狂い王子と恐れられる殿下に、人違いで声を掛けたら心の距離が縮まりました
「いけない、いけない! 遅くなっちゃったわ!」
昼下がりの学院を早歩きで進む。
思った以上に講義が長引いてしまった。
もうお腹もペコペコだし、早く食堂で美味しい料理を食べなくちゃ。
そんな訳で私は、友人のケイトとの待ち合わせ場所に急ぐ。
伯爵令嬢である私は、今のところ不自由なく学院生活を送っている。
成績自体もごくごく普通で、交友関係にも問題はない。
なので、思い浮かぶことも平凡。
今日は何を頼もうか。
趣向を変えて、今まで頼んでいなかったメニューに挑戦するのも良いかも。
そんなことを考えていると待ち合わせ場所、食堂前の建物の角に人影が見えてくる。
きっとケイトだわ。
私は勢いよくそこに飛び出して、にこやかに声を掛けた。
「ごめんなさ~い、待った~?」
特に何も考えず、緩んだ気のままに幼馴染相手の口調で歩み寄る。
のだけれど、何だか違和感があった。
何でしょう。
何だかやけに背丈が高いような、と思って視線を上げる。
するとそこにいたのは、友人のケイトではなく――。
「何だ?」
目の前にいたのは『狂い王子』の異名を持つ、第三王子・イグニス殿下でした。
(あっ……私、終わった……)
同時にサッと、血の気が引くのも分かった。
それもその筈、イグニス殿下は学院内で最も恐れられる人物。
盗賊団の根城に飛び込んで、一人残らず撃破したとか。
騎士団しか相手に出来ない竜相手に、一人で戦って勝利したとか。
戦っている最中は狂戦士のように狂暴だとか。
とんでもない噂を聞くお人なのです。
しかも最近では、こうして私達生徒の様子を遠目から監視しているという状況。
きっと悪さをする人がいれば、自ら教育を行うのだともっぱらの噂です。
そんな『狂い王子』相手に、気さくに声を掛けてしまった。
つまり、詰みです。
周囲も私がとんでもないことをしたと気付き、ヒソヒソと話し始める。
そして少し離れたところで、ケイトが震えながら私を見ているのが見えた。
あぁ、そんな所にいたなんて。
私は反射的に視線で助けを求めた。
(ケイト! そこにいたのね! た、助け……!)
(ごめんなさい、レイミラ! 貴方の雄姿、胸に深く刻んでおくわ!)
(ケイトぉぉぉっ!?)
祈りを捧げるような仕草で遠ざかっていく私の親友。
やはり、これは詰んだようです。
不敬罪です。
せめてもの抵抗のため、私は身体を震わせて謝罪を試みる。
「も、ももも、申し訳っ……! ございませっ……!」
駄目そうです。
上手く呂律が回りません。
これから待ち受ける断罪に震えが止まらないようです。
すると殿下は私をジッと見た後、僅かに頷いた。
「……そういうことか」
「えっ?」
「行こうか」
「えぇっ!?」
一体、何処へ。
そう言う間もなく、殿下は食堂の方へ向かっていく。
まさかこれは、食事をする流れなのでしょうか。
理由も意図も全く見当がつかないけれど、勿論この私に拒否する権利がある訳もない。
一歩一歩、その後を追っていく。
「ね、ねぇ……あれを見て……」
「イグニス殿下!? もしかして、あの子と食事に?」
「あれは食事って雰囲気ではないわよ。もしかすると、尋問……?」
「一体、何をしでかしたのかしら……」
食堂に辿り着いた私達を見て、周りは騒然としていた。
それもそうでしょう。
今まで殿下が食堂に入って来たことは一度もない。
それに傍らにはガタガタと震える伯爵令嬢が一人。
明らかに異質。
関わらないようにと、私達の周りだけ海を割ったように人が避けていくのが見えます。
どうしてこんなことに。
後悔しかない私に対して、イグニス殿下は壁に掲げられたメニューボードを見ながら口を開いた。
「食事の誘いとは驚いたが、言葉遣いは直した方が良いだろう。貴族の中には、そういったことに過敏な連中もいるからな」
「は、はひっ……」
「どうした? 何も頼まないのか?」
「い、いえっ! 頼みますっっ!!」
もう良く分からないので、何でもいいから頼むことにする。
何故、私が殿下と食事をするのでしょうか。
もしや最後の晩餐ならぬ、最後の午餐という意味なのでは?
