鏡には映らない美しさがあるから
「おや?」
鏡に姿を変えた自称魔法少女(20代)は、不思議な感覚に包まれました。
先代のお妃様を深く敬愛していた自称魔法少女は、その遺児である屍羅幽鬼姫にも深い愛情を抱いており、その結果魔法の線のようなつながりができていたのです。
ちなみに長くてややこしいので、以後魔法少女だった侍女のことを「鏡」と呼ぶことにします。
鏡が感じた違和感というのは、その魔法の線の向こう側で発生しました。
線の末端、つまり屍羅幽鬼姫が、なにか別のものに変化したのです。
何に変化したのか、ということについては、鏡にはわかりませんでした。
ただ、筆者であるわたしと読者である皆さんはもう知っていますね。
屍羅幽鬼姫は、ヴァンパイアの真祖に血を吸われたことにより、自身もヴァンパイアになったのです。
そして皆さんは、ヴァンパイアにはどんな特徴があるのかご存知ですよね。
そちらについての種明かしを……っと、誰か来たようです。
(ここは新しい継母様の部屋だから、継母様以外が来ることはほとんどないっス)
鏡がナイスなツッコミをします。予想通り、やって来たのは魔女である国王の新しいお妃、屍羅幽鬼姫にとっては継母に当たる女性でした。
なんかツヤツヤしています。
彼女は国庫の半分ぐらいを傾けて、高度なエステを実行し、肌年齢を5歳程若返らせてきたのです。
普通の鏡を見てその効果がばつぐんであることを確かめたので、今度は中の人がいる魔法の鏡に、あることを尋ねようと思ったのでした。
鏡の前で、継母様はおもむろに口を開きます。
「鏡よ鏡…」
(まずいっス。このままではわたしまた『一番美しいのは屍羅幽鬼姫っス』と口走ってしまうっス。そうなると屍羅幽鬼姫の身がまた危険になるっス)
鏡は、継母様が危険な変態猟師を屍羅幽鬼姫のもとに送った、ということは知っていました。
普通ならその結果屍羅幽鬼姫は殺されてしまうと思い、絶望に突き落とされたはずですが、鏡は先ほど述べた魔法の線で姫がまだ亡くなってはいないことを知っています。なにか変なものに変わったらしいので、そのあたりは心配なのですが。
(生きているのを知っているから、美しさ比べの問いに『屍羅幽鬼姫』と言ってしまいそうっス。あああああああ)
鏡の苦悩などお構いなしに、というか継母様はこの鏡に自我があるとか思っていませんので、遠慮なしに問いを続けます。
「この城から10キロ圏内で一番美しいのはだあれ?」
(嫌な予感的中っスー!)
鏡の心はそう叫びましたが、鏡の口(?)からは意外な言葉が出てきました。
「お妃様っス」
「あれ?」と鏡は思いました。(屍羅幽鬼姫が多分この城から10キロ圏内で生存しているのに継母様の方が美しいってわたし言ったっスか?)
読者の皆さんにはもうおわかりですね。屍羅幽鬼姫はヴァンパイアになってしまったので、もう鏡にはその姿を映すことができなくなったのです。
かくして継母様は満足した日々を送り、だんだんと本来の性格である人の良さが前面に出てきて国民からも慕われるようになりました。
屍羅幽鬼姫はというと、ヴァンパイアの真祖の養女として、こちらも幸せになったそうです。
短いですが、これでおしまいです。