送信するとすぐ返信がきた。


『努力家でかっこよくていつもうちを褒めてくれるところ!』

「そっか……」

『優は好きな人いないの?』

「お前だよ……」


優は再びスマホの電源を切り、眠った。



翌日の昼休み。優はいつも通り穂乃花とご飯を食べていた。


「うち、秋風先輩をデートに誘おうと思うんだけどどうかな?」

「えっ……」


優は思わず箸を落とした。


「優、箸落としたよ」

「あ、あぁ……」


優は箸を拾う。


「……いいんじゃないか?」

「それで水族館にしようと思うんだけど……秋風先輩好きじゃないかな?」

「……本人に聞けよ」


優がボソッと呟く。


「何て言ったの?」

「何でもない。次の時間、漢字テストだからもう行くわ」

「あっ、うん!バイバイ!」


教室に戻る道中、優は自販機でコーヒーを買って飲んだ。


(もう諦めるしかないのか?)


コーヒーの苦味が口に広がった。



『マシュマロ幼馴染と水族館に行く』


夜の遅い時間に山城家のインターホンが鳴った。


「優~。出てくれる?」

「は~い」


優がドアを開けると穂乃花が立っていた。


「穂乃花?どうしたんだ?」

「こんな時間にごめん……どうしても優に話したいことがあって」

「わかった。とりあえずあがれよ」



「デート断られた~!」


穂乃花がギャン泣きする。


「なんで?」

「自主練で忙しいって……」

「まぁ……甲子園に向けて頑張らないといけないもんな」

「気分転換にどうかなって思ったけどダメだった……」

「……」


こんなに落ち込んでいる穂乃花を見たことがない。


(そんなにキャプテンと行きたかったのか……)


優の頭に一つ考えが思い浮かぶが断られるかもしれない。

それでも今の穂乃花を放っておくことはできない。

片想いしている人間としても。幼馴染としても。


「穂乃花」

「何?」

「水族館……俺と行かないか?」

「えっ?」

「その……キャプテンの代わりにはなれないけど……穂乃花って水族館好きだろ?久しぶりに一緒に行かないか?」

「……!うん!」


優は穂乃花を玄関まで見送る。


「ありがとう優!でも部活は……」

「週末は休みだろ?その日に行こうよ」

「わかった!楽しみにしてる!」


穂乃花は嬉しそうに帰って行った。



日曜日。優は公園のベンチに座っていた。


(さて……そろそろ時間のはず……)


そう思いスマホを見ると穂乃花からメールがきていた。


『ごめん~遅れる~』

「全く……寝坊か?」


優は呆れつつ、待つことにした。


「おまたせ~!」


穂乃花が走って来た。ぜぇぜぇ息が上がっている。


「めっちゃ疲れてるじゃん。家からここまで距離ないだろ」

「うちが運動苦手なの知ってるでしょ!」


穂乃花が頬を膨らませる。


「まぁまぁ。これがあるから」


優が穂乃花に缶ジュースを差し出す。

「オレンジジュース好きだろ?」

「好きだけど……ずるいよ……」

「何が?」

「そうやってうちの好きなもの出して怒りを鎮めようとするんだから」

「穂乃花の好きなものはお見通しなんだよ。ほら」

「ありがとう……」


穂乃花の笑顔を見て優がドキッとする。


「は、早く行こうぜ!」

「うん!」



優と穂乃花が水族館に入ると数々の水槽が展示されている。


「優見て!クラゲだ!」


優は穂乃花がはしゃいでいるのを見つめてしまう。


(やっぱり可愛いな……)

「どうしたの?優」

「何でもない」

「早く来てよ!」

「あぁ」


優と穂乃花は数多の魚を見る。


「このフグ……穂乃花みたいだな」

「なんで?」

「この丸い感じが……」


穂乃花が優の腕をつねる。


「痛たたたたた!」

「もう一回言って?」

「いや~あそこのエイ可愛いなぁ~!」



「優!イルカショー見たい!」

「じゃあ行くか」


会場に向かうと大勢の人だかりで前しか空席がなかった。


「濡れちゃうかもね」

「そう言うと思って」


優は鞄からタオルを取り出す。


「これがあるから」

「さすが優!」

「小学生の頃もイルカショー見て二人とも濡れたからな」


そんな会話をしているとショーが始まった。

イルカが水面から飛び上がり、空中のボールをつついたり、様々なジャンプを披露する。


「凄い!」


穂乃花の目が輝いている。

イルカが再び高く飛び上がる。そして尾でボールを叩き、水中に戻った。

水しぶきが優と穂乃花にかかる。


「以上でショーは終了です!ありがとうございました!」


大勢の観客の拍手が聞こえる。優と穂乃花もイルカに向かって拍手した。


「やっぱり濡れちゃったね~」


穂乃花が優の方を見ると優は恥ずかしそうに目を逸らす。


「優?」

「穂乃花……服透けてる……」

「えっ⁉」


穂乃花が恥ずかしそうに胸を隠す。


「エッチ!」

「イルカショー見るなら濡れることも想定して暗い色の服を着ろよ!」

「う~~~~~!」



結局、服が乾かなかったためお土産屋で服を買うことにした。


(こういう服しかないとは……)

優が買ったのはマンボウが描かれた服だ。


「お待たせ~!」


穂乃花がやって来る。穂乃花はイルカのフード付きの服……?


「それパジャマだろ」

「服だよ!」

「いやどう見ても……」

「うちが服と言ったら服なの!」


そういうことにしておこう。


「お昼食べに行くか?」

「うん!お腹空いた!」


優と穂乃花はレストランに行くことになった。



『マシュマロ幼馴染へのアピール大作戦』


優と穂乃花はイタリアンレストランにやってきた。


「な、何にしようかな?」

「悩みすぎだろ」

「だってどれも美味しそうだもん!」

「相変わらず食いしん坊だな」


優はミートソースパスタ、穂乃花はカルボナーラとマルゲリータを注文した。


「そんなに食べれるのか?」

「もちろん!うちの食欲舐めないでよ!」


料理が届き、食べ始める。


「美~味し~い!」

「いつも美味しそうに食べるよな」

「だってうちはご飯の時間が一番の楽しみなんだよ?」

「キャプテンといる時間じゃないのかよ」

「そ、それも楽しいけど!」


穂乃花の照れている姿が可愛く感じる。


「ありがとね優」

「何が?」

「今日付き合ってくれて」

「まぁ部活ばっかりで気分転換できなかったしな」

「最近休みなかったからね」

「本当だよ」

「優もレギュラーとれるように頑張ってよ!応援してるからさ!」

「任せろ!穂乃花にカッコイイところ見せてやる!」

「キャプテンのほうがカッコイイと思うけど」

「おい!」



「今日はありがとう!楽しかった!」

「いいのか?送っていかなくて」

「うん!大丈夫!」

「じゃあまた学校で会おう」

「バイバイ!」


穂乃花が元気よく手を振る。


(やっぱり好きだな……)


優は改めて穂乃花への想いを確認する。

(絶対キャプテンよりカッコよくなって穂乃花を惚れさせる!)

「そのためにレギュラー勝ち取ってやる!」



優はレギュラーを勝ち取るために朝練に積極的に参加する。


「うおおおおお!」


優は思いっきり球を投げる。


「ふぅ……」

「いい球投げるね」


声をかけてきたのは空だった。


「キャプテン……」

「今日の朝練。いつもより頑張ってるけど何かあった?」

「少し……本気にさせられた出来事があって」

「へぇ……その出来事って何?」

「キャプテンには言えないですね。でも言えることがあるとすれば……」


優は空に指を指した。


「キャプテンよりすごいピッチャーになります!」

「ほぉ……」

「レギュラーを勝ち取り、俺がこの学校を甲子園優勝に導きます!」

「いい心意気だね。でもまだ甲子園出場決まってないし、出場決まるまで君が選ばれることもないけど?」

「あっ……」


恥ず……優の顔が赤くなる。


「だけど僕の存在が君のやる気の火をつけることができたならそれは嬉しい。期待してるよ」


立ち去る空の背中を優は見つめる。


(絶対超えてやる……)



「優!食堂行こう!」

「悪い!今日自主練するから!」


優が急いで走っていく。穂乃花がそれを不思議そうに見つめる。


(あんなにやる気がある優珍しい……どうしたんだろ?)

「うおおおおお!」


優はトレーニングルームでダンベルを持ち上げる。


(重い……!けどキャプテンを超えるならこの程度……!)


優は重いダンベルを何度も持ち上げた。



「え?今なんと?」

「地方大会決勝で負けてしまった……」

「そんな……」


空が優に頭を下げる。


「すまない!君のやる気を下げるような結果になってしまって……申し訳ない!」

「い、いえ……」


空の謝罪に戸惑いつつ、優は思い通りではない結果に焦っていた。


(てっきり甲子園行けると思ったのに……そこでレギュラー勝ち取って穂乃花にカッコイイところ見せて俺に惚れてもらう作戦が……)

「山城君!」


空が優の手を握る。


「今回出場できなかったのは僕の力不足だ。今度は君が凄いピッチャーになって甲子園出場に導いてくれ!」

「え、え~っと……」


空の目が輝いている。


「ま、任せてくださいよ!甲子園出場どころか優勝に導きますよ!」

「期待してるぞ!」


空は優の肩を叩くと去って行った。

恋のライバルではあるがすごく優しい人だと認識した優であった。



休み時間。計画が狂い、咲人に相談する。


「どうしよう咲人!来年じゃ絶対無理だ!穂乃花を振り向かせることができない!」

「じゃあ過去の告白しなかった自分を恨め」

「それって遠回しで諦めろって意味じゃん!」

「……カッコイイアピールをしたいなら一つだけ考えがある」

「本当か⁉」

「二学期になるけどな」

「二学期⁉もし二学期までに穂乃花がキャプテンに告白したらどうするんだよ⁉」

「考えてみろ。秋風先輩は受験生だ。人の気持ちを考えられる穂乃花がこの大事な時期に告白すると思うか?」

「確かに……で?そのアピールができるのは?」

「体育祭だ」

「!!!」

「アピールできるならそのタイミングだろう」

「確かに……体育祭なら……キャプテンに勝てるかも!」

「で?どうするんだ?」


優が立ち上がる。


「体育祭でキャプテンと同じ種目に出てそこで1位をとる!そして穂乃花に告白する!」



『マシュマロ幼馴染と不穏な空気になる』


夏休み。甲子園出場を逃した光星学園野球部は来年の出場に向けて練習を始める。

空の推薦で優がレギュラー候補になっているが自分にはまだレギュラーになるほどの力がない。


(甲子園で通用するピッチャーに必ずなる!)


優は固い意志を胸にボールを投げる。


「ナイス!今の投げは速かったぞ」


キャッチャーの伊藤茂雄いとうしげおが優を褒める。


「いや……今のは甲子園には通用しない。もっと速く投げれるようにならないと」

優と茂雄の会話を穂乃花が見守る。


「最近、山城君頑張ってるね」


穂乃花と同じマネージャーの濱野美咲はまのみさきが話しかける。


「そうだね。秋風先輩がいなくなってから優も頑張らないといけないって思ったんだろうね」

「三年生が多かったから野球部の人数も結構減ったね」

「そうだね……いつも秋風先輩が仕切っていたからすごく違和感ある」

「穂乃花ってばいつも秋風先輩見てたからね~」

「だ、だって……!」

「わかってるってば!応援してるよ!」


優が穂乃花と美咲が喋っているところを見つめる。


「優~。早く投げろ~」

「あぁ……」


優は再びボールを投げた。



お昼になり、昼食の時間になる。

野球部はマネージャー手作りの塩おにぎりを食べる。

優が食べているところに穂乃花が話しかけてくる。


「ねぇねぇ優」

「なんだ?」

「そのおにぎり誰が作ったでしょう?」

「穂乃花だろ?」

「ピンポン!正解!なんでわかったの?」

「こんなにでかいおにぎり作るの食いしん坊の穂乃花しかいないだろ」

「く、食いしん坊って……ちょっと食べる量が多いだけだもん……」


穂乃花が少し恥ずかしそうにする。


「去年の夏祭り、屋台の食べ物いっぱい食べてたくせに……」

「あれは美味しい食べ物がたくさんあるから悪いのよ!」

「……今年も一緒に行くか?」

「え⁉優の奢り⁉」


穂乃花が目を輝かせる。


「言ってねぇよ。まぁ……ちょっとだけなら奢ってやるよ」

「やった~!楽しみだな~!焼きそば……ミルクせんべい……りんご飴……」


穂乃花がよだれを垂らしながら妄想する。


(小遣いあったかな~)


優は財布にある金額を心配していた。



「ただいま~!」


穂乃花が家に帰宅する。


「おかえり。機嫌良いけど何かあった?」

「優と今年の夏祭り行くことになった~!」

「相変わらず二人共仲良いわね」

「え?幼馴染だから当たり前でしょ?」

「この子ったら……気をつけなさいよ」

「うん!」


穂乃花が部屋に入り、鞄からスマホを取り出すと着信メッセージがあった。

送り主は空だ。


(あ、秋風先輩⁉何だろう?)


穂乃花はメッセージを開く。


『この前は約束を断ってしまってごめん!埋め合わせって訳じゃないけど今度の夏祭り一緒に行かない?』

「あっ……」


穂乃花に迷いが生じる。自分はすでに優と約束してしまっている。

その後に想いを寄せている人に誘われてしまった……

優とは毎年行ってるし断って……でも……


「どうしよう……」


穂乃花はスマホの画面を見つめていた。



翌日の練習。

優がトレーニングルームでストレッチしているところに穂乃花がやってきた。


「穂乃花……どうした?」

「あの……ちょっと言いたいことがあって……」

「なんだ?」

「今年の夏祭り……秋風先輩と行っていい?」

「!」


優の動きが止まる。


「なんで?」

「秋風先輩に誘われちゃって……前、水族館に行けなかったし……」

「……穂乃花は俺よりキャプテンと一緒に行きたいのか?」

「そういうわけじゃ……」

「そうだから俺よりキャプテンの方に行こうとするんだろ!」


優が激昂する。それに穂乃花がビクッとする。


「……悪い。言い過ぎた。楽しんでこいよ」


優がトレーニングルームを出ていく。


(優……どうしちゃったの?)


優の想いを知らない穂乃花が激昂した理由に気づけなかった。



「クソ!」


優が壁に拳をぶつける。


(何やってるんだよ……うまくいかなくなったからって穂乃花に八つ当たりして……)


優は壁に頭を打つ。汗が地面に落ち続けていた。



『マシュマロ幼馴染の夏祭りデート』


「……」

「穂乃花ちゃん?」

「は、はい!」

「大丈夫?さっきから元気ないけど……」

「だ、大丈夫です!」


穂乃花は空と夏祭りに来ていた。優とはあれから話せていない。

メールで謝ったが、既読がつかない。


「何食べたい?」

「じゃあ……ミルクせんべい食べたいです」

「オッケー!」


穂乃花がミルクせんべいを食べる。


「美味しいね」

「……」

「穂乃花ちゃん?聞いてる?」

「は、はい!美味しいです!」

「何かあった?」

「えっ?」

「今日いつもより元気ないからさ。俺でよければ話聞くからさ」

「だ、大丈夫です!大したことじゃありませんから!」

「そう?」

「ほ、ほら!あそこスーパーボールすくいありますよ!行ってみましょう!」

「よし!行こうか!」


(秋風先輩と夏祭りなのに……なんで楽しくないんだろう?)