あり得そうです。
気安く王族の方に声を掛けてしまうなど、国によっては重罪。
貴族の出身でも許されることではありません。
注文した料理を受け取り、向かい合わせに席で座った後、どうにか殿下の顔を見た。
ツンツンとしたクリーム色の髪型。
夜でも光りそうな青白い瞳。
まつ毛が長く、整った容姿も相まって目力も物凄く強い。
この視線で睨まれたら、誰であっても震えあがる。
現に私がそうなのですが、それ以上に今の殿下はこう言っているように見えた。
『この俺を楽しませてみろ。もし出来なければ、分かっているな?』
な、何か。
何か話しかけなければ。
本当に最後の午餐になってしまいます。
「さ、最近この時間に、よく殿下をお見掛けしていた気がするのですが……。何か気になることでも……?」
「知っていたのか。実は、重大なことに気付いたのだ」
「じゅ、重大ですか?」
「あぁ、非常に由々しき事態だ」
何でしょう。
私への罪状でしょうか。
怯えを必死に押し殺していると、殿下がゆっくり腕を組んだ。
「普段はこの時間、俺は上階層の自室で食事を取りつつ、皆の様子を観察している。しかし、和気藹々とした皆の姿を見ていく内に……」
「は、はい」
「無性に羨ましくなってな」
「はい……って、えっ!?」
予想外の方向から衝撃が飛んできて、思わず変な声が出てしまう。
羨ましかったのですか!?
あの狂い王子と呼ばれるイグニス殿下が!?
そんな私の動揺に気付くことなく、殿下は深刻そうに話し続ける。
「和やかな雑談、朗らかな笑顔。どれも俺には、王宮の装飾以上の眩さを感じた。だからこうして此処まで来たまでは良かったが、新たな問題に直面した訳だ」
真顔で喋る殿下が、冗談を言っているようには聞こえない。
それでいて更に追撃が来る。
「食事を共にする相手がいない」
(えぇ……?)
「君も俺の異名は知っているだろう? 狂い王子……何とも的を射た名だ。無理に俺が誘って、折角の雰囲気を壊す訳にもいかない。だからああして、様子を窺っていた」
そこまで聞いて、最近の殿下が食堂前で待ち構えていたことを思い出す。
あれって皆と食事がしたくて、佇んでいたのですか!?
てっきり、私達が余計なことをしないか監視しているのだと思っていました。
食堂でヤンチャする人達がいなくなったのは、助かっていたのだけど。
まさかそんな、純粋な思いであの場にいたとは予想外でした。
ポロポロと私の中で殿下のイメージが変わっていく中、ふと思い返す。
殿下は今、周りを気遣って近づけないと言っていた。
つまりそれは、狂い王子の呼び名が原因。
周囲から恐れられているからこそ、起きた問題なのでは。
「もしかして、あの噂は誤りだったのでしょうか……?」
試しに聞いてみる。
あの異名が、尾ひれが付いて広まった誤りであるなら、それは殿下にとって不本意なこと。
今の話が本当なら、あんまりな話です。
もしかするとそんな噂を打ち消したくて、あの場にいたのかもしれません。
すると殿下はあっけらかんと答える。
「異名のことか。武功を立てて来いと言われ、地方で暴れ回っていた悪竜を一人で打ち倒したことは事実だ」
事実でした。
「途中で武器が折れたので、拳で応戦したが……あれは中々に骨が折れたな」
あの話って本当だったのですか!?
「三日三晩戦い、最後には竜の首を持ち帰ったが、何故か他の王族から怯えられてしまったな」
あっ、これはあれですね。
全然気にしていませんね。
当時の王宮の様子が容易に想像できます。
つまるところ殿下は噂通りの人で、本当に皆の輪に混ざってみたかっただけなのだ。
急に喉が渇いてきて、私はコップの水を飲む。
それを見て、殿下が思い出したように目を伏せた。
「すまない、食事中に話すことではなかった。とにかく、俺は切っ掛けが欲しかったんだ。兄弟達からも距離を置かれる中、最近は一人で過ごすばかりだったからな」
「殿下……」
「だから、君には感謝している」
少しだけ恥ずかしそうにしている、ような気がした。
そして更に感謝されてしまった。
寧ろ私はいつ罰が下されるのか戦々恐々だったのですが、どうやら違ったようです。
身体を強張らせていた緊張が、ほぐれた気がした。
それでいて、殿下に対する恐れも無くなっていく。
今まで私は、彼を触れれば刺すような茨のお方だと思っていた。
けれど、異名で恐れられる中でも皆に歩み寄ろうと考えていた。
つまり本当はとても寂しがり屋、なのかも。
「私も、その……殿下のお考えが理解できて嬉しく思います」
「そうか。最初は何事かと思ったが、君のような気さくな人がいたことは、俺にとっては幸運だった。ちなみに名前は何と言う?」
「れ、レイミラです」
「うむ。その名前、覚えておこう。さぁ、冷めない内に食べてしまおう」
食事を促され、私は笑みを返す。
本当に殿下が誰かと食事を楽しみたかっただけなら、私もそれに応じなければ。
それが図らずも無礼に声を掛けてしまった自分に出来ること。
頼んでいた料理を口にし、お腹を膨らませていく。
けれど、殿下はスプーンを持ちつつ手が止まっているようだった。
「あの、先程から手が止まっているようですが? 何かありましたか?」
「あぁ……実はスープが冷めるのを待っている……」
「もしかして、猫舌なのですか……?」
「猫? まぁ、そうとも言えるか」
それはまた私にとって、別方向からの衝撃だった。
竜を一人で倒すような方なのに、猫舌。
そういうこともあるのでしょうか。
しかし自分から勧めておいて、手を動かさないのはどうかと思ったのか。
湯気の立ったスープを掬い、口元に持っていく。
「っ……まだ、少し熱いかな……」
少しはにかむ。
彫刻のように整えられていた表情が、ほんの僅かに緩む。
おや。
おやおや、おかしいですね。
何だか殿下のことが可愛く見えてくるような。
はっ!?
