声
十七、友の声
桜も咲きはじめ私は貯金を切り崩しながら、心のリハビリをしていた。クリニックには週に二回通っていた。私はようやくバスに乗れるようになった。ちょっとの変化だけど私にはとても嬉しい成果だった。そしてカウンセリングも続けていた。
私は友達があまりいない。唯一の友達里奈、高校時代のクラスメートに思いきって電話をした。里奈に連絡を取るのはすごく久しぶりだった。なかなか人に悩みを話したり頼ったりができなかったのだが、カウンセリングのおかげで少しずつではあるけれど人の力を借りることが悪いことではないように思えてきた。
「もしもし、お久しぶりです。花実です。里奈元気だった?」
「花実!久しぶり。私は元気だよ。花実こそ元気?花実から連絡もらえるなんてめっちゃ嬉しい」
「ありがとう。私も元気だよ」
「ホントに?なんかあまり元気な声していないけど」
「う~ん、里奈は相変わらず鋭いな」
「やっぱり何かあった?何でも話して」
里奈は変わらず優しくて明るい声で私はその声を聞いただけで元気になった。里奈には本当のことを話そうと思った。
「実はパニック症になって仕事も辞めちゃったんだ・・・」
「そっか・・・。今どうしてるの?病院とか行ってる?」
「うん、二週に一度メンタルクリニックに行ってる。カウンセリングも受けててだいぶ良くなってバスには乗れるようになった」
「よかった」
「それでカウンセラーさんには相談できないことがあって、里奈に聞いてもらいたくて・・・」
「全然オッケーだよ。何でも話して」
「実はこんな状態なのに気になる人がいて」
「おーいいじゃん」
「私がはじめてパニック起こした時に助けてくれた人がいて、ずっと忘れられなくて」
「その人とはその時しか会えていないの?」
「一度だけクリニックで会った」
「すごい偶然じゃん。お礼は言えたの?」
「それがまだ言えてなくて・・・。それが言いたいけど言えなくて今度会ったら言おうと思ってるんだけどそれ以来会えていないんだ」
「それはちょっとつらいよね」
「うん」
「花実はまだ電車には乗れないのかな?」
「各駅なら少しかな」
「その人と初めて会った駅に行ってみるとか」
「あの駅に行くと思うとまたパニック起こしそうで怖いんだよね」
「私一緒に行こうか?二人なら大丈夫とかはない?」
「いいの?」
「もちろんだよ」
「ありがとう」
「私今度の水曜休みだけど花実はどう?」
「私は大丈夫だけど、そんなに甘えていいのかな?」
「何言ってるの、じゃあさ今度もし私が悩んだら慰めて」
「私で良ければ」
「花実がいいの。私友達の中で花実が一番話しやすいんだよね」
「えっ、私が?」
「そうなのよ、じゃあ水曜に一緒に行こう」
「うん、ありがとう。宜しくお願いします」
「友達なんだから敬語はなし!」
「うんっ」
「じゃあ、また連絡するね」
「忙しいとこにごめんね」
「大丈夫よ、むしろ嬉しかったから。こちらこそ連絡ありがとね。じゃあまた」
「うん、また」
電話が終わってからも私はまだ嬉しすぎて気持ちが落ち着かなかった。私は嬉しい感情をどう消化していいのかわからず、鼓動の音がドキドキしっぱなしだった。人っていいものなのかな?そんなことを考えていた。
桜の花びらが残っているうちにハルタさんに会いたい。そう強く思っていた。
十八、兄の声
「薫さん、僕いま気になっている人がいるんだけど」
「えーいいことじゃん。どんな子」
「ちょっと前にたまたま駅で会った子。パニックになってたっぽくて・・・」
「春太が助けたの?」
「助けたまではいかないかもしれないけど、少し・・・うん」
「一目惚れか」
「う~ん、最初は女なんてって思っていたから気にはならなかった。でもなんか違ったんだ。だからずっと気になっていて」
「それ以来会えてないの?」
「それがクリニックで会ったんだよ、一度だけ。向こうは気づいていないと思うけどね」
「賭けてみる?」
「えっ」
「待ち伏せ大作戦」
「それ一歩間違ったらストーカーじゃない?」
「何気な~くね」
「薫さんらしくないな」
「俺らしくってどんな感じ」
「諦めるしかないとか、もっと冷静なことを言われるかと思った」
「俺意外と責めるよ」
「あはは」
「一番最初に会った駅に行ってみるのは?」
「一か八かみたいな?」
「そう、それで会えなかったらまた行ってみる」
「また行く?」
「当たり前だろ。そう簡単に諦めるな」
「はい・・・」
「俺医者に向いていないよな。破天荒すぎ?」
「いや、薫さんは白衣着ると変わるから」
「そうそう、白衣はすごい威力ある。あれ着るとスイッチが切り替わる。使命感とか責任感とかも一緒に背負う感じ」
「薫さんはいい医者になるよ。患者に優しく寄り添えるような」
「春太に言われると嬉しいな」
「いやいや、本当にそう思うから」
「ありがとう。でも何もでないからね」
「あはは」
「あはは」
そんな言葉を交わしながら、僕は満ち足りた気持ちになった。会うのなら桜の咲いているうちにハナミさんに会いたいと思った。