「あっ!破けちゃった……」

「俺もだ。難しいな」

「先輩も結構取りましたね」

「個数少ないけどな」

「……」


―――穂乃花は幼い頃に来た夏祭りを思い出す。


「うわ~ん!取れない!」


穂乃花のポイの紙が破れる。


「穂乃花は水につけすぎなんだよ。こうやってとるんだよ!」


優がポイで大量のスーパーボールをすくう。


「ほらな」

「すごい……」

「じゃあ次行こうよ」

「ねぇねぇ……」

「なんだ?」

「うちにも分けてほしい……」

「嫌だよ。取れなかった自分が悪いだろ」

「~~~!」

穂乃花に目に涙がたまる。


「わ、わかったよ。好きなやつ取れよ」

「やった~!」


穂乃花がスーパーボールを掴む。


「ちょ穂乃花取りすぎ!」

「同じものいっぱいあるからいいでしょ!」

「ったく……」


―――袋にはたくさんのスーパーボールがある。

あの頃は取れなかったが、今は少しだけ取れるようになった。


(懐かしいなぁ……)


「もうすぐ花火が始まるから見えやすい場所に行こうか」

「はい!」


空と穂乃花は花火が見えやすい場所に移動し始める。


「人多いですね……」

「はぐれないようにしっかり俺の手を繋いで」


空が手を差し出す。穂乃花はドキドキしながら手を掴む。


(秋風先輩の手……大きい……)


―――幼い頃、穂乃花は人混みで迷子になったことがあった。


「優~どこ~?」


周囲を見ても大人ばかりだ。


(どうしよう……はぐれちゃった……)


「穂乃花!どこだ~?」

「優!」


穂乃花は声がした方に向かう。


「穂乃花!見つけ……」

「優~!」


穂乃花が優に抱きつく。


「ちょっ抱きつくな!」

「だって迷子になったと思って……」

「なっただろ」

「なってないもん!」

「はぁ……手繋ぐぞ」

「えっ?」

「また迷子になったら俺が怒られるんだから」

「うん……」


優と穂乃花が手を繋ぐ。

「穂乃花って手も柔らかいな」

「手もって何よ」

「いや穂乃花って太ってるからお腹も……」

「優のバカ!」


―――(なんで優と言った夏祭りを思い出すんだろう……)



いよいよ夏祭りのメインである花火が始まっていた。


「先輩!花火始まってます!」

「移動に時間かかったな」


どんどん花火が打ちあがっていく。


「綺麗ですね」

「あぁ……」


二人は打ち上げられる花火を見続ける。


「穂乃花ちゃん……ありがとな」

「えっ?」

「マネージャーとして支えてくれたことに感謝している」

「いえ、そんな……」

「穂乃花ちゃん……」


空が真剣な眼差しで穂乃花を見つめる。


「俺……穂乃花ちゃんのこと……」


ドドドドド!!!!!クライマックスの花火が打ちあがった。


「……どうかな?」

「すみません。花火で聞こえなくて……なんて言いましたか?」

「えっと……穂乃花ちゃんのこと……」

『これにて花火が終了です。ご来場の皆さんは速やかに会場を離れてください』

「ですって。帰りましょう」

「あ、あぁ……」


穂乃花は空のしょんぼりとした表情に気づかなかった。



「本当に送っていかなくて大丈夫?」

「大丈夫です!今日はありがとうございました!」


空と別れた穂乃花は帰り道を歩く。


(久しぶりに着物着ていっぱい食べたなぁ~)


鞄には屋台で買ったりんご飴がある。


(優の家に行くけど緊張する……これで許してくれるかな……)


穂乃花の背後にはガラの悪い二人がついてきていた。


「本当にあの子狙うのか?」

「見た感じJKだし、いけるだろ」

「でもデブじゃねぇか」

「俺はデブ好きなんだよな~」

「まぁ俺もJKならいいか……」


穂乃花は二人の魔の手に気づいていない……



『マシュマロ幼馴染と仲直り』


「ねぇ!そこのお姉ちゃん!」


穂乃花が振り返るとガラの悪い二人が立っていた。


「何ですか?」

「俺たちと楽しいことしない?」

「いえ……結構です……」


穂乃花が立ち去ろうとすると男に腕を掴まれる。


「は、離してください!」

「大丈夫だって!ちゃんと楽しませてあげるからさ」

「だ、誰か助けて!」


穂乃花が泣き叫ぶ。


「うるせぇなぁ~こうなったら眠らせて……」


男が手段に出ようとすると頭に何かが当たる。


「なんだ?」


振り返るとピストルを持ち、タコの仮面をつけた男が立っていた。


「てめぇ……何しやがるんだ?」

「おまわりさん!こっちです!」


後から来た咲人が叫ぶ。


「やべ!警察が来る!」

「逃げろ!」


男二人が逃げて行く。

「雪宮!大丈夫か?」


咲人が穂乃花のもとに走る。


「咲人君……ありがとう。大丈夫だよ」

「無事でよかった」

「ところで警察は?姿が見えないけど……」

「あれは噓だよ。来たのが僕たちだけなら無理やり雪宮を連れて行くつもりだっただろうから」

「僕たちって……じゃああの仮面をつけた人は咲人君の友達なの?」

「友達も何も……」


咲人が振り返ると仮面の男はそこにいなかった。


「あいつ……逃げやがった……」

「さっきの人誰なの?」

「……雪宮が一番よく知ってる人だよ」



仮面の男は真っ暗な夜の道を歩く。


(我ながら俺の射撃技術はすごいなぁ~)


鞄にはさっき使ったおもちゃのピストルとBB弾が入っていた。


(くじ引きではずれだと思ったけど案外使うと子供心をくすぐられるよな~)


仮面の男は立ち止まり、夜空を見上げる。


(穂乃花……大丈夫かな?まぁ咲人がいるし大丈夫だろ)


再び歩き出すと後ろからハァハァという声が聞こえる。


(こんな時間にランニングか?)


振り返ると走って疲れた穂乃花が立っていた。


「なんでうちから離れるのよ!優!」



今日の夏祭り、優は咲人と夏祭りを楽しんでいた。


「今日は付き合ってくれて助かったよ」

「別にいいけど……雪宮と一緒に行かなくてよかったのか?」

「いや~穂乃花は予定あるらしくてさ~」

「……噓だろ」

「え?」

「雪宮と何かあったか?」

「なんで?」

「僕を誘う時、声暗かっただろ」

「……本当に咲人って俺の隠し事見抜けるよな」

「分かりやすいからな」

「実はな……」


優は咲人に穂乃花に八つ当たりしてしまったことを話した。


「なるほどな……まぁそれは雪宮も悪いと俺は思うが……」

「いや、好きな人に誘われたら誰だって行きたくなるだろ」


優が屋台で買ったポテトを食べる。


「悪いのは俺だ。告白してないくせに勝手に怒って……最低だよ」

「優はどうしたいんだ?」

「俺は……穂乃花と仲直りしたい……」

「じゃあ探してこいよ。まだここにいるだろ」

「あぁ……行ってくる」

「あとでお菓子奢れよ」

「おう!」


優が会場を探し回っていると離れたところに穂乃花を見つけた。


(いた!キャプテンはいない……な)


優は穂乃花を追いかけると背後にガラの悪い男を二人見つける。


「あの子いいだろ?」

「そうか?イマイチだろ」

「いいか?人気がなくなったら行くぞ」

「わかったよ」


それを聞いた優は即座に咲人に連絡した。


『どうした?まだキャプテンとイチャついて……』

「咲人。今すぐこっちに来てくれ。緊急事態だ」



「なんでうちから離れるのよ!優!」

「……」

「もしかして別人のふりするつもり?」


穂乃花が男の仮面を取る。その素顔はずっと見続けてきた幼馴染の顔だった。


「ほら優じゃん。なんで逃げたのよ」

「……気まずかったからさ」

「メールで謝ったのに……全然見てくれなくて怒ってるって思ったんだよ?」

「ごめん……穂乃花からのメール見たくなくてさ」


お互いの間に沈黙の時間が流れる。


「優……ごめんね。誘ってくれたのに断っちゃって……」

「俺の方こそごめん。好きな人と行きたいのは当然だろ」

「来年は絶対優と行くから」

「どうせ俺に奢らせるんだろ?」

「ダメ?」

「ほどほどならいいぞ」

「あっ……鼻緒が切れちゃった……」


下駄をよく見ると鼻緒が切れている。


「優。おんぶして」

「無理」

「小さい頃してくれてたじゃん!」

「いや今の穂乃花はあの頃と比べてだいぶ重っ……」


穂乃花が無理やり優の背中にしがみつく。


「おい!」

「おんぶして?」

「……ったく」


優が穂乃花の両足を持ち上げて、おんぶする。


「重っ!」

「女の子に向かってそんなこと言うのよくないよ!」

「じゃあ穂乃花って体重何キロ?」

「ダメ!」


穂乃花が優の頭を叩く。


「優」

「なんだ?」

「助けてくれてありがとう」

「あぁ」


綺麗な満月が二人を照らしていた。



『マシュマロ幼馴染が泊まりに来た』


「穂乃花……疲れた。降ろしていい?」

「うちどうやって帰ればいいの?」

「靴貸すからさ」

「……だったらさ。優の家に泊まっていい?」

「え?」

「その……優に家まで送ってもらうの申し訳ないし」

「俺はいいけど……穂乃花の親は大丈夫なのか?」

「うちは何回か美咲の家に泊まりに行ったこともあるし大丈夫だと思う」

「じゃあ親に電話するか」



優が家のドアを開ける。


「ただいま~」

「おかえりなさい」

「お邪魔します」

「あら穂乃花ちゃん!着物姿可愛いわね!」

「ありがとうございます」

「ほら優。さっさと部屋に行きなさい。穂乃花ちゃんの着物脱がさないといけないから」

「分かってるよ」


優は部屋に入り、ベッドに寝転がる。


(少し休むか……)


優は夏祭りの疲れからすぐに眠った。



「優。起きて」

「ん?」


優が穂乃花の声で目が覚めた。


「あの……うちお風呂上がったから入ってっておばさんが」

「あぁ。わかった」

「それと優のパジャマ借りちゃった。ごめんね」

「いいよ。気にしないで」


優が部屋を出る。


(俺のパジャマを穂乃花が……)


あのパジャマから穂乃花の匂いが……


(洗濯せずに保管しよう)



優がお風呂から上がり、部屋に戻ると穂乃花がベッドで眠っていた。


(人のベッド勝手に取るなよ……)


穂乃花がスヤスヤと眠っている。


(相変わらず可愛いなぁ……)


穂乃花の寝顔をずっと見続けてしまう。


「あっ優……」


穂乃花が目を覚ます。


「歯磨きしたのか?」

「まだ……」

「俺も眠いから洗面所に……」


穂乃花が優に抱きつく。


「ちょっ穂乃花!」

「むにゃむにゃ……」

(柔らか……)


穂乃花を抱きしめると太っているからこそ感じられる柔らかさがある。


「穂乃花。行くぞ」

「抱っこして~」

「それは無理」



歯磨きが終わると、穂乃花が目をこする。いつ寝てしまってもおかしくない状態だ。


「穂乃花は俺のベッドで寝ろよ」

「優はどうするの?」

「俺はソファーで大丈夫だから」

「……いやだ」


穂乃花が背後から優に抱きつく。


「優と一緒に寝る……」

「な、何言ってるんだよ!」


優の頬が赤くなる。


「穂乃花はキャプテンのこと好きなんだろ?」

「わかんないけど……今は優と一緒に居たい……」


そんなこと言われたら……都合よく捉えてしまうだろ……


「ダメだって……一人で寝……」

「どうしても……ダメ?」


そんな目で見るなよ……何も言えなくなる……



「なぁ……穂乃花」

「何?」

「なぜかベッド狭いんだけど……ソファーに行っていい?」

「ダメ」

「なんでだよ」

「夜中にトイレ行きたくなったらどうすればいいの?」

「行けばいいじゃん」

「怖いもん!」

「高校生なんだからそれぐらい……」

「怖いものは怖いの!」

「わかったよ」


優は体を穂乃花とは反対方向に傾ける。


「優」

「何?」

「寝れるの?」

「寝れるけど?」

「うちらが子供の頃、優が眠れないからうちを抱き枕にして寝てたじゃん」

「!」


優の頬が赤くなる。


「うちが柔らかいから抱きしめたら安心するって……」


優が咄嗟に穂乃花の口を抑える。


「それ以上言うな。恥ずかしい」

「んんんん!」

「心配しなくても寝れるから大丈夫だ」

「本当?」

「あぁ。だから安心しろよ」


優が再び寝る体制になる。


「おやすみ」

「……」


優がおやすみと言ってからすぐ寝息が聞こえた。よほど疲れていたのだろう。

穂乃花が優の寝顔を見ると穏やかに眠っているように感じる。

あんだけ眠かったのに一緒にベッドに入ってから眠気が吹き飛んでしまった。


(なんで急に優といるとドキドキするようになったんだろう……)


穂乃花が眠るまでにしばらく時間がかかった。



朝になり、眩しい日差しが部屋に差し込む。


「優!起きて!」

「ん?」

「朝だよ!起きて!」

「今日、練習休みだろ……昼まで寝るから……」


怒った穂乃花が頬を膨らませる。


「起きないと……」


穂乃花が優の上に乗る。


「重い!」

「起きて!」

「たまには昼まで寝かせろ!」

「嫌!」


優と穂乃花の揉め合いを陰ながら母親が見守る。


(本当に仲良いわね。あの二人♡)



『マシュマロ幼馴染の勉強会』


穂乃花に無理やり起こされた優は朝食を食べていた。


「眠い……」

「ところで優。あんた宿題やったの?」

「あっ……」


母親に言われて思い出した。

夏休みで浮かれていて宿題という存在を忘れていた……当然全く手をつけていない。


「大丈夫だって!お盆にやれば……」

「お盆は帰省する予定だから時間ないわよ」

「じゃあ最終日に……」

「優……去年そう言ってやらなかったよね?」

「う……」

「穂乃花ちゃん。優の面倒見てくれる?」


それを聞いて優の口に入れていた米粒が詰まりそうになった。


「なんでそうなるんだよ!」

「穂乃花ちゃん勉強できるじゃない。あんた一学期の成績ギリギリだったからどうせ宿題やってもわからないでしょ?お願いできる?」

「任せてください!優の宿題は責任を持ってうちが終わらせます!」

「本当に穂乃花ちゃんは頼もしいわ~!」

「勝手に話を進めるな~!」



強引に話が決まり、夏休みの宿題を持って穂乃花の家に向かうことになった。


「俺の数少ない休みが……」

「お盆休めるからいいじゃない」

「それにしても穂乃花の家に行くのは久しぶりだな」

「高校に入ってから家に遊びに行くことがなくなったからね」


話をしていると穂乃花の家に着いた。


「ただいま~!」

「お邪魔します」

「あっ優君!久しぶり!」

「お久しぶりです」

「今日は優と一緒にうちの部屋で宿題するから」

「了解!あとでお茶とお菓子持っていくね」

「ありがとうございます」

「それと優君……」


穂乃花の母親が優に小声で話しかける。


「穂乃花とはどこまで進んだの?」

「はい⁉」

「ほら優君って小さい頃から穂乃花のこと大好きだからどうなってるのかなって……」

「し、宿題まだ終わってないのでもう行きます!」



優と穂乃花が部屋に移動する。

「さっきお母さんと何の話してたの?」

「何でもない!」


なんで穂乃花のことが好きなのが家同士ばれているんだ……

俺って分かりやすい?


「じゃあまずは数学からやろう」

「なんで?」

「優、数学苦手だからうちが教えたほうがいいでしょ?」

「いきなり数学かよ……」

「ほら、文句言わないでワーク開いて」


優は渋々ワークを開き、問題を解き始める。


「ここはこうで……ってか穂乃花は宿題やらないの?」

「うちはマネージャーで忙しくなると思って一学期に終わらせた」

「マジか。すげぇな」

「分からないとこあったら言ってね」

「おう……」


優は平静を装っているが、内心ドキドキしていた。


(穂乃花の部屋に入るの久々だし、この部屋、すごく穂乃花の匂いがする……!)


コンコンとドアがノックされ、穂乃花の母親が入ってきた。


「お茶とお菓子持ってきたよ」

「ありがとうお母さん」

「ありがとうございます」

「優君は今日ここでお昼食べる?」

「いえ、昼になったら帰……」

「夜までみっちりやるから用意してくれる?」

「は⁉」

「了解!腕によりをかけて作るわね!」

「ちょっ待……!」


優の言葉を聞く前に穂乃花の母親は部屋を出てしまった。


「おい!夜までやるなんて聞いてねぇぞ!」

「おばさんが夜まで見てあげてって言ってたから今日はみっちりやるよ」

「明日部活なのに……」

「ちなみに明日の部活は午前しかないから午後はうちの部屋で宿題ね」

「はぁ~~~~~⁉」



お昼になり、なんとか数学の宿題を終わらせた。


「はぁ……疲れた」

「お疲れ様」

「ご飯よ~!」


リビングから穂乃花の母親の声が聞こえる。


「行こっか」

「お腹空いた……」


リビングに行くと机にそうめんとめんつゆが用意されていた。


「おかわりいっぱいあるから好きなだけよそってね」

「ありがとうございます」

「いただきま~す!」


穂乃花がそうめんを啜る。


「やっぱり夏といえばそうめんだよね!」

「そうだな……」

「どうしたの?疲れてるみたいだけど」

「疲れてるんだよ!」

「うちは別に帰ってもいいと思うけどおばさんが許してくれないんじゃない?」


……そんな気がする。


「じゃあ漢字だけやって帰るよ」

「えぇ?化学じゃないの?」

「これ以上理系で頭使いたくない!」

「分かった。じゃあ食べ終わったらやろう」


昼食を食べ終わり、集中すること一時間。なんとか漢字を終わらせることができた。


「終わった~!疲れた~!」

「まだ半分も超えてないけど……まぁ優にしては頑張ったね」

「にしてはってなんだよ。頑張っただろ」

「もしおばさんが文句言ってきてもうちがいいって言ったって伝えておいて」

「わかった」


穂乃花が優を玄関まで見送る。


「じゃあまた明日」

「おう」


優がドアを開ける。


「今日はありがとな。すごく分かりやすかった」

「どういたしまして」


優を見送ったあと、穂乃花は部屋に戻る。


(なんでだろ?今日ずっと優といるとドキドキする……)


今まで優を意識したことはなかった。昔からよく遊んでいた仲が良い幼馴染。

ただそれだけだと思っていた。でも……今日は違う。

優の面倒を見てしまいたくなる。甘やかしたくなる。褒められると凄く嬉しい。


(もしかしてうち……優のこと好き?)