いけません、そんな感情!
不敬にも程があります!
バレたら死にますよ!?
私はそそくさと食事を再開し、雑談を交えながら昼食の時間を乗り切った。
当たり障りのない話ばかりだったけれど、殿下は確かに受け答えをしてくれた。
そして少し楽しそうにも見え、一応の役目は果たせたみたいです。
その後の殿下は再び礼を言って去っていくだけで、私が裁かれることはなかった。
いえ、元より裁くつもりなど殿下にはなかったのでしょう。
私達のやり取りを聞いていなかった周囲は、何か色々と言っているようだったけれど、言えることは何もありません。
それ以上に私の脳裏には、別の考えが浮かんでいた。
「ご、ごめんなさい、レイミラ……。その、大丈夫だった……?」
「ケイト。もしかしたら私、殿下のことを勘違いしていたのかもしれないわ」
「えっ?」
殿下の意外な思いと、その一面。
申し訳なさそうに近寄って来たケイトに、私は独り言ちた。
●
「いけない、いけない。また、遅くなっちゃった……って、あれは?」
それから何日か経って。
またしても講義が長引いて、早歩きで学生寮に戻ろうとしていた時のこと。
夕暮れ時の庭園の片隅に、見覚えのある姿が見えた。
あれは、イグニス殿下です。
基本的に王族の生徒は、上階層と呼ばれる学院の最上階で日々を過ごしています。
他の貴族が許可なく立ち入ることは出来ず、ああして自主的に降りてくることは珍しい。
何をしているのでしょう。
そう思って足を止めると、彼は庭園から外れて草木の茂みへと進んでいった。
周りを見ても、他の生徒は誰も気にしていない。
と言うよりは、気にしないようにしていますね。
普通なら、狂い王子の後を追うなんて自殺行為。
けれど今の私は何となく気掛かりで、恐れることなく付いていくことにした。
「ふ……。お前たち、少しは落ち着け。順番ずつだ」
茂みを進んでいくと、微かに笑い声が聞こえた。
誰かと話しているような気がします。
待ち合わせでもしていたのでしょうか。
ゆっくりと茂みの向こうを見てみると、殿下は少し開けた場所で屈んでいる。
そして周囲には、何匹かの猫が近寄っていた。
猫達は明らかに親しそうな様子で、殿下の足元へすり寄っている。
更に彼の手には餌のようなものが握られていた。
もしや、これは。
そう思った私が声を出すよりも先に、殿下が振り返る。
「レイミラか。追って来ていたのは知っていたが、何か用か?」
「い、いえっ! お姿をお見掛けしたので、つい……!」
「そうか。他の者は、俺の姿を見ても近づこうとしないのだが……やはり君は違うようだな」
既にバレていたようです。
私はおずおずと姿を現し、殿下の元へ歩み寄る。
彼は私がいたことに頓着していない。
そのまま順番に餌を配り、猫達は頑張ってそれを食し始めた。
確かこの猫達は、学院で保護している品種と聞いたことがあります。
時々外で見かけることはありましたが、こうして間近で見るのは初めてだったりします。
「猫ですか」
「猫だな」
「可愛いですね」
「まぁ、そうとも言える」
「……もしや、猫がお好きなのですか?」
「好き? あまり考えたことはなかったが……嫌いではないな……」
少し考えて、彼はそう答える。
何だかそんな質問をされたことが、予想外だったように見える。
まさか、自覚なしの猫好きということでは?
