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破滅した世界の内側で  作者: めーや
9/35

うまい奴


瓦礫の海に立てられた不恰好な墓。

何の文字も書かれていないその墓に花を置き手を合わせる真衣。


{どうか、安らかに)


目を瞑り、死者へ祈りを捧げる。


「さてと……おーい!起きてー!もう朝だよー!じーん!」

「……後、5分…」

「そーいっていつも起きないじゃん!起きないと荷物全部もって先行っちゃうよ?」

「いや、それやられたら俺迷子になって死んじゃうから。え、やらないよね?」

「今すぐ起きないと絶対にやる」

「起きる。起きた」

「じゃあテキトーにご飯食べて歯ー磨いて準備して」

「うっす」


ぼーっとした頭で溜息混じりに非常食をつまむ仁に、真衣はジト目になって仁の方を見る。


「もしかして、桜丸壊れた事まだ引き摺ってるの?」

「当たり前だろ。あれゲットする為に一ヶ月もPKやらずにPKペナルティリセットしてそこから誰も手伝ってくれないから一人でコツコツ頑張って手に入れた最愛の刀だぞ。もうアイツとは兄弟みたいなもんだったのに」

「うじうじしてる人は嫌いって言ってなかった?」

「前言撤回する。うじうじしてる奴は大!好きだね!」

「そこまで行くとちょっとキモいけどね」

「言い過ぎだろ……いやっぱキモいな」


対茜戦では間一髪桜丸を戻す事で破壊を防いだが、ラグナロクではミョルニルに木端微塵に破壊された。

その為いくら呼び出そうと桜丸が手元に来る事はない。

因みに、元々真衣が所持していた[魔剣:ダインスレイフ]は真衣が一度死んだ事で自らの選んだ仁という新しい使用者の下に行き、その仁が死んだことにより所有権を生き返った真衣に戻した為、現在の所有者は真衣である。


「はぁ…。ラグナロクペア攻略した癖に経験値全然もらえなかったし」

「そう?私はレベル149に行って余剰経験値も合わせれば余裕で150に行けるだけの経験値貰えたけど」

「昨日も言ったろう?俺は[偉業]で蘇生する時に馬鹿みたいに余剰経験値を吸われるんだよ。新しい魔法の開発とかでも経験値大量に貰えたっぽいけど、こっちは合計収支マイナスだくそが」

「ま、生きてればいいことあるんじゃない?」

「その言葉を言われる奴って大抵碌にいい思いできないよなぁ…」



ユグドラシルを使い死体を瓦礫ごと地面に沈めた仁と真衣は、ラグナロク完遂より翌日、発電所を発った。



<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<


東北新幹線の線路をとぼとぼと歩く集団があった。

その者らの顔に生気はなく。皆疲れからか死んだ様に歩いている。


「仁さん達。無事でしょうか…?」


静寂を破ったのは赤髪の青年悠二だった。


「無事な訳ないでしょ」

「ですよね…」


(俺がもっと強ければ…!俺が、俺がみんなを守らないといけないのに…)


いざとなったらお前達を置いて逃げると断言した癖に、身を挺してこの一団を逃がしてくれた恩人達の顔を思い浮かべ、何もできなかった無力感に怒りが湧いてくる悠二。

そんな悠二の気持ちを察してか、梓は重い口を開いて言葉を紡ぐ。


「まぁでも。あんなんでもブレサリ最強のプレヤーの一人だし、意外と何とかなってんじゃない?だってほら、アイツが死ぬとことか想像できないし」

「……そう、ですね。きっと生きてますよね…そう願うことしかできませんし、今は仁さん達に繋げてもらった命を_」


その言葉を言い終えるより前に、彼等の眼前に巨大なエネミーが飛来した。

その体に鳥を思わせる体毛はなく、鈍色に艶めく皮膚と爬虫類を思い浮かばせるその頭部を見れば、ブレサリプレヤーであれば何がやって来たのか一瞬で理解できた。


「ワイ、バーン…」

「嘘でしょ……」


地上に降りてきたワイバーンだけではない。空へ目を向ければ三体のワイバーンがその鋭い眼差しを彼等へ向けていた。


(まずい!油断した!!前の一体は俺で対処できるけどみんなを守りながらじゃ四体同時に相手するのは無理だ!ワイバーンのレベルって幾つだ!?梓さん一人で一体持ってけるか!?どうする!どうする俺!!)