『マシュマロ幼馴染への告白を賭けた宣戦布告』


「終わった~!」


優は夏休みの宿題を全て終わらせた。


「疲れた~」

「頑張ったね」

「部活の後に勉強はきつすぎる……」


優が床に寝転がる。


「これで明日から部活に集中できる」

「明日の部活、秋風先輩来るらしいよ」

「え?なんで知ってるの?」

「先輩からメールで教えてもらった」


マジか……メールでやり取りする仲なのかよ……


「先輩が引退してから会ってないから久しぶりに会うな。穂乃花も会うの楽しみなんだろ?」

「う、うん」

「どうした穂乃花?いつもなら嬉しそうにするのに」

「そんなことないよ!嬉しいよ!」

「そうか……」


なんか聞き返さないほうがよかった気がする……



翌日。いつも通りグラウンドで野球部が練習していると空がやってきた。


「やぁ!お前ら元気だったか?」

「キャプテン!」


空を慕っていた部員たちがぞろぞろと集まる。


「キャプテンなんてやめろよ!俺はもう引退したんだから」

「すみません!先輩こっちに来て大丈夫なんですか?受験勉強で忙しいんじゃ……」

「勉強ばかりだと疲れるからな。息抜きのついでに会いに来たんだよ」

「先輩に会えて嬉しいです!」


空が後輩たちと話しているところを美咲が見つめる。


「ほら穂乃花。秋風先輩来たわよ」

「う、うん」

「話しかけないの?」

「今は喋っているからあとで……」

「ほらほら行った行った!」


美咲が穂乃花の背中を押す。押した音で空が穂乃花に気づいた。


「穂乃花ちゃん!久しぶりだね!」

「は、はい!あの時はありがとうございました!」


優は空と穂乃花が喋っているところを不服そうに見る。


(……ったく。なんでこんな時に来るんだよ)


茂雄が優の肩をポンポンと叩く。


「おいおい穂乃花ちゃんに見惚れてないで早く投げろよ」

「分かってるよ!」



昼休憩になり、優はマネージャー手作りのおにぎりを食べる。


(今日は濱野のおにぎりが当たった)


美咲と穂乃花、それぞれが作るおにぎりの違いが分かりやすい。


「隣、座ってもいいかな?」


空が話しかけてきた。


「……いいですよ」

「ありがとう」


空が優の隣に座る。


「監督から聞いたよ。最近、頑張っているらしいね」

「俺なんかまだまだですよ」

「でもこの前の練習試合は無失点だったらしいじゃないか」

「たまたまですよ」

「そうかな?山城君の努力の成果だと思うけどね」


空がおにぎりを口に入れる。


「そういえば山城君に言いたかったことがあるんだ」

「何ですか?」

「最近、穂乃花ちゃんと夏祭りに行ったんだ」


優の動きが一瞬止まる。


「そう……ですか」

「聞いても何とも思わないのか?」

「なんでそんなこと聞くんですか?」

「山城君と穂乃花ちゃんは幼馴染って聞いていたから穂乃花ちゃんのこと好きだったりするのかなって思っていたけど」

「……」

「まぁいいや。最後に一つ言っておきたいことがあるんだけど……」

「何ですか?」

「僕……穂乃花ちゃんのこと好きなんだ。だから体育祭の日に告白するつもりだ」

「!!!」


優が思わず空の顔を見る。


「それで山城君に聞きたい。穂乃花ちゃんに告白してもいいかな?」


空が優の返事を待つ。


「……ダメです。俺だって穂乃花のこと好きですから」


二人の間に沈黙の時間が流れる。


「……そうか」


空が立ち上がり、去ろうとする。


「先輩!」

「なんだ?」

「勝負しませんか?」

「勝負?」

「体育祭では毎年、全学年共通種目の借り人競争がありますよね。それにお互い出場し、お題の答えが穂乃花になった方が告白する」

「……なぜそんな勝負わざわざ仕掛ける?」

「先輩に勝ちたいからです」


優が真剣な表情で空を見つめる。


「それって運になるけど君は納得できる?」

「運も実力のうちですから」

「……分かった。その勝負、引き受けよう。僕が勝ったら僕が穂乃花ちゃんに告白する。それでいいね?」

「はい」

「君との勝負、楽しみにしてるよ」


空が去って行く。その背中を見えなくなるまで優は見つめていた。



『マシュマロ幼馴染との新学期』


夏休みが終わり、新学期が始まった。

今日のホームルームはもうすぐ始まる体育祭の出場種目を決める。


「じゃあ障害物競争はこのメンバーで決定だ。次は借り人競争に出たい人は手を挙げろ」

「はい!」


優が手を挙げる。


「え~と山城と……」

「優。お前借り人競争に出るのか?」


後ろの席から咲人が話しかける。


「あぁ。先輩と告白を賭けて勝負する」

「ふ~ん……がんば」

「もうちょっと応援してくれよ……」


親友なんだからさ……


「咲人は何出るの?」

「リレー」

「そっか。咲人は陸上部だもんな」


咲人は陸上部でずば抜けて速く、この前の朝礼で表彰されていた。


「咲人なら一位なんて余裕だろ」

「まぁな。優はどうだ?先輩に勝てそうか?」

「分からない。けど絶対勝つ」



昼休み。優は穂乃花と食堂でご飯を食べていた。


「もうすぐ体育祭だ……嫌だな~」

「なんで?」

「うちが運動苦手なの知ってるでしょ?」


穂乃花は子供の頃から運動が大の苦手だ。

走るのも遅いし、キャッチボールするときも変な方向に投げるし……


「穂乃花は何出るの?」

「ピンポン玉リレー。あれだったら運動関係ないしね」

「パン食い競走じゃないんだ」

「競争だから出るわけないじゃん。なんでそう思ったの?」

「だって穂乃花は食いしん坊だから食欲で足が速くなるかなって」

「もう!うちは食いしん坊じゃないもん!ちょっと食べる量が多いだけだもん!」


穂乃花が頬を膨らませる。


「ごめんごめん!帰りアイス奢るから」

「本当⁉」


穂乃花が目を輝かせる。


「ほら食いしん坊じゃん」

「あっ!騙したの⁉」

「騙してないって。ちゃんと奢るから」

「……うちの機嫌損ねたからアイス二個ね」

「えぇ……騙してないのに……」


穂乃花をからかうのはやめようとこの時、いつも思うんだけど可愛いからやめられないんだよな~


「優は何出るの?」

「借り人競走」

「へぇ~てっきりリレー出るって思った」

「リレーは人気だからな」

「出れなかったの?」

「いや、自分の意志で決めた」

「なんで借り人競走に出るの?」

「それは……」


先輩と勝負するからって言うわけにもいかないし……


「……誰かさんにカッコイイと思ってほしいから、かな」

「それって誰……」


聞こうとした時にチャイムが鳴る。


「やべ!五時間目実験だから行かないと!じゃあな!」


優が慌てて食堂を出る。


(誰かって誰なんだろ……すごくモヤモヤする……)


これは幼馴染だから感じる嫉妬なのだろうか?それとも……



体育祭当日。会場となるドームには多くの光星学園の生徒が集まっていた。


「遂に体育祭だ!」

「悪いけどリレーは俺のクラスが勝つから」

「いいや!勝つのは俺のクラスだ!」


優も自分のクラスの観客席に座る。


(いよいよだな……)


まもなく始まろうとしている。今日で穂乃花との関係がガラリと変わる。


『これより第73回光星学園体育祭を開会いたします!』



『マシュマロ幼馴染の出場種目』


体育祭が始まり、全員出場種目の綱引きが始まった。


「お前ら!ちゃんと引っ張れ!」

「引っ張ってるよ!」


時間になり、お互い綱から手を離す。


『これにて綱引き終了です。ピンポン玉リレーに出場する三年生は……』

(ピンポン玉リレー……穂乃花が出る種目だ)


綱引きが終わり、退場する優が穂乃花がピンポン玉リレーに出場すると言っていたのを思い出す。


(借り人競走まで時間あるし、応援するか)



『それでは一年生、入場してください』


ピンポン玉リレーに出場する一年生が入場する。その中には穂乃花の姿もある。


(うぅ~緊張する~)


入場してみるとやはり緊張が走る。

ピンポン玉リレーは卓球ラケットの上にピンポン玉を乗せ、落とさないように走るリレーだ。

穂乃花は運動が大の苦手、そうなると出場するとしたら運動能力があまり関係ないピンポン玉リレーの一択になる。


(皆はリレーとか障害物競走に出たがるから空いててよかった)


「位置について!よ~いドン!」


エアガンの発砲を合図にリレーが始まった。

皆、ピンポン玉を落とさないように慎重になりながらゆっくり走る。


(そろそろうちの番だ……)


穂乃花がスタートラインに並ぶ。


「穂乃花!お願い!」

「うん!」


穂乃花がラケットを受け取る。


(うわ!難しい!)


ラケットを持って走るとピンポン玉が何度も落ちそうになる。


「あっ!」


ラケットからピンポン玉が落ちてしまった。


(早くしないとビリになっちゃう!)


再びラケットにピンポン玉を乗せ、走り始めるがすぐに落ちてしまう。


(あぁ~!また落ちた~!)



結局、穂乃花のクラスは最下位になってしまった。


「ごめん皆……」

「まぁ仕方ないよ。このピンポン玉リレーに出るの私たちみたいに運動が苦手な人が多いから」

「そうだけど……」

「それに体育祭なんだからさ!結果より楽しくやることが重要だし!」

「そうだね」


穂乃花はその言葉で元気を取り戻した。



穂乃花が自分のクラスの席に戻るとざわついていた。


「おいおいどうするんだよ」

「どうかしたの?」

「次のパン食い競争に出る木村が体調不良で保健室に行っちまったんだよ」

「お前が出ろよ」

「嫌だよ。昼飯もあるし……ってかパンでかいじゃん」

「あれだけでお腹いっぱいになる自信あるわ……」


チラッとクラス全員が穂乃花を見る。


「えっ……」

「頼む雪宮!代わりに出てくれ!」

「なんで⁉」

「雪宮、この前食堂の完食困難メニュー『超大盛り特大ビッグビッグラーメン』食べてたじゃん!」

(あれは初めての食堂で浮かれて食べただけだもん……)

「雪宮!この通りだ!」


クラスの男子たちが穂乃花に頭を下げる。


「……結果悪くてもいいなら」

「全然構わない!出てくれるだけですごくありがたい!」


穂乃花は急遽、パン食い競争に出ることになった。



その頃、咲人は体育祭の種目表を見ていた。


「次、パン食い競争らしいぞ」

「ふ~ん」


優がスポーツドリンクを飲みながら反応する。


「って言うかパン食い競争って小学校の運動会かよ」

「でも美味いらしいぞ。家庭科部が作ったパンらしいから」

「へぇ~」

「でもパンが大きいから誰も出たがらないしいぞ」

「だろうな」


『それではパン食い競走に出場する一年生は入場してください』


入場が始まると咲人は何かに気づいた。


「優」

「何?」

「雪宮出てるんだけど……ピンポン玉リレーだけじゃなかったのか?」

「え……」



(マジで最悪……)


とあるクラスの男子、木下はパン食い競走に誰が出場するかのじゃんけんで敗北し、渋々出ることになった。


(パンでけぇ……)


入場した瞬間、宙吊りのパンが見える。

どのパンもデカく、食べるにはある程度空腹である必要がありそうだ。


(それなのに……)


木下が穂乃花をチラッと見る。


(なんでこの女は目を輝かせているんだ⁉)



(なんでうちが出ることになったのよ……)


穂乃花は集合場所に移動していた。


(でもうちのせいでビリになったし、断る権利ないか……)


穂乃花がトボトボ歩いているとパン食い競走に出場していた二年生とすれ違う。


「六皇子すげぇな!パン食い競走で一位になるなんて」

「当たり前だろ!あのパン全部夕香が作ったから!」

「六皇子の彼女だっけ?」

「そうそう!ずっとパンの試作とかしてたらしいからさ!」

「三年生が言ってたけど今年のパンすごく美味いらしいな」

「当然だよ!夕香の手作りなんだから!」


それを聞いた穂乃花の口から気づかない間によだれが垂れていた。



「位置について!よ~いドン!」


生徒が一斉に走り出す。


(まぁ一番食べやすいクリームパン行きますか……)


木下はクリームパンに狙いを定める。


(クリームパンは俺のものだ!)


すると後ろから誰かが追い抜く。

そして、ジャンプして宙吊りにされたクリームパンを咥える。


(お、お前かよ⁉)


クリームパンを取ったのは穂乃花だった。

穂乃花はあっという間に食べ終わり、一着でゴールした。


「やった~!」

(マ、マジかよ……)


木下は穂乃花を見てポカンとする。他の生徒は必死にジャンプしてパンを咥えようとしていた。



『マシュマロ幼馴染への告白を賭けた競走』


リレーでは咲人がアンカーで走り、一位に輝いた。


「すごいな咲人!一位になるなんて!」

「まぁな。それより次借り人競走だろ?大丈夫か?」

「あぁ!絶対勝ってやるから見とけよ!」


『最後は全学年共通種目の借り人競走です。出場する生徒は招集場所に集合してください』


優が招集場所に移動すると空がいた。


「やぁ。山城君」

「お久しぶりです。先輩」

「いよいよだね。僕に勝てるかい?」

「勝てる勝てないではありません。勝ちます」


『それでは選手入場です』

(絶対勝ってやる!)


優は前の選手に続き、入場した。



「位置について!よ~いドン!」


選手が一斉に走り始め、お題の紙を引く。


「は⁉腕時計つけてる先生って誰だよ!」

「左利きの人……俺のクラスに居たっけ?」

「高校に入ってテストで100点取った人……いるの?」


聞いた感じ、結構バラエティーなお題が多い。


(これ先輩と勝負なるかな?)


もしかしたら二人共、穂乃花が答えのお題を引けない可能性がある。


(その時はその時だ)


選手たちが次々とお題に該当する人と走り、ゴールする。


「それでは最終走者の人はスタートラインに並んでください!」


優がスタートラインに並ぶ。空も自分の位置に着く。


「位置について!よ~いドン!」


一斉にスタートする。優がお題の紙を引く。


(お題は……)


お題を見ると、優は大きく目を開いた。


(急ごう!)


優はダッシュで観客席に向かう。

階段を上ると空が自分とは反対側の階段から一年生の観客席に向かっているのが見える。


(噓だろ⁉)


空も穂乃花が答えなのだろうか?


(急いで行か……)


焦って走っていると優は階段を踏み外してしまった。


(えっ?)


優は手すりを掴めず、落ちてしまった。



一方、穂乃花は観客席でお菓子を食べていた。


(優のお題何だろうなぁ~)


考えながらお菓子をバクバク食べる。


「穂乃花ちゃん!」


穂乃花が振り返ると空が立っていた。


「あ、秋風先輩!」

「穂乃花ちゃん。お題に当てはまるから来てくれ!」

「えっ?はい!」


穂乃花が席を立ち上がる。


「さぁ!行こう!」


空が手を差し出す。


「はい!」


穂乃花は空と手を繋ぐ。

自分を指名してくれるなんて……一体どんなお題何だろう?