猫舌に、猫好き。
成程。
中々の威力ですね。
そう思う私を余所に、殿下は思い返すように近くの木を見上げた。
「始めは、木から降りられなくなった子猫を助けたところからだった。そこから妙に懐かれてしまってな。こうして時々、様子を見に来ている」
「気が付きませんでした……」
「吹聴などしていないからな。俺には誰も近づかないし、噂など広まりようもない。まぁ、狂い王子としては、そちらの方が良いのだろう」
そんなことを静かに言いつつ、猫を優しく撫でる。
自嘲気味に言っている訳ではなく、声色からも分かる真っ直ぐな言葉でした。
でも、本当にそれで良いのでしょうか。
影ではこうやって猫と戯れているのに、表では皆から恐れられている。
殿下はあまり気にしていないようだけど、私は少し引っ掛かった。
「その表情……もしや、心配しているのか?」
「こんなこと、烏滸がましいかもしれませんが……」
「しかし、この異名も悪いことばかりではない。俺は兄上達のように要領が良くない。狂い王子と呼ばれて以降、王族含めて俺にやっかみを行う者はいなくなった。この名で周囲を牽制できるなら、俺の存在にも意味はあるということだ」
殿下は僅かに笑う。
彼が今まで周りからどんな言葉を投げ掛けられていたのか、平凡な私には分かりません。
けれど、一つだけ分かることもあります。
「ですがそれは、少し寂しく思います」
その言葉に、殿下は意外そうに目を丸くした。
「私が声を掛けたあの時、殿下は羨ましいと仰っていました。それが殿下の本心ではないのですか? そしてこの猫達も、殿下の為人を分かっているから、親しく接してくれているのです。だからきっと同じように接すれば、学院の皆も分かってくれるはずです」
「そうなのか?」
「そうですよ」
恐れられることに意味があるというのも、一理あるのでしょう。
王族である以上、それが正しいのかもしれません。
けれど、食堂で明かしたあの話も、間違いなく殿下の本心。
間違っていると、頭ごなしに否定して良いとは思えません。
私の声に反応して、一匹の猫が首を傾げて私を近づいてくる。
流れのままにその猫を撫でてみる。
うん、良い手触りです。
すると殿下は不思議そうな表情で、自身の胸に手を当てた。
「何だろうな、この感覚は……。竜の息吹を正面で受け止めた時や、鉤爪で薙ぎ払われた時にも、こんな感覚はなかった……」
その例えは分からないです、殿下。
それ程の衝撃だったということでしょうか。
私としては思ったことを言葉にしただけなのですが。
とは言え冷静に考えると、殿下に助言ということ自体、あまり宜しくない気がしてきました。
もしや不敬。
一瞬不安になったけれども、殿下は小さく頷く。
鋭かった瞳に別の意志が宿った。
「そうだな。君の言う通り、少し頑張ってみようか」
「は、はい! 頑張ってみましょう! 私も応援します!」
杞憂だったようです。
安堵と同時に、私は強く頷く。
それを見た殿下は、何処かむず痒そうな表情を見せた。
あぁ、安堵すると調子に乗ってしまうのは、私の悪い癖です。
また無礼を――。
「この感覚……盗賊団の根城に一人で飛び込んだ時と同じだな……」
すみません。
やっぱり、その例えは分からないです。
●
それから徐々に、殿下は学院内の生徒と接するようになっていきました。
「いっ!? イグニス殿下!?」
「すまない。この教本の問題について、教えてくれないか」
「ぼ、僕のような者が殿下に!?」
「あ、あぁ……都合が悪かったのなら、構わないが……」
「い、いえっ! 僕で良ければ、お任せ下さいっ!」
相手は殿下なので、令息達が断ることはしません。
初めは怖がられながらも応対され、何かあったではと周りでは噂になっていきました。
それでも殿下は騒ぎを荒立てることなく、自分から歩み寄り続けました。
「で、殿下のお手を煩わせるなど! 王家に何とお伝えすれば……!」
「気にするな。俺の一挙手一投足など、彼らは見ていない。それより、力仕事なら任せてくれ。俺の得意分野だからな」
わざわざ王族がする必要のないことに手を貸していく。
その行動は次第に周りの目を変えていきました。
少しずつ、敬遠する空気も和らいでいるように思えます。
そんな中で私が出来ることなんて、あまりありません。
応援なんて言ったけれど、直接手を貸しても逆に迷惑になるだけ。
代わりに時々、講義の合間を縫って彼から相談を受ける位です。
気さくな声の掛け方とはどんなものか。
相手を怖がらせないためには、どうすれば良いか。
殿下は私が食堂前で友好的(?)に声を掛けたことを信じて、私から教示を受けたいと考えたようです。
今更あれは間違いです、とも言えない現状。
私なりに表情や声色を和らげてみるなどの助言をしてみました。
実際、どの程度の役に立てたのかは分かりません。
けれど、殿下の後押しが少しでも出来たのなら、それで良いのかも。
「レイミラ、な~にニヤニヤしてるの?」
「け、ケイト!? 別にニヤニヤなんて……!」
「だって、最近よく殿下のこと見ているじゃない? やっぱり、あの昼食の時に何かあったのでしょう? ちょっと私にも教えなさいって!」
「べっ、別に何もないですけど!」
更に日数を重ねると、ケイトから茶化されるようになる。
別にそこまで見ているつもりはないけれど、色々と事情を知ったせいなのかも。
自然と彼を目で追ってしまう。
いえ、意味がないことは分かっています。
ただ何となく気になってしまう。
そしてケイトに指摘されて、何故焦っているのか自分でも分かりません。
するとタイミングが良いのか悪いのか。
私を探していたようで、殿下が講義室内にいた私達へ歩み寄ってくる。
「すまない。取り込み中だったのなら出直そう」
殿下は私達が話し合っているのを見て、踵を返そうとする。
けれどケイトが状況を察したという顔をして、サッと身を引いた。
「あっ、イグニス殿下! どうぞこちらへ!」
「け、ケイトっ!?」
「では、ごゆっくり~!」
ケイトさん。
別にそんな、あからさまなことをしなくても良いんですよ?
