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破滅した世界の内側で  作者: めーや
7/35

機械仕掛けの終末期

昨日投稿するのを忘れていました。

ので昨日の分です。

黄昏の空の下に広がる地獄。

斬り殺された者、射殺(いころ)された者、刺し殺された者、焼き殺された者。

手足が切り落とされた者、頭部が破壊され残っていない者、全身が炭と化した者。


死体の顔から伺える苦痛と絶望は、梓達避難民を恐怖させるに余りあるものだった。


(ガキ共には間一髪枝で目隠しをしたが……。これには流石の大人達も顔色が悪いな)


「仁さん…!」

「わかってる。おいあんたら、移住計画はおじゃんだ。帰るぞ」

「そうじゃなくて!空が!」

「は?」


その言葉で仁は漸く気づく。

早朝に拠点を後にしてやく六時間、未だ正午にすらならない時間帯の筈の空は、真っ赤に輝いていた。

最悪の事態の発生。明らかに自分だけでは対処できない事象を前に仁は血相を変えて避難民を地面に下ろす。


「っ!!!」

『きゃぁぁぁ!!!』


悲鳴が上がる様な速度で橋の上へと一行を下した仁の顔にいつもの余裕はない。


「てめぇら!出来るだけ早くここから離れろ!いいか!?前の拠点じゃダメだ!出来るだけ遠くに逃げろ!!」

「えっ…な_」

「ごちゃごちゃ言ってる暇はねぇぞ!さっさと走れ!!大人はちっこいガキ共担いでけ!ほら呆けてねぇでとっとと走れ!!」


仁の剣幕に気圧され皆一斉に来た道を引き返す。

状況のわかっていない者達はただ困惑の表情を浮かべるだけであったが、この空に見覚えがあった梓や悠二といった数名のプレイヤーは泣きそうになりながらその場を後にする。


「おい、お前さんも逃げな」

「仁さんこそみんなを囮にして逃げるんじゃ無かったの?」

「ははは。あんな奴ら囮にもなんねぇよ、それよか邪魔な奴らどかして気兼ねなく戦った方が勝率も高いってもんよ」

「逃げるより戦った方が勝率高いわけないじゃん。素直じゃないなぁ」

「おま、それは…」


正論パンチをかまされ何も言い返せなくなる。


「はぁ…。マジでお前さんは逃げろ、ここにいても死ぬだけだし、お前がここで死んでもなんの意味もないぞ」

「なーに言ってんの。仁さんと離れたら魔剣に殺されちゃうじゃん。私仁さんと違ってPKしてなかったから人殺したいなんて思えないし」

「だからって_」

「いいの」


顔を俯かせて仁の言葉を遮る。


「仁さんってさ、存在そのものが物騒だし、素直じゃないし、地図見ても道間違える時あるし、私の事子供扱いするけど」


(え、何々?悪口大会?泣いて良いの俺?)


「でも…無駄に強くて、何だかんだ優しくて、我儘だって聞いてくれる命の恩人に…普通の人が聞いたら頭おかしいって思うかもしれないけどさ……憧れちゃったから。最期の一瞬まで一緒にいたいって思ったから……これで良いの」


震える声で、勇気をもって声に出した真衣の頭に手を置いて言葉を返す。


「…マセガキが。絶対生き残らせて一生の恥にしてやるから覚悟しろよ」


仁の言葉に最真衣は最高の笑みを浮かべ顔をあげた。


「うん!」



レベル141〜150解放を記念して開催された大規模イベント。


ワールドクエスト[ラグナロク]