「痛ってぇ~」

「大丈夫?」


階段から落ちた優に先生が声をかける。


「大丈夫です!少しよそ見してただけ……」


立ち上がると、右足がズキッと痛む。


「うっ!」

「怪我してるじゃないか。すぐ保健室に……」

「止めないでください!早く行かないと……!」

「これ以上無理させることはできない。そこの君!保健室の先生に車椅子を持って来るように伝えてくれ」

「わ、わかりました!」

「待っ……!」


優は立ち上がるが、右足が痛む。


「……っ!」

「君がどんな理由で頑張っているかは分からないけど、今は君の体が大事だ。ここで待ってなさい」

「……わかりました」


少し経つと、保健室の先生が車椅子を運んでやって来る。


「怪我したのは?」

「この子です」

「車椅子に座って」

「……はい」


優は先生の腕にしがみつきながら歩き、車椅子に座る。


「では保健室に運びます。先生は実行委員に連絡してください」

「分かりました。お願いします」


保健室に向かう道中で優は涙を流した。


(穂乃花……先輩と幸せになれよ……)



『マシュマロ幼馴染の想い』


保健室に運ばれた優は先生に足を包帯で巻かれていた。


「これでよし!数日経ったら治るはずよ」

「ありがとうございます……」

「治療はこれで終わりだけど……戻れそう?」

「あの……ちょっと体調悪いので休んでもいいですか?」

「あらそうなの?わかった。ゆっくり休みなさい」


優はベッドに横になる。


「ちょっと外出るけど大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「すぐ戻るから」


保健室の先生が出ていく。

今頃、穂乃花は空から告白されて嬉しがっているだろう。


(怪我さえしなければ……俺は……)


悔やんでも仕方がない。咲人も言っていた。中学生の時に告白しなかった俺が悪い。


(クソ……)


優が寝ようとしたその時、ドアが開く。


「優!」

「穂乃花……?」


今、一番会いたくない人が来てしまった。


「怪我したらしいけど大丈夫?」

「あぁ……大丈夫だよ」


優は穂乃花から目をそらす。


「で?借り人競走、先輩が選んでくれたんだろ?」

「うん」

「お題は何だったんだ?」

「分かんない」

「……え?」


分かんないって……最終走者はお題を生徒全員に発表して、正誤判定があったはずだ。


「分かんないって……お題聞いてないのか?」

「うん。だって先輩とゴールしてないから」

「なんで……」



数分前。空と穂乃花はゴールに向かって移動していた。


「はぁ……はぁ……」

「穂乃花ちゃん大丈夫?」

「すみません先輩……私、走るの苦手で……」

「分かった。じゃあ少し休もう」

「でもそんなことしたら一位取れなくなっちゃうんじゃ……」

「いいんだよ。ゴールさえできれば」

「そうですか……ありがとうございます」


気を遣ってくれての発言だろう。そうなると申し訳ない。


「もう大丈夫です。行きましょう」

「無理しないでね」

「はい。ところで先輩。お題ってな……」

「先生!こっちです!」


生徒が保健室の先生を案内する。

車椅子を運んでいるので誰かが怪我したのだろうか。


「ちなみに誰が怪我したか分かる?」

「確か体操服に山城って書いていたような……」

「えっ?」


山城……優の苗字だ。優が怪我したのだろうか。車椅子で運ばれるほどの……


(優……大丈夫かな……)

「心配か?」


空が話しかける。


「行ってあげなよ」

「でも先輩のお題……」

「いいんだよ。他の人にも当てはまるお題だから」


空がこっそりお題の紙をくしゃくしゃにする。


「山城君は穂乃花ちゃんにとって大切な人だろ?行ったらきっと喜ぶから」

「……すみません!」


穂乃花は保健室の先生が向かった方向に走り出す。

空はその背中を見送ると、くしゃくしゃにした紙を開く。

お題は『好きな人』。


(さようなら……俺の初恋……)



「なんでって……優が心配だからに決まってるでしょ?」

「ふざけるなよ!」


優の怒号に穂乃花がビクッとする。


「先輩は穂乃花のこと好きだったんだぞ!穂乃花とゴールしてそこで告白するつもりだったと思うのに……なんで俺のところに来るんだよ!」


保健室がシーンと静まる。


「そう……だったんだ……」


お互いの間に気まずい空気が流れる。


「ありがとう優。うちのこと思って言ってくれて。でももういいんだ」

「え?」

「確かにうちは先輩のこと好きだったけど……でも気づいたんだ。大切なものに」


穂乃花が優の両手を握る。


「優と夏休みに喧嘩して先輩と夏祭り行った時さ、小さい頃に優と行った夏祭りのこと思い出してたんだ。何でだろう?ってずっと思ってた。でも分かったんだ。

ずっと優に助けられてたなって。

うちのことをすごく大切にしてくれてるなって。そう思ったら優のこと好きになってた。

だから優がカッコイイって思ってほしい人がいるって聞いた時、モヤモヤしてた……」


穂乃花が涙を流し始める。


「その人と優が付き合ったら今までの関係じゃなくなると思うとすごく嫌だ……」


両手に穂乃花の涙が落ちる。


「気づくの遅すぎたけど……うちが彼女じゃダメ……かな?」

「えっと……」


優は穂乃花の告白に戸惑いながらもゆっくり話し始めた。


「その……あの話噓だったんだ……」

「えっ?」

「借り人競走に出た理由は先輩と穂乃花への告白を賭けていたからなんだ」

「そうなんだ……って優もうちのこと好きなの?」

「あぁ……」


優は恥ずかしさから穂乃花の顔を見ることができない。

穂乃花は嬉しさから優に抱きついた。


「優~~~!うちも優のこと好き!大好き!」

「ちょっ!足怪我してるからいきなり抱きつくのは……」


優と穂乃花のやり取りを見ていた保健室の先生がクスッと笑い、保健室の前を去る。


(もう少しだけ二人きりにさせてあげましょうか)


「ところで優のお題もうちが答えなの?」

「あぁ。行く途中で怪我してしまったけどな」

「お題何だったの?」

「食いしん坊な人」

「うちは食いしん坊じゃないもん!」

「食いしん坊じゃない人があんなスピード出してパン食い競走一位になるかよ!」

「パン好きなだけだもん!」


優と穂乃花のくだらない喧嘩がまた始まった。



『マシュマロ彼女が不機嫌です。』


「優~!起きて~!」

「うん?」


優が目を開けると幼馴染の……いや、彼女の穂乃花がいた。


「朝練遅れちゃうよ?」

「あと5分だけ……」

「起きないと必殺技使っちゃうぞ~」


寝ている優に穂乃花が乗っかる。


「重い……」

「あれ?いつもしんどそうにするのに……」

「さすがに慣れたよ。残念だけど必殺技は通用しないよ」

「どうしようかな……」

「諦めな。じゃあ5分だけ寝るから……」


優は穂乃花が乗ってるにも関わらず寝始める。

穂乃花は少し考えて、何か思いついたのか優に耳打ちする。


「起きないとチューするよ?」

「!!!」


優が慌てて起き上がる。


「よ~し!朝飯食べようっと!」


優が部屋を出ると、穂乃花は頬を膨らませる。


(優のバカ……)



「行ってきま~す!」


優と穂乃花が玄関を出る。


「今日いい天気だな」

「……」

「どうした穂乃花?」

「ふん!」


穂乃花が不機嫌そうに先に歩く。


「おいおい。なんで先に行くんだよ」

「……」

「一緒に行こうよ」

「……」

「食堂の超大盛り特大ビッグビッグラーメン奢るから」

「!……ふん!」

(今、一瞬迷ったな……)


結局、穂乃花が先に学校に行ってしまい、優が着いた頃には穂乃花はマネージャーの仕事をしていた。


「なぁ穂乃花。先に行くなよ」

「うちに話しかけてないで早く練習したら?」


穂乃花がすぐに去ってしまう。


(朝から不機嫌だな……俺何かしたっけ……)



昼休みになるといつも穂乃花が教室に来るが、今日は来ない。


(あれ……もしかしてまだ不機嫌かな?)


優は穂乃花のクラスに向かう。


「穂乃花~食堂行こう~」


穂乃花が優に気づくがすぐに目をそらす。


「超大盛り特大ビッグビッグラーメン奢るよ」

「!」


穂乃花がピクッと反応する。でも目を合わせてくれない。


「唐揚げつける」

「……」

「ホットドッグつける」

「!……」

「わかった……デザートつける」

「……しょうがないなぁ」


穂乃花が優のところに来る。無事、穂乃花と食堂に行くことができた。



「お待たせ穂乃花ちゃん!超大盛り特大ビッグビッグラーメンだよ!」


食堂のおばちゃんが巨大などんぶりを穂乃花に渡す。


「お、美味しそう……!」


穂乃花の目が輝いている一方、優の目は沈んでいた。


(さ、財布があっという間にすっからかんに……高すぎるだろ……)


「いただきま~す!」


穂乃花がどんぶりにある大量のラーメンをバクバク食べる。


「美~味し~い!」

「よかったな……」

「どうしたの優?元気ないよ?」

「大丈夫だよ……」


まぁ機嫌良くなったならいいか……



部活が終わり、優はバッグを持って穂乃花に話しかける。


「穂乃花~。帰るぞ」

「うん!」


帰り道も機嫌悪いかと心配したが、大丈夫そうだ。


「今日、監督に褒められたよね」

「あぁ。秋季大会も大丈夫だろうって太鼓判を押されたよ」

「頑張ってね!」

「おう!」

「あのさ……優……」


穂乃花が恥ずかしそうに話しかける。


「どうした?」

「手……繋ごう?」

「!……おう」


優が穂乃花と手を繋ぐ。


「懐かしいなぁ~優と手繋ぐの」

「そうだな……」


穂乃花の手……あの時より柔らかくなったな……


「そういえば穂乃花。朝、機嫌悪かったけど俺何かした?」

「……優のバカ!」


穂乃花が手を離し、先に帰って行く。


(ヤバ……言わなければよかった……)


これは明日の朝、迎えに来てくれないかもな……



「優~!起きて~!」

「うん?」


優が目を開けると穂乃花がいた。


(来てくれたんだ……)

「朝練遅れちゃうよ?」

「あと5分だけ……」


穂乃花は期待していないが一応言う。


「起きないとチューするよ?」


優がピクッと反応し、起き上がる。


(また起きた……うちとチューしたくないのかな……?)

「穂乃花……ベッドに座って……」

「何?」


穂乃花は言われた通り、ベッドに座る。

すると、優が穂乃花に抱きついた。


「優⁉」

「……この状態であと5分……」

「ダ、ダメに決まってるでしょ!」

「穂乃花ってマシュマロみたいにすごく柔らかい……最高の抱き枕だ……」

「!!!」


起こさないといけないのに、もう少しこの状態でいたいという自分がいる。


「……あと5分だけだからね」

「おやすみ~……」


そう言った瞬間、優から寝息が聞こえる。


(今はこれでいいか……)


穂乃花はおとなしく5分待つことにした。



『マシュマロ彼女を文化祭デートに誘う』


もうすぐ始まる文化祭に向けてホームルームではクラスの出し物を決めていた。


「ゲームにしようぜ!」

「いや食べ物販売にしたら儲かるだろ」

「メイド喫茶とかいいんじゃないか?」

「嫌よ!喜ぶの男子だけじゃない!」

「お前ら早く決めてくれ……」


担任が揉めるクラスメイトを見て呆れている。


(穂乃花のクラスは何やるんだろ?)



部活の休憩時間、優は穂乃花に話しかけた。


「穂乃花のクラスは文化祭何するの?」

「うちのクラスはメイド喫茶だよ」

「え?」


優は思わず持っていた水筒を落とす。


「優?水筒落としたよ」

「あ、あぁ……」


優は落とした水筒を拾う。


「ほ、穂乃花も……メ、メイドになるのか?」

「うちはやらないよ?食べ物の購入と準備作業だけ」

「そっか……」


穂乃花のメイド姿見たかったな……


「優のクラスは何やるの?」

「まだ決まってない。ゲームか食べ物か」

「食べ物だったら行きたい!」

「穂乃花は食いしん坊だもんな」

「食いしん坊じゃないもん」

「いい加減認めろよ……」



翌日のホームルームでクラスの出し物が決まった。


「出し物は居酒屋(酒なし)に決定な」

「酒なしって居酒屋じゃないじゃん……」

「じゃあ居酒屋風飲食店でいいか?」

「長ぇ……」


口論の末、居酒屋(酒なし)に決まった。


「では役割についてだが……」

「居酒屋だったら俺に任せろ!」


クラスの陽キャ筆頭の追分旭おいわけあさひが手を挙げる。


「俺は居酒屋でバイトしてるんだ!ってことで俺が店長で問題ないよな?」

「おぉ!さすが旭!」

「まぁ追分君がやるなら大丈夫じゃない?」

「じゃあ追分がリーダーでいいか?」

「先生!リーダーではなく店長って言ってください!」

「では次に買い出しと準備作業、掃除担当を……」

「先生無視しないでくださいよ……」


しょぼんとする旭に優が声をかける。


「落ち込むなよ旭。当日は頼むぞ」

「優~!わかってくれるのはお前だけだ!」



食堂で穂乃花と食べている時に優は文化祭の出し物の話をした。


「優のクラスは居酒屋なんだ」

「酒出さないけどな」

「行ってみたい!」

「なぁ穂乃花」

「何?」

「文化祭……一緒に回らないか?」

「!……優の奢り?」

「なんでだよ。誰かさんのせいでもう金ねぇよ」

「冗談だって!嬉しいな。優とデート……」

「!!!」


デート……そうか。そうとも捉えれるな。


「まぁ……そうだな……」

「優照れてる?」

「て、照れてねぇよ」

「優の顔真っ赤になってる!」


こういう時はからかいやがって……


「でも俺、店員担当だからあんまり回れないけどそれでもいいか?」

「うん!優と一緒にいれるだけで嬉しいから大丈夫!」


あぁ……可愛いなぁ……



『マシュマロ彼女がご来店です。』


文化祭が始まり、校舎は多くの生徒で賑わっている。


「豪華景品が当たる射的いかがですか!」

「フランクフルト一本200円で販売中!」

「体育館で軽音楽部のライブが12時開幕です!絶対来てください!」


校舎で自分のクラスや部活の出し物の宣伝をする人がいる。


(優のクラス楽しみだな~)


穂乃花が優のクラスを訪れる。


「いらっしゃ~せ~!一名様ご来店です!」


旭がテンションを上げる。


(すごく居酒屋っぽい雰囲気だ……)


「よぉ穂乃花。来てくれたんだ」

「優。店員姿、似合ってるよ」


優は三角巾とエプロンを着けて、さながら店員の姿になっている。


「じゃあこちらの席どうぞ」

「うん」


優が案内した席に座る。


「ご注文が決まりましたらお呼びください」

「は~い!」


どれにしようかな?焼き鳥、焼き魚、唐揚げ……メニューがちゃんと居酒屋だ。

お酒ないけど……


「すみません!」

「は~い!ただいま伺います!」


旭が伝票を持ってやって来る。


「焼き鳥とポテトサラダとオレンジジュースをください」

「かしこまりました!ところでお客様……」

「はい?」


旭がこっそり穂乃花に話しかける。


「優と付き合ってるって本当?」

「本当だよ」

「じゃあ優とキスしたの?」

「えっと……」


穂乃花が戸惑っていると優が旭を引っ張って行く。


「焼き鳥焦げるぞ。仕事しろ」

「あぁ待って!穂乃花ちゃんあとで教えてね!」

「あはは……」



少し時間が経つと、優が穂乃花の注文を持ってやって来た。


「お待たせしました。焼き鳥とポテトサラダとオレンジジュースです」

「ありがとう!」


「ところで穂乃花……」

「何?」


「旭に何言われたんだ?」

「え?」


「嫌なことだったらあいつしばくから」

「ううん!別に大したことじゃないから」


「そうか?なら良いけど……」

「それよりいつデートできる?」


「あと一時間ぐらい動けないかな……ごめんな」

「大丈夫!それまで楽しんでるから!」


「終わったら連絡するから」

「うん!」


優が離れると、穂乃花は手を合わせる。


「いただきます」


穂乃花は焼き鳥を食べる。


(美味しい~!たれ最高~!)


穂乃花が焼き鳥をバクバク食べる。優はこっそりその写真を撮った。


(この画面あとで待ち受けにしよう)



(美味しすぎておかわりしちゃった)


皿にはたくさんの串刺しがある。


「穂乃花食べ終わったか?」


優がやって来る。


「うん!美味しかった!」

「だってよ。旭」


旭が焼き鳥を作りながら答える。


「よかった!今度賄いをもらったら分けてあげるよ」

「やった!」


穂乃花が嬉しそうだ。


「来てくれてありがとな」

「うん!デート楽しみにしてるから!」


穂乃花が嬉しそうに去って行く。


(よほど美味しかったんだろうな~)



(うちのクラスはどれだけ人来てくれてるかな?)