小走りに去っていった彼女を尻目に、殿下は不思議そうな表情を見せる。
「邪魔をしてしまったか?」
「い、いえ! 大丈夫ですがっ!?」
「そうか。なら、少し外を歩かないか」
気分転換に、と言いたげな殿下に付き添う。
遠目からなら見えていた彼の表情が、近くにいると見え辛い。
いえ、見え辛いというより視線が向けられない、の方が正しいのかもしれません。
あぁ、変に意識なんてしたくないのに。
平静を装いつつ、校舎を出て学院内の小道を歩く。
やっとのことで見上げると、殿下の顔つきが柔らかくなっているのが分かった。
「こうして一歩踏み込んでみると、分かったことがある。俺は自分が思っている以上に、失敗を恐れていたようだ」
「殿下が……?」
「意外に思うか?」
そう聞かされて私は頷く。
殿下が恐れられているのは周知の事実だけれど、逆に彼が何かを恐れているようには見えません。
基本的に涼しい表情を崩さないからかもしれないけれど。
竜を打ち倒すような人に、怖がるものなんてないと思っていました。
「兄上達は聡明だ。俺はいつもその後ろを追うばかりでな。何をしても、王家からはあまり関心を持たれなかった。だから兄上達と同じ、或いは兄上達には出来ないことが出来れば、俺にも価値はあるものだと思っていた。だが、それは違った。本当に俺に必要だったのは、失敗を許すことだった」
「失敗を許す……」
「完璧を求め過ぎないという意味だ。そういう傾向であればあるほど、自分で自分を許すというのは、中々難しくなる。今までの俺がそうだったように。だが、その悩みを共有できる誰かがいるなら、話も違ってくる」
確かにその通りです。
失敗はどんな人にでも付き纏うもの。
出来て当然だと自分を追い込んでしまうと、その重さに押し潰されてしまう。
失敗した時に挫けてしまう。
どれだけ力を持っていてもそれは同じで、きっと殿下は周りの人達に対して一歩踏み出した時、それに気付いたということでしょうか。
そして少しでも相談できる相手がいれば、心持は軽くなる。
「勿論、レイミラが俺を見ていたことも知っていた」
成程ですね。
成程。
私が見ていたことを知っていた?
次の瞬間、思わず飛び上がってしまいそうな衝撃が襲い掛かった。
「き、ききき気付いていたのですか!?」
「あぁ」
「も、申し訳ございませんっ!」
「何を謝る。寧ろ俺は感謝している」
「えっ……」
「あの時、俺を応援すると言っていただろう? そのために時折、見守ってくれていたのではないのか?」
言われて思い出す。
確かに言いましたね。
でも、それは勘違いしています。
私が見ていたのは応援というより、別の意味で見ていただけなので。
そう、別の意味。
他にどんな意味が?