ラグナロクを目の当たりにしてから丸二日。その間ずっと神経を尖らせてきた悠二の脳はとうに限界を迎えており、いざという時に冷静な判断ができなくなっていた。


「悠二!!」

「えっ…」


梓の言葉でハッとするが、もう避けられないところまでワイバーンの頭が接近していた。


(あ…死んだ……)


例外はいるが、ゲームと違い頭を噛みちぎられればすぐにその生命力が全損するこの世界では五秒後の生存もままならない事を悟り、今は亡き家族との日々を巡らす。

子供の頃から成長した今まで家族と過ごした輝かしい記憶。

後悔も心残りもあるがそれでも何故だか穏やかな気持ちになってゆく。


(待たせてごめんね。今、そっちにいくよ)


目を瞑り最後の時を待つ。




しかし、いつまで経ってもその時は訪れず恐る恐るその目を開ける。


「やぁ悠二君。二日ぶりくらいかなぁ?」

「なん…どうして……」

「どうしてって、そりゃラグナロクを完遂して君達を探しにきたんだよ。死んだと思われるのはちょっと癪だからね。あぁそれとも、大量PK常習犯が生きてて残念だったかい?」

「そんな訳ないじゃないですか!!……生きてて…本当に良かったです…!!」


殆ど関わりもなかった男の生存を知って肩の荷が降りたのか、悠二はその頬に涙を流す。


「そうかい。まぁ、とりあえずこのトカゲ共を黙らせますか」


いきなり現れて仲間の一体を吹き飛ばした仁に声を荒立てて威嚇するワイバーンを見上げて、緩く言葉を発する。


「死体はこっちで受け止めるから、首チョンパしちゃえ」

「了解!」


何処からともなく聞こえてきた少女の声が耳に届くのと同時に、ワイバーンはその短い生涯に幕を閉じた。




「よがっだでず〜〜ぼえじんざんがじんじゃっだどおぼっで〜〜〜!!!」


夜。別れてからのお互いの事を話しつつワイバーンの肉を食らう一行。

木々で守られた空間にここ二日全く感じることの出来なかった安らぎを覚え、皆それぞれ溜め込んでいた感情を爆発させる。


「おーそうかそうか。んじゃあ覚えとけ。俺は強い、俺は死なない、俺は肉が好きだ、だからこの肉も俺のものだ」

「あーちょっと!!!それ私が育ててた肉なんだけど!?」

「知らんがな。ラグナロクを二人で攻略したんだぞこちとら。もっと肉よこせ」

「こっちだって不安がるみんなを何とか落ち着かせて、子供達や重い荷物背負って得意じゃない戦闘までしてこの二日間乗り切ったんだからねー!!??あんたこそもうちょっと労わりなさいよ!!」

「おー頑張ったな。頑張ったお前にこの食いかけの肉をやろう」

「ふぁっきゅーーー!!!もらうけどね!!!!!」


そう言って仁に横取りされた肉に手を伸ばすが、その肉すら真衣に横取りされてしまう。


「ちょっと真衣ちゃん!?」

「梓さん、これは仁の食べかけのお肉です。つまり仁菌が付いてます。普通の人が仁菌を摂取すると恐ろしい怪物になってしまうのでこれは私が処理します」

「おいまて、仁菌なんてある訳ないだろ。やめろ小学生のイジメ常套句持ち出すの」

「仁も女性に食べかけを渡すなんて何考えてんの?モラル小学生から学び直したら?も一回殺してあげようか?」

「わ、悪かったって。だから魔剣呼び出すな、振り回すな、こっち向けるな!」


泣く者笑う者怒る者。三者三様のどんちゃん騒ぎも少しずつおさまり、疲れ切った者から眠りについた。

眠る真衣に膝枕をしつつ夜空を眺める仁に梓が声をかける。


「アンタ、これからどうするの?」

「ん?そーさなぁ…東京に戻ろうかな?俺武器ぶっ壊されたから」

「そう……」

「あれぇ?何々、俺と離れたくないの?もしかして惚れちゃった?」


暗い声で返事をする梓をニヤニヤしながら揶揄う。


「んな訳ないでしょ、馬鹿じゃないの?…ただ、アンタ達が居ればこの子達も安心して暮らせるだろうなって思っただけ」

「確かにお前さん頼りにならなさそうだしな」

「こっいつぅ…!!アンタほんっとに人をイライラさせるのうまいよね!」

「大きな声出しなさんな。ガキ共が起きるぞ」


噛みつきたくなる気持ちを何とか抑える梓。


「はぁぁ……。やっぱアンタがいると子供達に悪影響だわ」

「それは否定しないなぁ。んで、お前さん等はどうするん?またあそこに戻るのか?」

「それは…みんなと一緒に考える。けど、まだヴァルキリーが出現しないって決まった訳じゃないなら、戻るのはやめた方がいいと思ってる」

「そうかい」

「ねぇ…」

「ぅん?」

「私達を東京まで連れてってって言ったら、どうする?」

「無理無理。頑張って自分等で辿り着きな」

「そっか…まぁ、正直期待してなかったけどね」

「あれ、噛みついてくると思ってたのに大人しいじゃん」

「そりゃあ、出来ることなら、それこそアンタの足を舐めてでもみんなを連れて行って欲しいって思ってるけど、アンタが了承するとは思えないから。それに、もう沢山助けられたんだしこれ以上甘えてたら私達はどんどん弱くなってく、この世界でそれは致命傷でしょうしね。もう世話になるのはやめとよ」