教室前の廊下には多くの男子生徒が並んでいる。


(すごい人だ……)


驚いていると客を見送ったメイド姿の美咲と目が合う。


「穂乃花!ちょうどよかった。人が来すぎてメイドが足りないの!着替えてきて!」

「えぇ⁉」



『マシュマロ彼女がメイドになっていた』


「ありがとうございました!」


優が客を見送ると旭が話しかけて来た。


「優。もう行っていいぞ」

「え?俺まだ時間経ってないのに?」

「人少なくなったしな。それに穂乃花ちゃんと早く回りたいだろ?」

「それはそうだけど……」

「ちなみに優。穂乃花ちゃんに聞けなかったんだけど……」

「?」

「穂乃花ちゃんとキスした?」

「じゃあ行ってくるわ」



優は穂乃花に電話するが繋がらない。


(電池切れか?とりあえず穂乃花のクラスに行ってみるか)


優が穂乃花のクラスに行くとすごい行列ができていた。


(うわ~すご……)


一応メールを送ったが未読のようだ。


(繋がるまでメイド喫茶で時間潰すか……)


行列に並ぶこと10分。ようやく教室に入ることができた。


「いらっしゃいませご主人様!……って山城じゃない!」

「よぉ濱野」

「穂乃花と付き合ってるのに浮気?」

「違ぇよ。穂乃花と連絡繋がらないから時間潰しに来ただけだよ」

「そういうことね。だったら……」


美咲が急に離れる。


(何しに行ったんだ?)


すぐに美咲が誰かをつれて戻ってきた。


「お待たせしてすみません!こちらのメイドに対応させますので!」

「ちょっと美咲!急に呼び出して何……あっ」


優と穂乃花の目が合う。


「穂乃花……?」

「ち、違うの!これは美咲が人手足りないからって……」


優は穂乃花のメイド姿に見惚れていた。

メイド服で穂乃花のぽっちゃり特有のムチムチが強調されている。


「じゃあ穂乃花!このご主人様の対応お願いね!」

「あっちょっと!」


美咲がいなくなり、静かになった二人が取り残される。


「えっと……こちらの席どうぞ……」

「あっ……はい」



穂乃花に案内され、優が席に座る。


「こちらメニューになります……」

「ありがとうございます……」


気まずい空気が流れる。


「ご注文お決まりになりましたらお呼びください……」

「はい……」


優はメニューを開くが、文字が入ってこない。


(穂乃花のメイド姿……破壊力ヤバいな)


「す、すみません……」

「はい……」


穂乃花が伝票を持ってやって来る。


「この……愛情たっぷりケチャップオムライスで……」

「かしこまりました……」


穂乃花が恥ずかしそうに去っていく。


「穂乃花!ちゃんと接客しないとダメでしょ!」


美咲が注意する。


「だって……優が来るなんて聞いてないもん……」

「私だって聞いてないわよ」

「元々美咲が優を対応させたのが悪いんでしょ!」

「メイド姿になった彼女に対応してもらうほうが喜ぶでしょ」

「それは……そうかもしれないけど……」

「オムライスできたよ」

「ほら!行ってきなさい!」

「うぅ……」



穂乃花が恥ずかしそうにオムライスを持ってくる。


「お待たせしました……愛情たっぷりケチャップオムライスです……」

「あれ?ケチャップかかってないけど?」

「こ、これから……ご、ご主人様への愛情を込めて……ケ、ケチャップをかけます……」


穂乃花がケチャップをかけ始める。


「あ、あの……恥ずかしいので目を瞑っていただけますか?」

「はい……」


優が目を瞑る。するとケチャップを出す音が聞こえる。


(長いな……そんなに時間かかるか?)


少し経ち、ケチャップを出す音が聞こえなくなった。


「お、お待たせしました……目を開けて、お召し上がりください……」


優が目を開けるとそこに穂乃花の姿はなかった。


「!」


オムライスの卵にケチャップで『ゆう大好き』と書かれている。


「ちょっと穂乃花……ハート書くだけで何恥ずかしがってるのよ」

「~~~!」


穂乃花は真っ赤になった顔を誰にも見られないように両手で隠す。


(嬉しいけど穂乃花。一つ言いたいことがある……)


スプーンがありません……



「ごちそうさまでした!」


優が立ち上がる。


「あ、ありがとうございました……」


穂乃花が頭を下げる。


「その……穂乃花のメイド姿見たかったから見れて嬉しいよ」

「でも……変じゃないかな?」

「そんなことないよ。すごく可愛い」

「ありがとう……」


さっきのオムライスのこともあってお互い照れくさくなる。


「お客様!追加料金を払えばチェキ撮影ができますがどうしますか?」


美咲がカメラを持っている。


「撮ってもいい?穂乃花」

「……優が撮りたいなら」

「じゃあそこに並んでください!」


美咲がカメラを構える。


「はい!チ~ズ!」


パシャ!


「OKです!こちらの写真どうぞ!」

「ありがとう」


「穂乃花ももう行っていいよ!」

「でもまだ人が……」


「彼氏と一緒に居たいでしょ?」

「うん……」


「行っておいで!」

「ありがとう!」


「じゃあ行こうか」

「うん!」


優は会計を終わらせて、穂乃花と共に教室を出た。



『マシュマロ彼女と文化祭デート』


「優。あれ食べたい!」


穂乃花が指をさした所にフランクフルトの店がある。


「じゃああれ行くか」


教室に入ると空が客にフランクフルトを渡していた。


「ありがとうございました~。おっ!山城君と穂乃花ちゃんじゃん!」

「体育祭ぶりですね。先輩」

「二人共買いに来てくれたの?」

「はい。穂乃花が食いしん坊なので」

「食いしん坊じゃないもん!」

「アハハ!二人はやっぱり仲良いね」


空はフランクフルトを二本用意する。


「料金はいらないから」

「えっ⁉でも……」

「付き合ったんだろ?僕からのお祝いだ。それに……いや、何でもない」


山城君に敵わないと分かっていたという言葉を飲み込む。


「僕のことは気にしないで」

「ありがとうございます!」



「美~味し~い!」


穂乃花がフランクフルトを食べて目を輝かせる。


「本当に美味しそうに食べるよな」

「だって美味しいんだもん!」

「次はどこ行く?」

「ポップコーンがいい!」

「食べ物ばっかだな……」


その後、優は穂乃花とポップコーンやえびせんべい、たこ焼きを食べた。


「美味しかった~!」

「もう食えない……」

「じゃあそろそろゲームの出し物行こっか!」


次に優と穂乃花が訪れたのは射的だ。


「さぁ!まだ当たりは残ってるよ!真ん中に二回当てるとギフトカード一万円分!」

「おりゃ~!」


生徒たちが射的に挑戦するがなかなか真ん中に当てることができる人はいない。


「優いけそう?」

「俺に任せろ」


優がライフルを構えて、撃つと真ん中に当たる。


(あと一回……)


優は再び構えて撃つと真ん中に当たった。


「お、大当たり!ギフトカード一万円分です!」

「おぉぉぉぉ!」


周りから拍手される。


「優すごいね!」

「これ穂乃花にやるよ」


優が穂乃花にギフトカードを渡す。


「受け取れないよ!優が苦労して当てたやつなのに……」

「別に欲しいものないからさ。俺が持ってても無駄になるから」

「あ、ありがとう」


穂乃花がギフトカードを受け取る。


(これで優へのプレゼントでも買おうかな……)



「そろそろ軽音楽部のライブが始まるらしいぞ」

「じゃあ行こうか!」


優と穂乃花が体育館に移動すると軽音楽部がステージに立っていた。


「皆!今日は来てくれてありがとう!俺たちが文化祭のために練習した曲を披露するぜ!」


周りから歓声が上がる。


「それじゃあ行くぜ!」


ドラムを叩くリズムからギターの演奏が始まる。

そしてボーカルが歌い始める。

優が穂乃花のほうを見るとステージに集中していた。

サビの部分に入ると観客が盛り上がる。

大盛況の中、ライブが終了した。



「凄かったね!ライブ!」

「あぁ」

「文化祭ももう終わりか……あっという間だな……」

「散々食べただろ」

「そうだけど……」


穂乃花は物足りなさそうな表情をしている。


「もうすぐ校外学習だろ?」

「そうだった!楽しみ!」


穂乃花がすぐ明るくなる。


「ねぇ……校外学習でもデート……する?」

「!」


穂乃花がつぶらな瞳で優を見つめる。する?じゃなくてしたいんだろうな……


「でも校外学習はクラス別の班活動だぞ?」

「えっ⁉噓⁉」


穂乃花がしょんぼりする。


「だから終わった後でいいだろ?」

「うん!」


ピンポンパンポン!


『これにて光星学園文化祭を終了します。生徒の皆さんは自分のクラスに戻り、後片付けをしてください』


「だってさ。戻ろうか」

「うん!」


優と穂乃花は手を繋いで、教室に戻った。



『マシュマロ彼女の誕生日プレゼント』


秋季大会決勝。9回裏の2アウト2ストライク3ボールの満塁。

現在、試合は3-2で光星学園がリードしている。

優が試合後半のピッチャーを努めていた。


(まずい……)


優の心臓がドクドクしている。次の投球で全てが決まる。

チームメイトや監督、穂乃花が優を見つめている。


(よし!)


優がボールを投げると、バッターが打つ。


(!!!)


優が打ち上がったボールを見るとゆっくりと選手の方に落ちていき、キャッチされる。


「3アウト!ゲームセット!」


両チームの選手が向かい合う。


「ありがとうございました!」


秋季大会は光星学園の優勝で幕が閉じた。



帰り道、優と穂乃花は夕方の歩道を歩いていた。


「疲れた~」

「お疲れ様」

「今日は結構やばかったな……」


優は後半からの登板だったが、何度もヒットを打たれた。

皆のおかげで何とかなったが、甲子園ではそういうわけにはいかない。


「俺、まだまだだな」

「次に向けて頑張らないとね」

「そうだな」


もっと練習しないとな……


「ねぇ。ちょっと優の家に寄ってもいいかな?」

「いいけど……なんで?」

「えぇと……優と一緒に居たいからじゃダメ……かな?」


全然いいです。



家に上がると遅い時間ということもあって真っ暗だった。


「あれ?おばさんいないの?」

「決勝の応援の後に偶然ママ友と会ったから遅くなるって」

「そ、そうなんだ……」


二人は優の部屋に入る。


「優……」

「ん?」


穂乃花が鞄から何かを包んだプレゼント袋を取り出す。


「お誕生日おめでとう!優!」

「あっ……」


そういえば今日誕生日だったな。決勝に緊張してて忘れていた。


「ありがとう。開けていい?」

「うん」


優が袋を開けるとゲームソフトのパッケージが出てきた。


「これ……」

「優欲しいって言ってたでしょ?」

「ありがとう!すげぇ嬉しい!」

「よかった……買ってたらどうしようかと思った」


穂乃花がホッとする。


「じゃあ……プレゼントも渡したし帰るね」

「来たばっかりなのに帰るのか?」

「……?うん」

「そっか……」

「じゃあまたね」


穂乃花が部屋を出ようとすると優が手を引っ張る。


「優?」

「俺と一緒に居たいって言ったの噓だったのか?」

「う、噓じゃないよ。プレゼントを二人きりの時に渡したかったからそう言っただけで……」

「じゃあ今日誕生日だからさ……穂乃花にわがまま言ってもいい?」

「内容次第だけど……何?」

「俺と居てよ」

「!……うん。優がそう言うなら……」


穂乃花が部屋に戻り、座る。


(珍しいな……優がそんなこと言うなんて……)


そう思っていると優が抱きついてきた。


「優?」

「疲れた……」

「よしよし」


穂乃花が頭を撫でる。やがて抱きつく力がなくなっていき、膝に倒れる。


「穂乃花……膝も柔らかい……」

「あんまりそう言うこと言わないでよ……恥ずかしいから……」

「……」

「優?」


寝息が聞こえる。眠ってしまったようだ。


「優。お疲れ様」


穂乃花はしばらく優の頭を撫でていたが眠ってしまった。



(ん?)


優が目を開ける。


(穂乃花の膝枕で寝ちゃってた……)


起き上がると穂乃花も目を覚ます。


「優……起きた?」

「あぁ……ごめんな。急に寝ちゃって」

「疲れてたんだから仕方ないよ」


話していると急にドアが開き、母親が入ってくる。


「起きた?ご飯できたわよ」

「もう帰ってたのか?」

「とっくに帰ってきてるわよ。穂乃花ちゃんも今日は泊まりなさい。お母さんには連絡しておいたから」

「えぇ⁉」

「母さん!勝手に話を進めるなよ!」

「何言ってるのよ!誕生日だから穂乃花ちゃんと過ごしたいでしょ!」

「そ、それは……」

「おばさんと優がいいなら……」

「じゃあ……食べるか」


急遽、穂乃花が泊まることが決定した。



『マシュマロ彼女と過ごす誕生日』


「ごちそうさまでした」


優と穂乃花が手を合わせる。


「パパ!電気消してくれる?」

「おう!」


父親が家の電気を消す。


「ハッピバ~スデートゥ~ユ~♪ハッピバ~スデートゥ~ユ~♪」


穂乃花が突然歌い始めた。


「ハッピバ~スデーディア優~♪ハッピバ~スデートゥ~ユ~♪」


電気がつき、目の前には誕生日ケーキがある。


「優!誕生日おめでとう!」

「ありがとう!」

「ほら!火消して!」


優がろうそくの火を消す。


「じゃあ食べましょうか」

「美味しそう!」


穂乃花が目を輝かせる。


「結構大きいから余ったら穂乃花ちゃんが食べていいわよ」

「いいんですか!嬉しいです!」

「本当に食いしん坊だな」

「食いしん坊じゃないもん!」



穂乃花は分けても多く残っていたケーキを完食した。


「はぁ~こんなにケーキ食べられて幸せ~」


そう言って優のベッドに寝転がる。


「人のベッドで寝るなよ」

「いいじゃん。どうせここで寝るんだから」

「まさかまた一緒に寝るつもりか?」

「うん!」


もちろん!みたいに言うなよ……ベッド狭くなるんだから……

そう思っていると母親がドアを開く。


「お風呂沸いたから早く入りなさい」

「は~い」


優が返事すると、母親はドアを閉めて去って行く。


「穂乃花。先入れよ」

「いいよ……優が疲れていると思うから優が先入ったら?」

「俺は少しだけ寝たいから」

「ダメだよ!優いっぱい汗かいたんだから先入らないと!」

「穂乃花だって疲れてるだろ!」


優と穂乃花の譲り合いが止まらない。


「じゃあ……お互い先に入った方が良いって言うならさ……」


穂乃花の顔が赤くなる。


「お風呂……一緒に……入る?」

「……は?」


優がポカンとした顔になる。


「いやいやいや!何言ってるの⁉」

「だってこのままじゃ時間が経つだけじゃん!」

「そうだけど穂乃花は一緒に入りたいわけじゃないだろ?」

「……うちは優と入っても……いいけど……嫌?」

「!!!」


待て待て待て。落ち着け俺。落ち着くんだ。

もちろん入りたい。嫌なわけがない。

一緒にお風呂に入れば穂乃花のマシュマロボディを拝むことができるし……

幸い理性が仕事しているおかげでまだ我慢できる。何とかしなければ……


「でも穂乃花……その……恥ずかしいだろ?裸見せるのさ……」

「……」


よし黙った。あとはやっぱり俺が先に入るって言えば完璧……


「恥ずかしいけど……優になら……見られても……いいかな……」

「!!!」


優の理性が完全に崩壊した。


「じ、じゃあ!一緒に……」


バン!とドアが思いっきり開く。


「優。あんた大会で汚いから早く入りなさい。穂乃花ちゃんも疲れてるから」

「あっはい」



優は体を洗い、湯船に浸かる。


「はぁ~疲れてる時のお風呂最高~」


優は天井を見上げながらさっきの会話を思い出す。


(恥ずかしいけど……優になら……見られても……いいかな……)


思い出しただけで顔が真っ赤になる。


(でも同棲とか……結婚したら……一緒にお風呂に入るのが当たり前になるのかな?)