自問自答していく内に、徐々に頭が沸騰してくる。
あ、熱いです。
思考がグルグルして、何だか良く分からなくなってきました。
「そ、そうですね! そうなのです! 伯爵家出身の私がこんなこと、分不相応なのでしょうが――」
慌てて、そういうことにする。
これ以上のことを考えてはいけないような気がして、小走りに先を急ぐ。
そして小道を出て、大通りの道へと飛び出した瞬間。
「危ない」
殿下によって片腕で遮られた。
近くで見ると、筋肉質な腕なのが分かる。
そこに自分の手が触れてしまい、ピクリと引っ込めてしまった。
同時に大通りを進んできた馬車が横から現れ、こちらに気付いた御者が申し訳なさそうに頭を下げた。
「で、殿下!? 失礼いたしました! その、道に迷ってしまって!」
「いや、大丈夫だ。それよりも何処へ向かっている?」
「正門の方へ……」
「それなら道を教えよう。ここを引き返して――」
殿下が応対してくれたけれど、凄く緊張してしまって何も聞こえなくなる。
あっ、これは駄目かもしれません。
顔が凄く熱い。
俯いてしまって、殿下の顔もまともに見られない。
今ここで目があったら、確実に気付かれてしまう。
どうする、どうすれば。
馬車が去っていった後、私は声を振り絞る。
「ありがとうございます、殿下……。あの、少し……急用を思い出して……」
「ん? そうか?」
「はい……! 失礼いたしますっ……!」
視線を合わせられず、早歩きで引き返す。
殿下は何か言いたそうだったけれど、話しかけられても上手く返事を出来る自信がなかった。
今の情けない顔も見られたくない。
私はただ、殿下から逃げるように立ち去った。
●
やってしまった。
やってしまいました。
こんなの、あまりに無礼です。
昼食の件だけに飽き足らず、イグニス殿下にこんなことをしてしまうなんて、国が国なら懲罰ものではないでしょうか。
あれからというもの、私は殿下に近づけなくなってしまいました。
後ろめたさもあるけれど、どう接すれば良いか分からなくなってしまったのです。
謝らなければいけないことは分かっています。
けれど、普通に話せる自信がない。
毎日夜には枕に顔を埋める日々。
罪悪感を抱えたまま日数だけが経っていく。
ケイトもそんな私の不自然さに気付いたようです。
「最近、なんだか殿下を避けてない? もしかして、分不相応とか思っているの?」
「べ、別にそんなつもりは……」
「だったら良いじゃない。折角、殿下とお近づきになれたならもっと踏み出さないと。いつもやってることでしょう?」
「いつもって、私そんなことしていたかな……?」
「レイミラって、そういう所あるじゃない? たま~に凄い方向に飛んで行くの。殿下に声を掛けたのだって、それが切っ掛けだし」
「うぐっ」
「でも私は、そこがレイミラの良い所だと思うのよ。だって失敗を恐れていたら、何も出来ないじゃない?」
当然のように言われる。
もしかして私は無鉄砲な人間なのかも。
確かに心当たりはあり過ぎる。
焦り過ぎると考えるよりも先に行動してしまう。
そして後悔するのは、昔からの癖でした。
いつもはどうやって切り抜いていただろうと考えていると、あの時の殿下の言葉が思い起こされる。
『俺に必要だったのは、失敗を許すことだった』
殿下は失敗を恐れずに、周囲に一歩一歩近づいていった。
今までの自分を少しでも変えようと思っていたからこその行動。
だったら、私はどうなのでしょう。
今の自分を許せているのか。
私は変われているのか。
「失敗を……許す……」
「あら、ちゃんと分かっているじゃない! じゃあ後は、そうするだけね! 私も応援するから!」
「ケイト……」
「だからあの時、レイミラを置いて逃げたこと許して~? ねっ?」
そう言いながら、ケイトはおどけた様子を見せる。
許すも何も、別に私は気にしていないのに。
けれど、そんな陽気な友人のお蔭で少しだけ安心できる。
もしかしたら、これが殿下の言っていた、悩みを共有するということなのかもしれません。
その日、全ての講義が終わった私は、夕暮れの中で庭園を一人歩いく。
考えをまとめるために、気分を落ち着かせたかった。
私は一体、何のために殿下の傍にいたのか。
切っ掛けとなった、あの言葉を思い出してみる。
『ごめんなさ~い、待った~?』
本当にどうしようもない言葉です。
あれがなければ、殿下に近づくことなんてなかった。
猫舌で、猫好きということも知らないままだったでしょう。
けれど、私は彼の人となりが分かった。
そして、もっと他のことを知りたいと思ってしまった。
「本当は私、あの時から……あっ……」
不意に風が吹き、仕舞っていたハンカチが地に落ちる。
そこへいつの間にやって来ていたのか。
以前に茂みで出会った一匹の猫が、足元に近寄って来た。
私のことを覚えているのかな、と思ったのも束の間。
猫は首を傾げてハンカチを咥えると、踵を返して去っていこうとする。
「猫ちゃん!? ちょ、ちょっと待っ……!?」
私の声には反応せず、そのまま庭園を抜けて茂みの向こうへ入っていく。
勿論、猫を追いかける。
見覚えのある場所から草木を避けつつ進んでいく。