「そうかい」



その晩、梓と仁は二人で残り少ない酒を飲み干しては愚痴を言い合った。


そして翌朝。駄々をこねる者こそいたが、仁と真衣は梓達と別れ東京へと足をすすめた。



<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<



「仁…!あれみて」

「ん?」


東京へ戻る途中、真衣は声を潜めて仁を呼ぶ。

真衣が指差す方向に顔を向けると、白い毛に覆われ丸々太った狐のような生物が実った木苺を食べているのが見えた。


「何あれかわいい初めて見た」

「え、仁って動物をかわいいって思う心あったんだ」

「あるに決まってんだろ。俺を何だと思ってるんだ」

「歩く大量破壊兵器…いてっ」


真衣の脳天にチョップをかましてから、何事もなかったかのようにあの生物について尋ねる。


「あれは、ヤミィフォックス。自然属性のエネミーでその名の通りお肉が美味しくてついでに経験値も美味しい。プレイヤーの中じゃ大抵の人が知ってるエネミーの筈なんだけど、まぁ仁はPKしかしてないだろうし知ら無いのも無理ないか」

「あぁ〜…なんっとなく知ってる気がする」


ブレサリ始めたての頃の薄い記憶を引き出した気になっているが、普通に気のせいである。


「でさ、せっかく見つけたんだし食べてみない?」

「えっ…!あれ食べる気なのかよ、血も涙もない奴だな…」

「でもすっごく美味しいらしいよ」

「すっごく美味しいっつわれてもなぁ、どんくらいよ?」

「A5ランクのステーキじゃ比にならないくらい」


勿論ゲーム時代の資料にそんな記述は無いので嘘である。


「マジか…A5ランクのステーキがどんだけ美味いのかわからねぇけどすげぇ美味そう」

「ゲーム時代でも滅多にみられなかったし、こんな機会二度と無いよ」

「…ヤるか」

「絶対逃さないでね」

「まかせろ[発芽せよ、彼岸桜]」


ヤミィフォックスの周辺から二十を超える数の桜の幹が現れヤミィフォックスを捕まえんとその体を伸ばす。

しかしそれを身軽にかわしどんどんと包囲から脱しようとする。


「やばいよ!」

「まだまだぁ!」


刃桜をヤミィフォックスの進行方向に飛ばし逃げる方向を限らせどんどんと逃げ場をなくしていく。

やがて完全に木々の牢獄の中に捕らえられたヤミィフォックスはそのままなす術なく昏倒させられ意識を落とした。


「やったぁ!今晩はお肉だぁ!」

「ナイス俺!んじゃあ後はよろしく」

「え?後って?」

「は?そりゃあお前、俺は動物の肉とか剥いだことないし」

「えっ…」

「えっ…?もしかしてお前様、捕まえた後のことを考えていらっしゃらない?」

「そ、それはぁ…て、適当でいいんじゃない?」

「どーすんだよ、捌き方次第で味が落ちる類の動物だったら」

「それはその時だよ!うじうじ考えてたって意味ないでしょ!?」

「確かに!んじゃとりま首切って血抜きをすっか!」


真衣の身長よりもでかい大剣で全長三十センチ程の動物の首を取ろうとした時、そんなヤバイ奴等に声をかける者が出てきた。


「あ、あのぉ。それ、僕がやろうか?」


声をかけられるまで全く気配を感じなかった事に驚きを感じつつ魔力を巡らせ声の主人の方を向く。

黒いシャツに黒いボトム。腰ほどまである長い白髪に丸い眼鏡をつけた男。

仁の第一印象は、「胡散臭い」であった。


「あ?んだテメェ気配消して近づいてきやがって、殺されても文句言えねぇぞ?」

「ぶっそうだなぁ。っと魔力を高めないでおくれよ、僕は戦闘職じゃないんだ。君等と戦ったら五秒も持たずにあの世行きになっちゃうよ」

「戦闘職でも無いのにあのレベルの気配遮断ができると?」

「君達お話に熱中していたじゃ無いか。それに、非戦闘職だからこそ[日陰の御守り]は必須なんだろう?」

「確かにそうですね」

「おい丸み込まれんな」


「アイツ見るからに胡散臭そうだぞ、警戒しろ」と耳打ちをする仁に対して真衣は「大丈夫ですよ」と明言する。


「だって、貴方は[サードアイ]って名前のプレイヤーですよね?」

「ああそうだよ。よく知っているねぇ?」

「ええ、あいあいチャンネルはよくみさせていただきましたから」

「ははは。それは嬉しいなぁ」

「あぁお前、動画投稿者かなんかか」

「それに加えて、仁と同じ覚醒者だよ」

「へぇ?」

「やぁ、初めましてジン君、そして真衣君。僕は江崎 啓文(えざき ひろふみ)ゲーム時代では[賢者]の称号と[末裔の代弁]という偉業を成した者だよ」


最後まで読んでいただきありがとうございます!!!

もし宜しければ良いね等よろしくお願いします!!

ですが何より次の話も読んで頂ければ幸いです!!!!!!!

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