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短編作品

初恋サイダー

作者: 日華てまり

 



 キミと目が合ったあの瞬間、星が散らばるような、サイダーが弾けるような衝撃が駆け抜けて、僕はキミに恋をした。




 僕らは無関心だ。

 交差点を行き交う人々は、誰も彼も顔を上げずに歩いている。惰性で生きる日常で、僕は今日も誰かに合わせて足を進めた。


 信号が青に変わる。一斉に動き出した僕たちは、まるで互いが透明人間であるかのようにすり抜けていく。


『行くよっ! 初恋サイダー!』


 曲名だろうか。突然の少女の掛け声に、道行く人が顔を上げた。

 交差点の真ん中にある巨大なモニターに、煌びやかな衣装に身を包んだアイドルが映り、目が(くら)むような笑顔で()()()()()()歌い出した。


 弾けるような歌声が、キラキラと輝く笑顔が、一瞬で僕の視線を奪っていった。


 まるで、初めて動き出したみたいな心臓の音が、キミの歌声が、雑踏(ざっとう)をかき消して、この世界にキミと僕しか存在していないような錯覚に(おちい)った。


 足を止めることなく過ぎ去っていく人の中で、僕はその場から動けなくなった。


 キミが僕に背を向ける。

 ライブ映像が終わり、けたたましい雑音が僕の耳に戻ってきた。



 なんて、不毛な恋だろう。



 初めて僕が見たその映像は、アイドルを引退したキミのラストライブだった。




 ◇ ◇ ◇




 今さら「好き」なんて、馬鹿げている。


 そう思いながらも、キミの笑顔が、キミの歌声が忘れられなくて、僕は引退した(もういない)キミを追い求めていた。



 本当は、キミのことは前からずっと知っていた。


 テレビで見たことのある、可愛らしい女の子。現実にいないような、徹底的にキャラクターを作り込まれたアイドル。僕にとって、キミはそれだけだった。


 僕の住む世界とキミのいる世界は、いつもどこか少しだけ近くて、いつでもキミを推すことが出来たのに。そんなもしもを妄想しては、引退した現実を突きつけられては虚しくて、悔しかった。




 アイドルは、偶像だ。




 清廉潔白な人間なんていない。

 涙を見せない人間なんていない。


 きっと、君だって普通の女の子だったはずだ。


 だからこそ、僕は最後まで完璧なアイドルだった「キミ」を尊敬した。ありのままの君が、テレビで見るキミと違うことを裏切りなんていう奴がいたら、僕は声を大にしてこう言うだろう。


 それは、君の作り上げた『キミ』というアイドルが、最高のアイドルだっていう証明に他ならない、と。


 キミのことを知るたびに、僕はキミのことを好きになっていく。




 ――キミに会いたい。

 たった一度でいいから、その目に僕を映して微笑んでくれたなら……。




 叶わぬ夢を願う僕に、無粋な声が囁いた。




「お前が好きなアイドルの引退した後の姿を見たくないか?」




 もう一度、同じ時間を生きるキミに会える。


 淡い期待が胸を焦がし、残ったものは焦げ臭い感傷だけだった。

 



 どうして、あの日、僕はキミに恋をしたのか。

 それが、わかったような気がした。



「あぁ、終わって初めて完成されたキミ(アイドル)だったから、僕はキミに恋をしたのか……」



 ラストライブ。

 あの日、あの瞬間に出会うのは、終わってしまったキミじゃなきゃダメだった。

 幕を閉じたキミだけが、僕の求めていた完璧なアイドルだったんだ。



 この感情は、恋愛感情なんかじゃないけれど、『初恋』と呼ぶ以外に、この眩しくて切なくて心地良いこの気持ちを表す言葉を、僕はまだ持ち合わせていなかった。




 ――キミに会いたい。



 どうか、僕の(僕の)初恋を(前に)終わらせないで(現れないでくれ)





最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

この作品は、フィクションであり、実在する人物とは関係ありません。


という前置きをさせて頂きまして、消化しきれない、やり場のないこの感情を吐露させて下さい。

この作品を読んで、言葉に言い表せないこの気持ちを共感して貰えたら嬉しいです。

ぜひ、感想欄で推しへの熱い語りを頂けると作者が喜びます。


皆さんもわかる通り、この作品の「僕」は殆どが作者で出来ています。

引退したアイドルの生き様と、終わり方に惚れ込んでしまい、今さらながらにアルバムを聞きまくり、追い求めている現状を成仏させたくて書きました。

知人からは「お前が推せるアイドルは引退するまで分からないなんて難儀だな」と言われるくらい、完璧なアイドルを推してみたいゾンビと成り果てています。出来ることなら、理想のアイドル像を自分で突き詰めてアイドルになりたいくらいです……。


元々、二次元のアイドル推してるのですが、今更好きになったアイドルは、顔も好み、歌声も、曲も、アイドルとしての姿勢も、引退後に一切姿を見せないところも理想のアイドル過ぎて、もう……好き……です。


辛いところや苦しんでる姿、努力する姿をバラエティの感動ドキュメンタリーでは見たくないけど、本人がカメラを意識していなくて映ってるメイキング映像だけなら見たい……。面倒臭いこの気持ちわかってくれますか……。


長くなってしまうので、この辺で切り上げておきます。


普段は作者の自我は極限まで薄めて、死んだ人の記憶がなくなる世界でのSF恋愛物や、ブルーライト文芸な青春小説を書いています。

どちらも完結済みの為、よければ、そちらも宜しくお願いします。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
日華てまりさんの「初恋サイダー」は、一瞬の衝撃的な出会いから始まる、切なくも美しい感情を描いた物語です。交差点の巨大モニターに映る引退したアイドルに恋をした主人公の、どうしようもない憧憬が胸に迫ります…
痛いほどお気持ちが分かります。 自分も過去に、そして偶然にも現在、似たような経験をしているため、より一層作品に没入しました。 表舞台から去った者が、どのような生活を送っているのか―― それを知る術も…
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