すると茂みの先で、猫がその場にいた人物にハンカチを渡しているのが見えた。
誰かなんて、考えるまでもない。
イグニス殿下がそこにいた。
「ぁ……」
「レイミラ? そうか、このハンカチは君のものだな?」
やって来た私を見て、殿下は持っていたハンカチを渡してきた。
ありがとうございます、と言いつつ受け取る。
けれど、その後は微妙な沈黙が流れるばかり。
このままではいけないと思った私は、自分から切り出そうと声を絞り出す。
「殿下……私は……」
「すまなかった」
まさかの謝罪の言葉に、虚を突かれてしまう。
「えっ?」
「近頃、君が少しずつ遠ざかっている気がする。きっとあの時、俺が強く遮り過ぎたことが原因なのだろう。加減したつもりだったが君を驚かせ、更に傷付けたのであれば、ここで謝罪したい」
「ち、違うのです殿下! それとはまた、別のことで……!」
「別のこと? しかし、あのレイミラが気力を失う程のことなど……? もしや、誰かに虐められている、のか?」
「えぇっ!?」
「それは由々しき事態だ。誰にやられた。俺がその人物と直接……」
「違います殿下! そういう訳でもなく……!」
あぁ、どんどん変な方向へ。
私は首を振った。
殿下は何一つ悪くないのです。
全ては私の身勝手な行動が原因。
これ以上、殿下に気苦労を掛けてはいけません。
失敗を恐れず、今だけは思い切って打ち明けなければ。
緊張で胸が高鳴る中、私は意を決した。
「分かりました。今までの非礼も含め、全てをお伝えします。聞いて頂けますか」
「分かった。心して聞こう」
「先ずは謝罪させて下さい。申し訳ございません。殿下には何一つ責任などございません。実は、とても恥ずかしかったのです」
「ふむ」
「率直に申し上げますと! 殿下があまりに素敵だったので、今まで目を逸らしていたのです!」
「ふむ、そうか……。って、えっ!?」
ワンテンポ遅れて、殿下はかなり驚いたようだったけれど、構わず私は続ける。
「初めは威圧感のある、茨のようなお方と思っていました。ですが、お話をしていく内に間違っていることに気付いたのです。殿下には私達と同じように悩みながらも、誰にでも分け隔てなく接する優しい心があって……。異名や武力以上に、それこそ殿下の最も良い所だと気付いたのです。そして、その優しさと力強さを一緒に目の当たりにしたあの日から、思わず恥ずかしくなった……訳です……」
「……」
「最近では殿下を前にすると、いつも通り話せる自信がなくて……。だったらもういっそ、身を引いた方が良いかも、と……。いえ、既にこの考え方が不敬ですので、言い訳のしようもないのですが……」
「……」
「ですからそのっ! 全て私の責任ですので!」
最後には目を瞑りつつ、全て吐き出した。
はい、全て言いました。
いきなりこんな事を言うなんて、多分軽蔑されましたね。
今までの分も合わせて、どんなことを言われるでしょうか。
でも、もう後悔はありません。
これは今までのことを清算するための行動。
非難され、拒絶されるのであれば、私はそれを受け入れます。
けれど一向に何の反応もないので、恐る恐る殿下を見上げた。
「殿下?」
「いや、すまない……少し驚いたというか……。そうか、そう言うことだったんだな……」
彼は少し慌てていた。
それに何だか、顔が赤いのは気のせいでしょうか。
暫くして、調子を取り戻した殿下は私に言った。
「……実はレイミラ、俺からも伝えたいことがある。聞いてくれるか」
ハッとして身構える。
既に覚悟は決まっています。
ゆっくりと頷いて、殿下の言葉に耳を傾ける。
「分かりました。お願いいたします」
「今まで考えていたことだ。王族としてではなく、自分にとって何が正しいのか。本当に在るべき姿とは何なのか。俺はその答えをずっと探し、ようやく手掛かりを見つけた」
「はい」
「端的に言うとだな……レイミラ、君には俺の傍にいて欲しい」
「はい……って、えっ!?」
一瞬だけ思考が止まる。
さっきの殿下と同じように、ワンテンポ遅れて驚いてしまう。
私に傍にいてほしい?
聞き間違えでしょうか?
「狂い王子には俺にとって特別な意味がある。聡明な兄上達とは違う、俺だけの証。周囲から恐れられるという意味だけを取っても、俺には十分過ぎる程の価値があった。だから、盗賊の根城へ飛び込んだり、竜に一対一で戦いを挑んだり、狂気じみた無茶をしたよ。けれど、俺という人間は思った以上に欲深いようだ。どうにも、それだけでは足りないらしい。そして、そんな所にレイミラが来た」
「……」
「俺はその偶然を利用することにした。今のままでは埋まらない何かを探すために、君を利用したんだ。そして分かった。俺は理解者が欲しかったんだ。狂い王子と呼ばれることを受け入れておきながら、心の何処かではそれを否定している俺を、少しでも分かってくれる人が」
そこまで聞いて、殿下の本心を理解する。
私はずっと誤った態度ばかり取っていると思っていた。
けれど彼は私を煙たがるどころか――。
「それが君だ、レイミラ」
「!?」
