味方と桜
十五、それから(花実)
私はカウンセリングを受けるようになった。最初は本音が話せなかった。しかしカウンセラーの先生が女性で同じくらいの年代だったので私には話しやすく最初は雑談からはじめてくれた。
家族のことも昔学生時代にいじめにあったことも、私は話せるようになっていた。カウンセラーの如月さんは当たり前だが話を引き出すのがとても上手だった。アドバイスはほとんどないが私のことを否定せず受け入れてくれたので、だんだん気持ちが楽になった。
そして学生時代の教師主導のいじめについて話した時、「本当はこんなことを言ってはいけない立場なんだけど・・・」と前置きしたうえで「その教師のことぶん殴ってやりたいです」と柄にもないことを言ってくれた。私はその言葉を聞いた時、いままで溜まっていた感情がフーっと体の中から抜けて気持ちがとても楽になった。そして私の味方ができたような気がしてとても嬉しかった。
それから私はパニックになった経緯や藤見さんや美礼ちゃんのことも話せるようになっていた。どうやら私がパニックになったのは藤見さんと美礼ちゃんのことだけではないみたいだった。いままでの経験によるものも大きいようだった。私はとてもホッとした。私はもう自分を責めなくてもいいのかなと思ったが、もう身に染みついているのでなかなか自分を責めることはやめられなかった。
長年の習慣とは恐ろしいものだ。私は相手に明らかに非があっても全て自分のせいにしてしまう。そしてその人の代わりに「ごめんなさい」と謝ってしまう。どうしてそんなふうになってしまったのだろうと考えた。思い当たることはあった。でもその出来事のせいにはできなかった。私にも至らぬ点があっただろうから・・・。人のことも自分のことも責めずに生きていけないものだろうか。私には白か黒しかないとも如月さんに言われたので私は真ん中探しもするようにはしていたが、真ん中はいつだって難しい。結局「誰のせいでもない」それが私の中での答えみたいだった。それだったら何も争いごとも起こらないのだろう。みんなが平穏に暮らすことはできないのだろうか。私はエセ平和主義者なのだろうか。
昔小学校の先生から「ごめんで済んだら警察はいらない」と毎日のようにレクチャーされていた。その通りだと思ったが私はその言葉がとても怖かった。まるで自分が犯罪者にでもなったかのような気持ちになったからだ。おかげでそうはならないように過度に注意深く生きることができるようになった気はするけれども。
もうクリニックに通いはじめて三週間が経とうとしていた。しかし一度も恩人さんであるハルタさんには会えなかった。一言でいいから「ありがとう」が伝えたかった。
もう季節は春だと桜がそう告げていた。ハルタさんももう桜を見ただろうか・・・。
十六、それから(春太)
僕はクリニックに通うのをやめてしまった。僕には合わないような気がしたのと自分の気持ち次第なのではないかと考えるようになっていたからだ。しかし街中で偶然薫さんに会った。本来なら医師の方から話かけてはいけないらしいのだが、薫さんは「俺、クビになってもいいから」そう言って僕を喫茶店へと連れて行った。
「春太、その後どう?」
「別に・・・」
「薬のんでないだろ?」
「効いているかわからないくらいですから」
「・・・俺にだけでもいいから春太がいまどんな気持ちでいるのか教えて欲しいんだ」
「何故?」
「心配だからに決まっているだろう」
「なんで僕なんかに・・・」
「昔、春太が突然引っ越してから俺本当にずっと心配だったんだよ。もうあんな思いしたくない。春太は俺にとって本当の弟みたいなもんなんだよ。また一緒に遊んだり勉強をしたりしたいんだよ」
「そんなの薫さんの勝手な感情ではないですか?」
「そうだよ、俺の勝手な感情。それじゃダメ?もう大切な人と離れ離れになりたくないんだよ」
「マジで?医者だからじゃなくて?」
「俺は医者である前に人として、春太のことが心配だったしまた春太に会えてホントに嬉しかったんだよ。信じてもらえないかな?」
「・・・」
僕は不覚にも泣いてしまった。そんな僕を薫さんは本物のお兄さんのような優しい眼差しで見ていてくれているのが僕の少し伸びた前髪の隙間から見えた瞬間、僕はまた子供みたいに人目も気にせず泣きじゃくった。
そんな僕を薫さんは慰めるでも宥めるでもなくただずっと僕が落ち着きを取り戻すまで静かに待っていてくれた。「僕にも味方がいるのかもしれない」そう思ったらまた泣きそうになったのでそれをグッと堪えてただ一言「ありがとう」そう薫さんに伝えるので精いっぱいだった。
それから僕は薫さんと昔みたく兄弟のようになった。通信制の大学の勉強を教えてもらったり、他愛のない話をしているだけで僕の心は段々と溶けだしていった。
外を見るともう季節も冬から春へと完全に移り変わっていた、「桜が咲いてた!」と薫さんから写真が送られてきた。そこには薄いピンク色の桜が寄り添うように二輪咲いていた。僕はこんなことを教えてくれる薫さんのことが大好きだったし、尊敬していた。
僕は薫さんの前でだけ笑うことができるようになっていた。僕はずっと気になっていたハナミさんのことを薫さんに話してみた。