優は一緒にお風呂に入った時を想像する。

優は湯船に浸かっていて、穂乃花が体を洗っていて……


(ダメだ。これ以上考えるとヤバい)


優は湯船を上がった。



優が部屋でスマホを触っていると穂乃花がパジャマ姿で上がってくる。


「優歯磨きした?」

「とっくに終わってるよ。穂乃花は?」

「うちもお風呂上がった時に」

「そうか。じゃあ電気消していいか?眠たいし」

「うん」


優が部屋の電気を消すと真っ暗になり、お互いベッドに寝転がる。


「穂乃花……」

「何?」


優が穂乃花を抱きしめる。


「優⁉」

「おやすみ……」


優が寝始めようとする。


「ま、待って!」

「なんだよ」

「もううちを抱き枕にしなくても寝れるんじゃないの?」

「寝れるよ」

「じゃあなんで抱きしめるの?」

「穂乃花が悪いんだよ……あんなこと言うから……」

「あんなことって……」


穂乃花はあの時の会話を思い出す。


「もしかして一緒にお風呂入る?って言った時?」

「あぁ。あんなこと言われたら穂乃花に触れたくなっちゃうだろ……」


優の手が穂乃花のお腹に移動し、パジャマ越しに揉み始める。


「いやぁ……触らないで……」

「柔らかくなったな……子供の時より」

「そんなことないもん……」

「どこ触っても温かいし柔らかいな……」


優はお腹を揉み続ける。


「いつまで触るの?」

「眠るまで」

「えぇ……」



優の目が覚めると、すでに朝9時になっていた。


(気づいたら寝ていたな)


隣で穂乃花がスヤスヤ眠っている。


(いつも朝早いのに……)


優が穂乃花の頬を指でツンとするとぷにっとしていて柔らかい。


(全然起きないな……)


優が頬をツンツンし続けているとようやく目を覚ました。


「おはよう穂乃花」

「おはよう……」

「珍しいな。穂乃花がこの時間まで寝てるなんて」

「優のせいだよ?お腹ずっと触って……」

「ごめんごめん」

「次触る時は寝る前にしてね」


寝る前ならいいんだ。そう思った優であった。



『マシュマロ彼女が迷子になった』


(着いた……)


優がみなとみらい駅を出ると学生が大勢いる。

今日は校外学習の日。班でみなとみらいと中華街を巡る。


「優!こっちこっち!」


同じ班の旭が手を振っている。


「遅いぞ優!」

「まだ集合時間まで余裕あるだろ。咲人は?」

「ここだよ」


咲人がやって来る。


「楽しみだな!みなとみらい!」

「どこから行く?」

「じゃあ横浜ランドマークタワー行こうぜ!」


優たちは横浜ランドマークタワーに行くことになった。



「高ぇ!」

「旭。声でかい」


展望台から横浜の街並みが見える。


「海が綺麗だな~」

「夜に見たらもっと綺麗だろうな」

「次はどこ行く?」

「お腹空いたし、中華街でも行くか」

「賛成!」



横浜中華街に移動すると多くの人で賑わっていた。


「旭は何食べたい?」

「やっぱり小籠包だろ!」

「じゃあ店探すか」


お店を探していると見覚えのある顔が見えた。


「穂乃花?」

「あっ!優!」


穂乃花の手には肉まんがある。


「穂乃花らしいな……」

「何よ?また食いしん坊って言うつもり?」

「いや、事実だから言う必要ないだろ」

「事実じゃないもん!」


穂乃花が頬を膨らませる。


「じゃあそういうことにしておくから解散したらまた会おう」

「うん!またね!」


優と別れると美咲が話しかけて来た。


「穂乃花まだ食べてたの?さっき北京ダックとチャーハン食べてたのに」

「だって美味しいんだもん!」


穂乃花が食いしん坊であることは間違いなかった。



「優どこに行ってたんだよ!探したぞ!」

「悪い悪い」

「優の分の小籠包残しておいたから」

「ありがとな」


優が小籠包を口に入れる。


「熱っ!」

「一口でかすぎるからだろ。ちょっとずつ食べろよ」


その後も中華料理を食べて、中華街を満喫する。


「はぁ~食った食った」


旭が満足したような顔をしている。

咲人が腕時計を確認するとちょうどいい時間になっていた。


「そろそろ集合時間だ。戻るか」

「そうだな」

「えぇ~もうちょっと満喫したかったなぁ~」

「解散したら行けばいいだろ」

「じゃあ解散したらまたみなとみらい行こうぜ!」

「悪い。俺はちょっと予定あるから……」

「予定ってなんだよ?」

「えっと……」


優が困惑していると咲人が何かを察し、旭に耳打ちする。


「そうか!それは仕方ないな!じゃあ咲人行こうぜ!」

「仕方ないな」


三人は集合場所の元町・中華街駅へ向かった。



先生の点呼を受けて、旭と咲人と別れた優は駅前で穂乃花を待ち続ける。


(穂乃花の班遅いな……)


そう思っていると美咲たちが慌てたように先生に話しかける。


「先生!穂乃花とはぐれちゃって……それで電話したけど繋がらなくて……」

(え?)


優が思わず聞き耳を立てる。


「いつはぐれたんだ?」

「中華街を出ようとした時にいないことに気づいて……」

「何かあったのかもしれない。先生方は……」


優は穂乃花に電話するが、やはり繋がらない。

本当に何かあったのかもしれない……夏祭りの時みたいに……


(穂乃花……)


優は中華街に向かって走り出した。



「穂乃花~!」


人混みが激しい中華街で優は穂乃花を探す。


(見つからない……ここにはいないのか?)


優はもう一度穂乃花に電話する。


(頼む……出てくれ……)


その願いも、次の言葉で打ち砕かれる。


『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか……』


(マジで……何かあったのか……?)


優の顔が青ざめていく。


(いや、諦めるのはまだ早い!)


優が再び探そうとすると後ろから誰かに抱きつかれた。


「⁉」

「優~!」

「穂乃花……」


穂乃花は優の背中で泣き続ける。


「よかった~!気づいたら皆いなくて……スマホの電池も切れて……ずっと一人だったよぉ~」

「とりあえず無事でよかった」


優が穂乃花の頭を撫でながら、ハンカチで穂乃花の涙をぬぐう。


「皆心配してたから早く行くぞ」

「うん!」


優と穂乃花が手を繋いで、駅に向かった。



『マシュマロ彼女とみなとみらいデート』


「穂乃花!心配したんだよ!」

「ごめんなさい!」


穂乃花が班のメンバーに頭を下げる。


「先生もお騒がせしてすみません……」

「まぁ何もなくてよかったよ」


こうして穂乃花は美咲たちと無事合流することができた。



「優本当にありがとう。優がいなかったらうち……」

「本当に穂乃花はすぐ迷子になるんだから」


優は穂乃花の頭を撫でる。


「もう離れるなよ。誰からも。俺からも」

「……うん!」


穂乃花は優と手を繋ぐ。


「早くデート行こう!」

「あぁ」



優と穂乃花がやって来たのはショッピングモールだ。

穂乃花が服を買いたいと言うので服屋に来ていた。

試着室のカーテンが開き、白Tシャツにベストを着た落ち着いた服装を披露する。


「どう?」

「に、似合ってるよ」

「そう?」


穂乃花が次に披露したのはパンダが描かれたフード付きの服装だ。


「どう?」

「似合ってる」


次に披露したのは灰色のワンピースだ。


「どう?」

「似合ってる」

「どれが一番似合ってた?」

「穂乃花が決めなよ」

「何それ?次の優とのデートの服装にしようとしてるのに」

「いや、あの……どれも可愛いから決められない……」


優が恥ずかしそうに目をそらすと穂乃花の顔も赤くなる。


「そ、そう……じゃあうちが決めていい?」

「うん」


悩んだ末、穂乃花はワンピースを購入した。



「優。あれ食べたい!」


穂乃花が指をさした方向にはソフトクリームの店があった。


「中華料理をたくさん食べたんじゃ……」

「デザートは食べてないもん。食いしん坊だからじゃないからね!」

「はいはい」


優は抹茶ソフトクリーム、穂乃花はバニラソフトクリームを注文した。


「美~味し~い!」

「穂乃花。口にクリーム付いてる」

「拭いて~」

「ったく」


優がティッシュを取り出し、穂乃花の口を拭こうとするが、腕が止まる。


「優?」

「……」


穂乃花の口元を見ると唇にもクリームが付いている。


(美味しそうな唇だな……)

「優早く拭いてよ!」

「わ、悪い」


優が穂乃花の口をティッシュで拭く。


「次どこ行く?」

「美術館でも行くか?」

「うん!」


ソフトクリームを食べ終わり、美術館に向かった。



美術館を出ると、外はすでに真っ暗になっていた。


「楽しかったね!」

「あぁ」


穂乃花が満足そうにしている。


「最近、優と一緒にいたら時間経つの早く感じる気がする」

「それだけ楽しんでいただけたのなら何よりだよ」


二人はみなとみらい駅から電車に乗り、席に座る。


(楽しかったけど疲れたなぁ~)


穂乃花を見ると、優の肩に倒れて気持ちよさそうに眠っている。


(寝顔可愛いなぁ……俺も眠たくなってきた……)


優も目を閉じて、眠った。



『マシュマロ彼女とおままごと』


部活が終わり、優は帰宅の準備をする。


(明日は久々の休みだ!)


最近は秋季大会の練習があって休めなかったが、大会も終わったことで土日は自主練になった。


(それに明日は……小春ちゃんが来る日だ!)


優がワクワクしているのを穂乃花が不思議そうに見つめていた。



翌日。ピンポンとインターホンが鳴る。


「お邪魔します」

「優君久しぶり」

「お久しぶりです。おじさん。おばさん」


おじさんとおばさんの後ろから少女が走って優に抱きついた。


「優にい!」

小春こはるちゃん!久しぶりだね!」


優は小春をギュッと抱きしめる。


「小春が優君に会いたい会いたいってずっと言っていたからな」

「優にい!一緒に遊ぼ!」


小春は優の従妹だ。

一人っ子で妹が欲しかった優と優を兄のように慕っていた小春は本当の兄妹のように仲が良い。


(前会った時は小さかったのに今はこんなに大きくなって……成長が早いなぁ……)


「よし!今日はたくさん遊ぼうか!」

「うん!」



早速、優と小春は積み木で遊んでいた。


「できた!」

「これは何を作ったの?」

「お家!」

「すごいね」

「次は何作ろうかな?」


小春は積み木を崩して、何作るかを考える。


「優。せっかくだから公園に連れて行ってあげたら?」

「公園?行きたい!」

「じゃあ行くか」


優は小春を連れて公園に来た。


「優にいかくれんぼしよう?優にいが隠れて!」

「分かった」

「じゅう~……きゅ~……は~ち……」


小春が数えている間に優はジャングルジムの陰に隠れる。


「い~ち……ぜーろ!も~うい~かい?」

「も~うい~いよ」

「どこだろう?」


小春がきょろきょろ周りを見て優を探す。


(見つけられるかな?)


優が探している小春を見つめていると後ろから誰かが話しかけて来た。


「優そこで何してるの?」

「穂乃花⁉」


優の声に気づき、小春が近づく。


「優にい!見つけた!」

「あちゃ~見つかったか」

「かくれんぼしてたの?ごめんね」

「いいよ別に」

「おねえちゃんは優にいの友達?」

「友達っていうか……その……」


恥ずかしがるなよ……こっちも恥ずかしくなるだろ……


「このおねえちゃんは俺が大好きな人だよ」

「!」

「ふ~ん。なら小春もおねえちゃん大好き!」

「ありがとう」


穂乃花が小春の頭を撫でる。


「この子ってこないだ優が自慢してた従妹?」

「そう。小春ちゃん」

「うちは穂乃花。よろしくね」

「穂乃花おねえちゃんも一緒に遊ぼう?」

「うん!」



砂場に移動し、小春はスコップで砂をすくう。


「懐かしいね。うちらも砂場でよく遊んだよね」

「無理やり穂乃花に付き合わされてな」

「そう言ってうちのこと好きだから付き合ってくれたんじゃないの?」

「べ、別にそんなんじゃねぇよ!」

「ふふ。今の優ツンデレみたい」


二人で喋っていると、小春が砂場遊びのセットを穂乃花に渡す。


「おままごとしよう?優にいが小春のパパ、穂乃花おねえちゃんが小春のママね?」

「分かった」

「ママ~。お腹空いた~」

「今作るからね~」


穂乃花がスコップで砂をすくう。


「これをこうして……」

「……」


穂乃花が砂で料理を作っているところを優がじっと見つめる。


(穂乃花と結婚したら今みたいに作ってくれるのかな?)


―――優は穂乃花のエプロン姿を想像する。


「おかえり。ご飯できてるよ」


机には手料理がズラッと並んでいる。


「こんなに食べきれないって……」

「大丈夫!残ったらうちが食べるから!」

「相変わらず食いしん坊だな」

「食いしん坊じゃないもん!」


穂乃花が頬を膨らませる。


「ほら!早く食べよう?うちもお腹空いた!」


―――「優?」


優がハッと我に返ると穂乃花が砂で作ったドーナツが置いてある。


「ご飯できたよ?」

「あ、あぁ……ありがとう」

「いただきます!」


小春が食べるふりをする。優も食べるふりをする。


「美味しい!」

「よかった。優は?」

「……」


―――「今日の料理美味しい?」

「美味しいよ。穂乃花は料理上手だな」

「当然よ。うちは食べるのが好きだから作るのも上手にならないとね」


穂乃花は自分の手料理を美味しそうに食べる。


「穂乃花」

「何?」

「俺、穂乃花と一緒に居れてすごく……」


―――「優?」

「な、何?」

「大丈夫?さっきから上の空だけど……」

「大丈夫だよ」

「ならいいけど……」

「穂乃花おねえちゃん!次は団子作ろう?」

「いいよ」


優は穂乃花と小春が遊ぶ姿を微笑ましそうに見つめていた。



「ただいま~」

「おかえりなさい。あら寝ちゃったのね」


優は眠っている小春をおんぶしていた。


「夕方まで遊んでいたから」

「きっと楽しかったのね。ありがとね優君」

「いえ、俺は大したことしてませんから」


優は小春をおじさんに渡す。


「優これ」


穂乃花が小春の砂遊びセットを渡す。


「あら、あなたが優君の彼女?」

「は、はい……」

「可愛い人選んだね」

「そうでしょ?」

「ちょっと優……」

「間違ったこと言ってないもん」

「もう……」

「ちょっと穂乃花を家に送ってくるって母さんに伝えておいてください」

「分かったわ。穂乃花ちゃん。この子と遊んでくれてありがとう。また遊んであげてね」

「はい!」



「小春ちゃんと遊んで楽しかったな~。久々に子供に戻った気分」

「穂乃花は元々子供っぽいけどな」

「どこが?」

「食いしん坊なところとか」

「食いしん坊じゃないもん!」

「はいはい」


いつも通りの会話をしていると穂乃花が口を開いた。


「あのさ……優はうちと結婚したら子供欲しい?」

「!」


優は思わず立ち止まる。


「急にどうしたんだよ?」

「小春ちゃんと楽しそうに遊んでいたから……子供好きなのかなって……」


そっか……そんなこと全然考えたことなかった。

穂乃花と幸せな家庭を築くことを考えていたけどその中には俺たちの子供がいる可能性があるのか……


「それで……どうなの?」

「俺は……欲しいと思ってる」

「そっか……」

「穂乃花は?」

「うちも……優の子供欲しい……かな」

「そっか……」


お互い顔が赤くなる。


「い、家着いたな!」

「う、うん!送ってくれてありがとう」

「じ、じゃあな!」


優が足早に帰ると、穂乃花は家に入った。


「ただいま」

「おかえり。遅かったわね」

「ちょっと優と会って」

「そっか。もうすぐご飯できるからね」


穂乃花は手を洗い、部屋に籠る。


『俺は……欲しいと思ってる』


優の言葉がしばらく穂乃花の心から離れなかった。



『マシュマロ彼女とシスコン兄貴』


土曜日。優は穂乃花の家に遊びに来ていた。


「どう?このクッキー。初めて作ったんだけど……」

「美味しいよ」

「よかった」


穂乃花がホッとする。


「いっぱいあるからたくさん食べてよ」

「おう」


優が穂乃花のクッキーを食べていると突然、部屋のドアが開いた。


「やっほ~!穂乃花!」

「お兄ちゃん⁉」


入ってきたのは雪宮東吾ゆきみやとうご。穂乃花の兄だ。

東北の体育大学に進学しているため家に帰ってくる頻度が少ない。


「今日帰ってくるなら言ってよ」

「父さんと母さんには言っていたんだけど穂乃花にはサプライズしたくてさ」

「今は優が来てるんだから」


すると東吾が優を睨みつける。


「なんでお前がここにいるんだよ」

「なんでって……穂乃花に誘われたからですけど?」

「穂乃花。なんでクソガキを誘った?」

「優にうちが作ったクッキーを食べてほしくて……」

「どれどれ?」


東吾がクッキーを口に入れる。


「う、美味い!今まで食べたクッキーの中で一番美味い!よし!店を出そう!」

「ほ、褒めすぎだよ……」

(まだシスコン治ってなかったんだ……)


東吾は重度のシスコンだ。

優が穂乃花と遊んでいると何度も敵視された経験がある。


(この人がいたから今まで告白できなかったんだよな……)←そんなことない


「おいクソガキ。クッキー食べたんだろ?さっさと帰れ」

「なんでそんなこと言うの?」

「穂乃花と二人きりの時間を邪魔しないでほしいんだよ」

「だったら連絡したらよかったじゃん」

「もしかして穂乃花はお兄ちゃんよりそのクソガキと一緒に居たいのか?」


東吾が泣きそうな顔をしてる。


「今は……優と一緒に居たい……」


穂乃花が優に抱きつくと東吾がショックを受ける。


「貴様~!俺の大事な妹を~!」

「お兄さんが連絡したらよかったじゃないですか。そうしたら俺はいませんでしたよ」

「うるさいうるさい!」

(見っともないなぁ……)


優は呆れてしまう。


「もういい!穂乃花!そんな男とは別れるんだ!」

「なんでよ!」

「俺が嫌いだからだ!」

(うわ~自分勝手だ……)


優がさらに呆れていると穂乃花は優を思いっきり抱きしめる。


「別れるなんてできないよ……うちは優のこと大好きだし……赤ちゃん作る約束したし……」


部屋が静まる。


クソガキ……お前……」


東吾から禍々しいオーラが出ている。


「待って待って!お兄さん!俺そんな約束してないです!」

「貴様……妹が噓ついてるとでも?」

「穂乃花もなんでそんなこと言うんだよ!」

「お互い欲しいって言ったじゃん。それにこう言わないとお兄ちゃんが優を認めてくれないんだもん……」


気持ちは分かるけどそのせいで悪化してますよ?