「強引だという自覚はある。だが君が俺から離れることを想像しただけで、心に穴が空いたような感覚に襲われる。それに異名や武力以上に良い所があると言ったのは、君が初めてだ。だから、離れるなんて言わないでくれ」
ドキリ、と身体が震える。
顔が熱を帯びる。
本当に良いのでしょうか。
私には殿下に釣り合うような何かを持っている訳じゃない。
ただただ、平凡な貴族令嬢。
返答に躊躇っていると、彼はその場に屈み、足元にすり寄ってくる猫達を撫でた。
「それにきっと、この子達も寂しがる」
何匹かの猫が私の元にも近寄ってきて、純粋そうな瞳で見上げてくる。
そんなことを言われたら、もう逃げられない。
そして殿下が言いたいことも分かった。
釣り合うかどうかが問題じゃない。
狂い王子と呼ばれる中、自分の思いを分かち合えるかどうかが、彼にとっては大切なこと。
一人では踏み出せないことも、誰かが後押ししてくれれば踏み出せる。
そんな相手に、私を選んでくれた。
あぁ。
今絶対、顔赤いですね。
猫を撫でつつ、私はもう一度殿下を見上げた。
「後悔、するかもしれませんよ」
「しないさ。する訳がない」
イグニス殿下は微笑む。
その微笑みは、今まで見た殿下の中で一番美しく見えた。
●
「い、イグニス殿下! 辺境で起きた魔獣騒ぎについて、見識を伺いたいのですが!」
「あぁ、その件は既に把握している。俺で良ければ力になろう」
あれから殿下は、より多くの人と交流を持つようになりました。
恐れられているのは相変わらずだけれど、彼はそれで良いと思っているようです。
狂い王子としての存在も、確かな自分の一部。
それを否定することは出来ない。
ただ、以前とは違って彼の周りは賑やかになりつつある。
私としては、それが嬉しく思えた。
「えっ!? お付き合いしてないの!?」
「多分……」
「嘘でしょ!? あれだけ楽しそうに話してるのに!?」
「その、お互いハッキリと示し合わせた訳じゃないし……」
正午を回った学院。
ケイトに突っ込まれ、私は困惑しながら頷く。
殿下との関係については、私にもよく分かっていません。
傍にいようとは言ったけれど、交際しようと言った訳じゃないし、それを今更確認するのも何だか違う気がする。
友人以上で恋人未満、といった感じなのかも。
聞いていたケイトは呆れた表情をしていたけど、私はそれで良いと思っている。
こういうことは急ぎ過ぎず、ゆっくりで良い。
そんなことを話していると、食堂前で待っていた私達の元へ、殿下がやって来る。
「すまない。少し遅れたか」
「いいえ。私達も今来たばかりなので」
「それなら良かった。しかし、大人数で昼食を取るというのは中々に緊張するな」
「安心して下さい。皆、初めは緊張するものです」
「そうなのか?」
「そうですよ」
今日は他の同級生も交えて食事をすると聞いています。
切っ掛けは単純で、今朝お互いに誘われたというだけ。
相手方は令息令嬢どちらもいるようで、私達の存在が浮くことにはならないはず。
お互い頷き合って確認する。
ケイトは何かを察して、その場から立ち去ろうとしたけれど、私が呼び止めるよりも先に殿下が動いた。
「そうだ。実はケルマン家の令息達も同席する予定なのだが、そこの君も良ければどうだろうか。レイミラの親友として紹介しよう」
「ケルマン侯爵家の!? よ、宜しいのですか!?」
「問題ない」
「で、でしたら、喜んで同席いたします!」
戸惑いながらもケイトは頭を下げる。
彼女は私の幼馴染。
一人置いて行くことはしたくなかったので、殿下の気遣いに感謝するしかありません。
私も同じように礼を言った。
「ありがとうございます」
「何かあったか?」
「いえ、何でも」
わざわざ言う必要はないこと。
不思議そうに尋ねられても、私は微笑むだけに留める。
すると殿下は気掛かりなことがあったようで、私をジッと見つめた。
「前から思っていたが、レイミラは他の人にもそうやって笑っているのか?」
「……? あまり自覚はなかったのですけど、何かありましたか?」
何でしょう。
あまり見つめられると緊張します。
程々にして頂けると、とても助かります。
そう思っていると、彼は首を傾げる。
「いや、おかしいな……。俺は今、何故そんなことを聞いたのだろう……?」
「殿下?」
「すまない。気にしないでくれ。妙なことを聞いてしまった。他意はない、と思う」
殿下は困ったような表情をする。
彼自身、今の発言がよく分かっていないみたいだった。
どういうことでしょうか。
そればかりは私にもサッパリ分かりません。
「……やっぱり、付き合ってるでしょ」
横から微かにケイトの言葉が聞こえるけれど、どうしてそんな発言になるのやら。
顔を真っ赤にしたまま皆の前には出たくないから、とにかく意識しないでおく。
取り繕いつつ、私はケイトを連れて殿下の後を追った。
食堂からは賑やかな声が聞こえてくる。
確かにもっと距離を縮めたり、積極的にしたりするものなのでしょう。
けれど今は、このままで良い。
ゆっくりと分かり合う方が良いこともある。
それが今の私達の、心の縮め方。
一歩一歩、しっかりと歩いて行こう。
殿下の柔らかな表情を見て、そう思ってしまうのだった。