「よし。クソガキ……決着けりをつけよう」


東吾が両手を組む。


(俺……死んだかも……)



気がつくとホワイトボードとペンが渡されていた。


「お兄さん?これは……」

「どっちが穂乃花のことを理解しているか『穂乃花王』で決めようじゃないか」


それユーチューバーがよくやるやつじゃん……


「俺が勝ったら穂乃花と別れてもらう。お前が勝ったら穂乃花との交際を認めてやる」

「それお兄さんが決めることじゃ……」

「うるせぇ!穂乃花!問題を出してくれ!」

「じゃあ……うちが好きな食べ物は?」

「こんなの簡単だ」


東吾がホワイトボードに書き始める。優も書く。


「じゃあクソガキ。お前から出せ」

「デザート全般」

「ふっ。これだからクソガキは……俺の手料理に決まってるだろ」

「正解は……デザート全般!優1pt!」

「な……んだと?」


東吾が思わずホワイトボードから手を離す。


「穂乃花……お兄ちゃんの手料理……美味しいって言ってくれてたじゃないか……」

「美味しいけどデザートの方が好きだから」

「ぐぬぬ……デザート作れるようになってやる……」


その後も問題が出されるが優は全問正解。東吾は全問不正解。


「なぜだ……俺よりクソガキが理解している……だと?」

「お兄さん穂乃花のこと何も分かってないですね」

「~~~!」


怒ってる怒ってる。怖いなぁ~(棒読み)

散々言われたからこっちも言っていいよね。


「こうなったら……次の最終問題は100ptだ!」

「うわ……ダサ……」

「うるせぇ!穂乃花!問題出してくれ!」

「じゃあ……うちが優の一番好きなところは?」

「それ……お兄ちゃんも書かないといけないのか?」

「うん」

「~~~!」


東吾が不服そうにホワイトボードに書く。


「じゃあ優から聞いていい?」

「甘やかしてくれるところ」

「なるほど……じゃあお兄ちゃん」

「……一緒に居て楽しい……とかじゃねぇか?」


そんなこと書くなんて……意外だな……


「正解は……うちを大切にしてくれるところ!二人共不正解!」

「クソ~!」


東吾が悔しがっているのをよそに穂乃花が優に抱きつく。


「優。うちを大切にしてくれてありがとう!大好き!」

「穂乃花……」


優が穂乃花の両頬に触れる。ぷにぷにしていて柔らかい。


(本当に可愛いなぁ……)


優が唇を近づけると穂乃花も察したのかドキドキしながら目を閉じる。


(優……)


しかし二人の唇が触れ合う瞬間に優の頭に拳骨が降ってくる。


「痛っぁぁぁぁぁ!」

「俺の前でイチャつくな」


優が頭を抑えているところを穂乃花が撫でる。


「優にこんなひどいことするなんて……お兄ちゃん嫌い!」

「そ、そんな……」


東吾はショックを受けた。



「すみませんでした……」

「もう優をひどく言ったりしないでよね!」

「はい……」

「じゃあそろそろ帰るわ」

「ごめんね優。お兄ちゃんが色々迷惑かけて……」

「本当だよ。……って言いたいけど穂乃花を大切にしてるからだろ?」


優は東吾の正面から話す。


「お兄さん。俺は穂乃花を悲しませることは絶対しません。必ず幸せにします」

「……妹を……よろしくお願いします」


東吾が頭を下げた。



『マシュマロ彼女と過ごすクリスマス・イブ』


12月24日。優は寒い夜の中、駅前でスマホを触っていた。


(ごめん~!!遅れる~!!泣)


穂乃花からのメッセージを見た優は呆れながらも『急がなくていいよ』と送信する。


(……ったく。自分から誘っておいて遅れるなよ……)


今日はクリスマス・イブ。穂乃花とイルミネーションを見に行く約束をしていた。


(あぁ送ったけどやっぱり寒い……頼むから早く来てくれ……)



あれから少し経ち、穂乃花が慌ててやって来た。


「ごめん優!」

「全然大丈夫だよ」


優は自販機で買ったコーンスープを飲んでいた。


「あっ!うちも寒いのにズルい!」

「遅れたのは誰だよ?」

「それは……」

「冗談だって。飲んでいいぞ」


優が缶を渡す。


「ありがとう……」


穂乃花がコーンスープを飲む。


「温かい……」

「買いたてだからな。飲んだらさっさと行くぞ」

「うん!」



優と穂乃花が歩いていると通りがイルミネーションでキラキラ輝いている。


「綺麗~!」


穂乃花が目を輝かせている。


「キッチンカーやってるし、何か食べるか?」

「うん!」


優と穂乃花はピザを買う。


「このピザ凄く伸びる~」

「何やってるんだよ」


優は手でチーズをちぎる。


「ありがとう」

「おう」


ティッシュで拭こうとすると突然、穂乃花がチーズが付いた優の指をパクッと咥える。


「何してるの⁉」

「?チーズ付いてたから食べただけだよ?」

「指に付いたやつ食べるなよ……」


そう言いつつ別に嫌というわけではない。


「色々食べながら見ようか?」

「うん!」


二人はキッチンカーで食べ物を買いつつ、イルミネーションを見て回る。


「綺麗だったね」

「そうだな」


二人で歩いていると穂乃花が立ち止まり、鞄からプレゼントを取り出す。


「優。クリスマスプレゼント!」

「ありがとう!凄く嬉しい!実は俺も穂乃花にプレゼントがあるんだ」

「えっ?」


優も鞄からプレゼントを取り出す。


「はい」

「ありがとう!開けていい?」

「もちろん」


穂乃花が開けると手袋が入っていた。


「わぁ~すごく暖かそう~ありがとう!」

「穂乃花のプレゼントも開けていいか?」

「うん!」


優が開けるとマフラーが入っていた。


「優いつも寒そうにしていたから暖かそうなマフラー買ってきた!」

「ありがとう……」

「ねぇ優にマフラー巻いていい?」

「あぁ」


穂乃花が優の首元にマフラーを巻く。


「似合ってる」

「ありがとう。このマフラー暖か……」


感想を言おうとすると突然、穂乃花が優を抱き寄せてキスをする。


「!!!」


柔らかい唇の感触を感じる。やがて、唇が離れると穂乃花の顔が赤くなっていた。


「やっとできた……ずっと待ってたのに……」

「ご、ごめん。でもお兄さんの時にしようとしただろ……」

「そうだけど……あれから待ってたんだよ?いつされてもおかしくなかったから」

「悪い……じゃあ俺からしていいか?」

「うん……」


お互い目を閉じると、唇が触れ合う。


(キスってこんな感じなんだ……)


お互いに唇を離すと、胸がドキドキする。


「えへへ……しちゃったね」

「おう……」

「これから優がしたい時にしていいからね?」


そう言われたら毎日したくなる……


「優の手袋……暖かいね」

「よかった」

「優。最後にデザート食べよう?」

「言うと思った」


優が移動しようとすると穂乃花が手を差し出す。


「手……繋ごう?」

「……あぁ」


穂乃花の手を掴む。手袋をしているから手の感触は分からないが幸せを感じられる。


「早く行こう?」

「あぁ」


二人はデザートが売っているキッチンカーを探しに行った。



『マシュマロ彼女を好きになった瞬間』


大晦日。優と穂乃花は部屋で電話をしていた。


「へぇ~そんなことがあったんだ」

「あぁ。マジで大変だったわ」


楽しく会話をしていると穂乃花があることを聞いてきた。


「優はさ。いつうちのことが好きになったの?」

「えっ……」


言わないとダメかな……恥ずかしいんだけど……


「教えてよ」

「……しょうがないなぁ」


優はゆっくり語り始めた。



―――優が保育園児の頃、転入生でぽっちゃりした少女がやってきた。

「今日から新しくもも組のメンバーになった穂乃花ちゃんです!穂乃花ちゃん。自己紹介して」

「ゆ、雪宮穂乃花です……よろしくお願いします……」

「皆仲良くしてあげてね」

「は~い!」


優が大声で返事する。


「僕は山城優!よろしくね!」

「よろしく……」

「ねぇねぇ!一緒にお絵かきしよう?」

「え、えっと……」

「こっち来て!」


優がクレパスとスケッチブックを取りに行く。


「穂乃花ちゃん。行っておいで」

「は、はい……」


穂乃花は緊張しながら優のところに行く。


「穂乃花ちゃんは何描く?」

「何書けばいいかわかんない……」

「じゃあお互い好きなものを書こうよ!」

「う、うん……」


お互いに絵を描き始める。


「できた!穂乃花ちゃんもできた?」

「うん……」

「じゃあ僕の絵を見てよ」


優の紙には犬、戦隊ヒーロー、お母さんが描かれていた。


「これが優君の好きなもの?」

「うん!穂乃花ちゃんは何描いたの?」

「えっと……」


穂乃花が絵を見せるとケーキ、プリン、ホットケーキが描かれていた。


「食べ物ばっかりだね。穂乃花ちゃんって食いしん坊なの?」

「く、食いしん坊じゃないもん……」


穂乃花が恥ずかしそうに言う。


(か、可愛い……)


優の頬が赤くなる。


「ほ、穂乃花ちゃんって絵上手だね」

「そうかな?」

「ほかの絵も見たいなぁ~。描いてみてよ」

「うん……」


穂乃花が絵を描く。


「できた……」


見てみると寿司、ハンバーグ、エビフライ……


「……穂乃花ちゃんってやっぱり食いしん坊?」

「食いしん坊じゃないもん!」


穂乃花が大声で否定する。


「穂乃花ちゃんって大きい声出せたんだ」

「うち、初めて行く場所は緊張しちゃうの……だから前の保育園でも友達あんまりできなかったんだ……」

「そっか。じゃあ僕がこの保育園最初の友達だね!」

「えっ?」

「僕が友達になればここで緊張することないでしょ?」

「そ、そうかもしれない……」

「もっと一緒に遊ぼう?穂乃花ちゃん!」


優が微笑むと、穂乃花もこの保育園で初めて笑顔になった。


「うん!」



穂乃花がやってきて一週間が経った。

あれから優と穂乃花は園庭で鬼ごっこする仲になった。


「優待ってよ!」

「僕を捕まえられるかな?」


優が全力で逃げていると、つまづいてこけてしまった。


「痛っ!」

「優大丈夫?」


穂乃花が心配して駆け寄る。


「大丈夫だって……」

「大丈夫じゃないじゃん!膝から血出てるじゃん!」


穂乃花がティッシュを取り出して膝を抑える。


「痛いの痛いのとんでいけ!」

「それ……効かないよ?」

「効くもん!うちが怪我した時にお母さんがやったら効いたもん!」


それ多分気持ちの問題だと思う……


「優立てる?先生のとこ行こ?」

「うん」



無事手当てをしてもらい、優の膝には絆創膏が貼られた。


「これで大丈夫!」

「先生ありがとう!」

「気をつけてね」


優がもも組に戻ると真っ先に穂乃花が近づいてきた。


「優大丈夫?」

「うん。絆創膏貼ってもらったし」

「よかった……」

「それより鬼ごっこの続きしようよ!」

「ダメ!」

「なんでだよ?」

「だって……優が心配だもん……」


穂乃花が泣きかけている。


「な、何泣いてるんだよ……」

「な、泣いてないもん!今はうちとお絵描きするの!」

「また食べ物描くの?食いしん坊だな~」

「食いしん坊じゃないもん!早くお絵描きしよう?」


穂乃花がスケッチブックを取りに行く。


(今の穂乃花……可愛かったな……胸がドキドキする……)



―――「多分、あの時に好きになったんだと思うな」

「そんなことあったっけ?」

「覚えてねぇのかよ」

「あっ。0時過ぎた」


穂乃花に言われて時計を見ると新年を迎えていた。


「あけましておめでとう。優」

「あけましておめでとう。穂乃花」

「今年もよろしくね」

「こちらこそよろしく」


優と穂乃花は新年の挨拶を交わした。



『マシュマロ彼女一家と過ごす新年』


新年を迎えて数日経ち、優の家では雪宮一家が遊びに来ていた。


「それにしても本当に優が穂乃花ちゃんと付き合うことになるとは思ってなかったわ」

「本当だよ。優から聞いた時はひっくり返ったからな」

「本当にいいの?こんなだらしない息子が彼氏で」

「だらしなくても優はうちのことを一番に考えてくれるので」

「だらしないは余計だよ……」


優はおせちを気まずそうに食べる。

理由はさっきから東吾が睨みつけてくるからだ。


「お兄さん?俺の顔に何かついてますか?」

「……別に」

「ごめんね優君。この子ったらいつまでも妹離れしないから拗ねてるのよ」

「拗ねてねぇ!穂乃花の彼氏がクソガキなのが許せねぇだけだ!」

「それ拗ねているんじゃ……」

クソガキ!勝負しろ!」

「また穂乃花王ですか?」

「いや……正月らしく、かるたで決めようじゃないか」



部屋にかるたを並べると優と穂乃花が向かい合う。


「絶対勝ってやる」

「じゃあうちが読むね」


穂乃花が読み札を取る。


「猿も木から落ちる」


読まれた瞬間、東吾が取る。


「よっしゃぁ!見たかクソガキ!」

「穂乃花。次読んで」

「俺の煽りを聞けぇ!」

「じゃあ次読むよ」


穂乃花が読み札を取る。


「犬も歩けば棒に当たる」

「え~と……」


東吾が探している隙に優が取る。


「これだ」

「クソ!そんなところにあったのか」

「じゃあ次読むよ~」


その後も優と東吾のかるたが続いた。



「クソ~!なぜ勝てない!」


東吾が悔しがる。


「久々にかるたをやったから楽しめました。ありがとうございますお兄さん」

「黙れ。お前を楽しませるためにやってるわけではない!」

「お兄ちゃん。どうしてそんなに優を敵視するの?この前は認めてくれたじゃない」

「本当は認めたくないからに決まってるだろ~!」


東吾が泣き喚くのを二人は呆れて見つめる。


「ごめんね優。お兄ちゃんの我儘に付き合わせて」

「穂乃花⁉」

「仕方ないよ。お兄さんはまだ《《子供》》なんだから」

「貴様~!」

「じゃあすごろくで勝負します?これなら実力は関係ないでしょ?」

「いいだろう。やってやるよ!」

「うちもやりたい!」


三人ですごろくを始めると早速部屋がうるさくなる。


「はぁ~⁉なんで一回休みなんだよ⁉」

「お兄ちゃんドンマイ」

「すぐ俺か穂乃花がゴールしますから休んでてください」

「こいつマジで許せねぇ~!」


三人のうるさい声が両家の両親に聞こえる。


「仲良いですね」

「東吾もなんだかんだ言って小さい頃から優君と遊ぶの楽しそうだったから」

「優君と穂乃花の結婚……楽しみね」



夕方になり、雪宮一家が家を出る。


「今日はありがとうございました」

「いえいえこちらこそ。今年もよろしくお願いします」

「ねぇ。ちょっと優と行きたい場所があるんだけど」

「なんだと⁉じゃあ俺も……」

「東吾。あんた気を使いなさいよ」

「だって……」

「わかったわ。先に東吾と帰ってるわね」

「なるべく早く帰ってこいよ!」


穂乃花が家族と別れると優の手を握る。


「早く行こう?」

「おう」


優は穂乃花についていくがどこに行くか居場所は知らない。


「着いた」

「ここは……」


着いた場所は神社だった。


「うちらが小さい頃、初詣はここでしてたでしょ?」

「そう……だったな」


小銭を賽銭箱に入れ、鈴を鳴らすと両手を合わせる。


「帰ろうか」

「あぁ」


二人は手を繋いで歩いて帰る。


「優は何お願いしたの?」

「甲子園優勝。穂乃花は?」

「うちは……優のお願いが叶いますようにだよ」

「そっか……」

「お願い二倍だから叶うよ。絶対」

「……」


―――優は幼少期を思い出す。


「優は何お願いしたの?」

「ひ、秘密だよ……」

「えぇ~気になる~」

「穂乃花は何お願いしたの?」

「うちは優のお願いが叶いますようにだよ」

「!!!」


優の頬が赤くなる。


「お願い二倍だから叶うよ。絶対」

「……」

「どうしたの優?顔赤いよ?」

「な、なんでもないよ」

「もしかして恥ずかしいお願いなの?」

「うるせぇ!早く帰るぞ!」


優が先に神社を出る。


「待ってよ!教えてよ!」


穂乃花は後を追いかけた。


―――優は自然と笑顔になっていた。


(本当に叶うとはな……)

「どうしたの優?」

「何でもない」

「えぇ~教えてよ~」


二人を夕陽が明るく照らしていた。



『マシュマロ彼女と映画館デート』


冬休みが終わり、今日から三学期が始まるが優はそれを感じさせないほど爆睡していた。

そんな優をいつものように穂乃花が起こしに来た。


「優起きて!」

「う~ん……」


返事はするが起き上がらない。


「遅刻するよ?」

「今日始業式だから朝練ないだろ?」

「だからうち、遅めに来てるの。早く起きて」

「あと5分だけ……」

「ダメだよ。早く起きて」


穂乃花が優の体を揺する。


「わかったわかった起きるよ」


優が渋々起き上がる。


「早く準備して行くよ」

「わかったよ」


久しぶりの登校……嫌だなぁ~



教室に入ると咲人が既に席に座っていた。


「咲人!あけましておめでとう!」

「あけおめ」

「年末年始何してた?」

「ゲーム」

「お前ゲームしかしないな」

「そう言うお前はどうせ雪宮とイチャイチャしてたんだろ?」

「……♪(口笛)」

「図星だな」

「だってよ……可愛いから仕方ないだろ……」

(恋ってそんなに夢中になるかねぇ~)


咲人は恥ずかしそうな顔をする優を見て考えていた。



日曜日。優と穂乃花は映画館に来ていた。


「楽しみだね!『巨大怪獣vs巨大ザメ』!」

「そ、そうだな……」


優は乗り気ではなかったが穂乃花がどうしても優と行きたいと言うので行くことになった。


(面白くなさそうだけど穂乃花といれるなら……まぁいいか)


「ところでそれ……食べれるの?」


穂乃花は映画の前にポップコーンを買っていた。しかもジャンボサイズ……


「迫力ある映画だからバクバク食べちゃうかも」

「さすが食いしん坊」

「食いしん坊じゃないもん!」



席に座り、映画が始まった。

怪獣が口から炎を放つとサメに直撃する。

穂乃花は目を輝かせながらポップコーンを食べる。


(めっちゃ面白そうに見てる……)


普段は食べ物にしか目を光らせないのに……


(でも……それがこの映画か……)


スクリーンにはサメに体を捕食される怪獣が映し出されていた。



「面白かったね!」

「そ、そうだな……」

「優~お腹空いた~。ご飯行こう?」

「さっきまでポップコーン食ってただろ?」

「あれは軽食だよ」


あの量が軽食なんだ……


「しょうがないな。美味い物でも食べに行くか」

「やった!」


やってきたのはハンバーグレストランだ。


「え?穂乃花……それ食べれるの?」

「?食べれるから頼んだんだよ」


穂乃花が頼んだのは大きなハンバーグステーキとライス大盛。


「すごいな。さすが食いし……何でもないです」


穂乃花が頬を膨らませていたので言うのをやめた。


「あのさ……優」

「何?」

「もしかして……今日見た映画面白くなかった?」

「え?」

「反応がいまいちだったから……無理やり付き合わせちゃったかな……」


穂乃花の顔がしょんぼりとしている。


「そんなことないって言ったら噓になるけど……いつもデートする時もそうだけど穂乃花が楽しんでるのを見ると俺も楽しいからさ」

「そう?……ならいいけど……」

「それに穂乃花が食べるところを見るのがデートの楽しみで好きだからさ」

「えへへ……ってそれうちが食いしん坊って思ってるから?」

「思ってるっていうか事実だね」

「食いしん坊じゃないもん!」

「じゃあこの後カフェに行く予定だけどそんなに頼んだら食べられないよね?」

「……食べれる」

「ほら食いしん坊じゃん」

「~~~!」


やっぱり穂乃花は……俺の彼女は可愛いです。



『マシュマロ彼女の本命チョコ』


優が教室に入ると男子たちがそわそわしていた。


「お前……まだ貰ってないよな?」

「そっちこそ貰ってないよな?」

「貰ったら許さないぞ」

「俺だって」


クラスメイトが睨み合っている。


「咲人。皆なんでそわそわしているんだ?」

「今日バレンタインだからだろ?」

「あっ……」


そうか。今日は2月14日……バレンタインか。


「だからか……」

「いいなお前は。雪宮から貰えるんだろ?」

「そ、そうかな?」


去年は皆に渡していたチョコと同じのを貰ったけど……

今年は本命チョコ……だよな?


「咲人は?チョコ欲しいの?」

「別に恋愛に興味ないし。他の男と一緒にするな」

「素っ気ないなぁ……」



昼休み。優は食堂で穂乃花とご飯を食べていた。


「今日はバレンタインだからチョコレートパフェにしたんだ~!」


穂乃花が美味しそうに食べる。


「優のクラスはバレンタインで告白された人とかいた?」

「いや、休み時間の度にロッカーを確認して落ち込むの繰り返しが多いよ」

「そうなんだ。うちのクラスはバレンタインを気にする男子はいなかったなぁ~」

「ふ~ん」

「優のチョコも用意してるから放課後渡すね」

「ありがとう」



放課後。野球部の面々が練習に取り組んでいると美咲が大声で呼びかける。


「皆さん~!今日はバレンタインということでマネージャー陣からチョコを渡しま~す」

「マジで⁉」


部員たちが嬉しそうに美咲の元に走る。


「さぁさぁ皆さんどうぞ!」


美咲と穂乃花が部員たちにチョコが入った包みを渡していく。


「ほら優もどうぞ」

「ありがとう」


穂乃花から受け取った瞬間、あることに気づく。


(これ、去年と同じ流れでは?)


去年のバレンタインで渡されたチョコも皆と同じものだった。

その時は義理チョコだったから当然だが、今は恋人関係だ。

自分だけ特別なチョコを貰えるって期待していたんだけど……


(まぁ……貰えるだけありがたいと思うか)


「さぁさぁ!チョコを貰って元気になったらさっさと練習してくださいね!」

「おう!」

「甲子園優勝するぞ!」


部員たちが練習に戻る。


「無事に渡せてよかったけど疲れたね~」

「そうだね。喜んでもらってよかった」


美咲は家で穂乃花と共にチョコを作っていた。

先生、友達、部員……渡す人が多かったので作るのがかなり大変だった。


「でもやっぱり本命チョコ渡したいなぁ~義理だったらただプレゼントしてるだけの気分」

「美咲は好きな人いないの?」

「いないから言ってるのよ。野球部にもいい男いないし」

「そんなこと言わないでよ!優はいい男だよ!」

「それ、捉え方次第では山城以外はダメ男に聞こえるよ……」



「練習終わり!各自解散!」

「うっす!」


部員たちは荷物を持ち、学校を出る。


「優。帰ろう?」

「おう」


二人は帰り道を歩く。


「穂乃花のチョコ。美味しかったぞ」

「もう食べたの?」

「練習疲れるから甘いものが欲しくなるんだよ」

「そっか。よかった」


歩いていると優の家に着いた。


「じゃあまた明日」

「ま、待って!」

「どうした?」


穂乃花が鞄からプレゼントが入った包みを取り出した。


「これ……」

「何それ?」

「バレンタイン……だから……」

「?放課後貰っただろ?」

「~~~!」


穂乃花が恥ずかしそうに言う。


「気づいてよ……本命チョコって……」

「……え?」


優は思わず固まってしまう。


「じゃあ放課後貰ったのは?」

「あれは……義理チョコっていうか……幼馴染チョコ……かな?」

「そっか……ありがとう!凄く嬉しい!」


優が笑顔になる。


「優のために作ったんだからちゃんと味わってよね」

「もちろんだよ」

「じゃあまた明日」

「お返しちゃんとするから」

「期待してるよ」


穂乃花は嬉しそうに帰った。



『マシュマロ彼女へのお返し』


(マジでどうしよう……)


優は頭を悩ませていた。もうすぐバレンタインから一ヶ月が経とうとしている。

ホワイトデーで何を渡すべきだろうか……


(とりあえずショッピングモールに行くか……)


優は鞄を持ち、家を出た。



まずは化粧品コーナーを回る。


ハンドクリーム、化粧水、香水……いろいろある。


(穂乃花に化粧品って喜ぶかな?)


穂乃花ってこういうのは興味なさそうだけど……

とりあえず保留にしよう。


次はアクセサリーだ。

ネックレスやピアスなどが売ってある。


(指輪……)


優は店の指輪をじっと見つめる。


(いつか俺も穂乃花に渡したいなぁ……)


優は指輪をつけた穂乃花を想像する。


(でも穂乃花はアクセサリーしないよな……違うものにしよう)


この後も色々なところを回ったがなかなかいいものが見つからない。


(どうしよう……)


こういう時って何渡せばいいのだろう……


(化粧品とかアクセサリーも欲しいってわけじゃなさそうだしな……)


ショッピングモールをふらふら歩いているとあるものを見つけた。


(これだ!)


優のお返しが決まった。



数日後。優と穂乃花はショッピングモールで合流した。


「誘われたから来たけど何するの?お買い物?」

「俺について行けばわかるよ」


二人で歩いていると優が立ち止まった。


「ここだよ」

「ここって……」


たどり着いたのは最近、ショッピングモールにできた人気のカフェだ。


「ここ、アフタヌーンティーあるからさ。それが俺のお返し」

「珍しいね。てっきり前みたいにうちが好きな食べ物だと思った」

「物でもよかったけど……やっぱり穂乃花って食べている時が幸せそうだと思ったからさ」

「やった!早く入ろう!」


穂乃花は優の手を引っ張ってカフェに入った。



「お待たせしました。アフタヌーンティーセットです」


アフタヌーンティースタンドにスコーン、ケーキ、サンドイッチがのってある。


「美味しそう!優ありがとう!」

「全部穂乃花が食べていいよ」

「それは申し訳ないよ。優も食べてよ」

「じゃあ、サンドイッチだけ……」


優はサンドイッチを手に取り、口に入れる。


「美味い」

「美味しいね!」


喜んでもらえてよかった。

穂乃花はあっという間に食べ終わり、スコーンを口に入れる。


「もうサンドイッチ食べたのかよ」

「だって美味しいもん。美味しい食べ物ってすぐ口からなくなるからさ」


穂乃花が美味しそうに食べるとこっちも自然と笑顔になる。


「優はどっちのケーキを食べたい?」

「どっちも食べていいよ」

「遠慮しないでいいのに……」

「お返しなんだから穂乃花が食べなよ」


穂乃花はフォークでケーキを切ると、優の口に持ってくる。


「はい、あ~んして」

「いいって……」

「お返しする人が望んでいるんだから食べて!」

「わ、わかったよ」


優は恥ずかしそうにパクッと食べる。


「どう?」

「美味しい……」

「もう一個のケーキ食べていいよ」

「じゃあ……いただきます」


やっぱり穂乃花の優しさには敵わないな……



「ごちそうさま!美味しかった!」


穂乃花は柔らかいお腹をポンポンと叩く。


「期待以上だったか?」

「うん!大満足!」

「それはよかった」

「また連れていってくれる?」

「考えておくよ」

「約束だよ!」


穂乃花は嬉しそうに言った。



『マシュマロ彼女とお花見』


春休みに入り、野球部は夏の甲子園出場に向けて練習していた。


「はぁ……はぁ……」


部員たちがランニングするのを美咲と穂乃花が見つめる。


「練習頑張ってるね」

「春のセンバツに出場できなかったからね」

「甲子園……行けるかな」

「行けるよ。絶対」


穂乃花はピッチング練習をする優を見つめる。


(初詣でお願いしたもん。きっと大丈夫)


「もうすぐ二年生か~。進級する実感ないなぁ~」

「後輩ができるし、どれくらいの一年生が野球部が入ってくるかな?」

「これ以上部員が増えたら私たち死んじゃうよ。マネージャー増えないかなぁ~」

「もしかしたら入ってくるかもしれないね」



「終わった~」


優が地面に座り、水筒に入った水を飲む。


「お疲れ様」

「お疲れ。今日は早く帰れて嬉しいよ」


今日は春休み期間で唯一の午前のみの練習。

毎日夜まで学校で練習するので疲労が溜まる。

そのため、午前のみの練習はかなり嬉しい。


「それなんだけど……ちょっとうちに付き合ってくれる?」

「デートか?いいけど……」

「ありがとう!早く行こう!」


一体どこに行くのだろうか?



「着いた!」

「ここって……」


着いた場所には満開の桜が何本も咲いており、多くの家族が木の下でお花見をしていた。


「優とお花見したくてさ」

「いいけど昼食ないだろ?」

「ふふん。待ってて」


穂乃花がリュックから大きな何かが入った風呂敷を取り出した。


「じゃ~ん!お弁当作ってきました!」


穂乃花が風呂敷から弁当箱を出すと蓋を開ける。


「どう?」

「すごいな。これ全部穂乃花が作ったのか?」

「半分ぐらいはお母さんが作ってくれた」

「それでもすごいな……」


優は穂乃花の手料理の上手さに感心する。


「好きなの取っていいよ」


穂乃花が優に取り皿を渡す。


「ありがとう。いただきます」


優は弁当から食べ物を取っていく。


「美味しい」

「よかった。ちなみにその玉子焼きはうちが作ったんだよ?」

「すごいな。さすが穂乃花だな」

「えへへ。褒めても何も出ないよ?」


穂乃花もご飯を食べる。


「桜……綺麗だね」

「あぁ……」


風が吹き、桜の花びらが舞う。その一つが穂乃花の髪に落ちる。


「穂乃花。花びらが……」

「何?」


穂乃花がこっちを向くと、優はドキッとする。


「やっぱり……可愛いな……」

「え?」


優は穂乃花にキスをする。

穂乃花は突然の出来事にドキッとする。


「花びら……髪に付いてた」

「じゃあキスする必要ないじゃん……」

「嫌……だったか?」

「嫌……じゃない」


二人はドキドキしながら昼食を食べた。



あれから数日経ち、入学式の日になった。


「新入生の人は自分のクラスを確認してその教室に移動してくださ~い」


在校生が誘導する。


「なぁ。あの子めちゃくちゃ可愛くないか?」

「あぁ?どの子だよ?」

「ほら、校門の前に立っているあの子だよ」

「どれどれ?……っちゃ可愛い!」


在校生たちが見惚れていた美少女はスマホを見つめていた。

スマホの画面には優が映っている。


「やっと会える……私の王子様♡」


スマホをポケットにしまうと校舎に向かって歩き始めた。

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