力の限り笛を吹く神が終末を伝える。

曇天の黄昏から容易く100体を超える無数のヴァルキリーが降下してくる。

それだけでは終わらない。

黄金の兜と甲冑に身を包み愛馬にまたがる神。

雷のハンマーを片手に持つ神。

隻腕にもかかわらず肌で感じれる程の闘気を放つ神。

鬼の形相で炎に身を包んだ神。


あの者等を焼き尽くし

機械仕掛けの終末を辿れ。



「おいおい、[スルトの炎]無しで戦えって?無理ゲー過ぎない?」

「色んな意味で現実だよ。怖気付いた?」

「まさか、ちょうど良いハンデじゃん」

「いいね、そうでなくっちゃ。でもどうやって戦うの?ゲーム時代はスルトの炎のお陰で飛べたけど、このままじゃ一方的に攻撃されちゃうよ?」

「そりゃお前、さっきも見ただろ?」


さっき、とは木々を足場に石壁を乗り越えた時の事だろう。


「え、アイツ等まで千メートルはあると思うけど」

「お前、俺が桜の木しか出せないと思ってない?」

「後花とか草とか」

「それだけな訳ねぇだろ。一応偉人レベル6だぞ」

「期待して良いの?」

「勿論。さぁお相手の役者も揃った様だしいっちょヴァルハラへの片道ツアーと洒落込もうか![咲き誇れ、五色桜][魅了しろ、染井吉野][存在解放、春眠の誘い][生誕せよ、ユグドラシル]」


仁自らへのバフ、そして真衣へのバフをしゲーム時代では一度しか使わなかった奥の手を発動させると、

この世界を包み込まんばかりの巨大な大樹が仁と真衣を乗せズンズンと成長する。

末端の枝だけをとっても橋ほど巨大なその木は、神々と目線を合わせるには有り余る大きさだった。


「はは、流石チート性能の肉体、ここまで急上昇したのにも関わらず身体に全く異常がねぇし空気の薄さも気にならねぇ」

「凄い!雲があんなに近いよ!」

「ああ、本当は雲も追い越して宇宙まで行けんだけど、それやると戦えねぇからな。今度は雲の上へ招待してやるよ」

「その言葉、絶対忘れないから!」

「おう、言うだけただって奴だけどな」

「一言余計。すぅぅぅ、はぁぁぁ…[存在解放、血で血を拭うは明日への祈り][鮮血魔法、巡りゆく血を世界へ捧げて]準備完了。私の事、落とさないでね!!」


先陣を切ったのは真衣だった。

その肌に赤い血脈を浮かばせ、血煙を纏った真衣のステータスは筋力が一段階、俊敏が二段階上昇しており、振るわれる魔剣はヴァルキリーの武器を叩き折り鎧を貫いた。


放たれる弓矢は仁がユグドラシルの枝をもって防ぎ、ヴァルキリーから繰り出される突きや斬撃を大剣で受け、薙ぎ払い、躱し、叩き潰す。

一騎当千の戦いをする真衣に少しだけ目を逸らしていた仁も漸く愛刀を呼び出す。


「[咲け、桜丸]…さて、余裕綽々に見下ろしてきやがる神様達を地面に叩きつけてやろうか!」


([殺戮技巧、剣式、桜花爛漫])


木々が地面から生えなければならないというルールはない。ユグドラシルから生え出した三桁を超える桜は、ヴァルキリーを殺そうとその身を揺らす。


「おぉらあぁ!!」


振るわれた妖刀はヴァルキリーの持つ剣もろともその体を引き裂く。

一斉に掃射された矢の悉くを枝が払い除け、舞う刃桜はヴァルキリーの体を貫いた。


プフォォォォォォォォォォォォォオオオ!!!!!!!


突然、両手に持った笛[ギャラルホルン]の音を変える神[ヘイムダル]

この笛の音は神々、そしてヴァルキリーにバフと治癒効果を付与し、笛の音を聞いている人間の全ステータスを一段階低下させる。


「真衣!思ったよりフェーズの進む速度がはえぇ!お前はヘイムダルを殺しに行け!他の奴等は俺が止める!!」

「わかった!!」


(ヴァルキリーの数がまだまだいる状態でフェーズが変わったのは厄介だが、思ったよりヴァルキリー一体一体が強くねぇ。ゲーム時代より魔法の自由度が遥かに高くなったからか何らかの調整が入っているのか。どちらにせよ負け戦に変わりは無いだろうが「倒せるかも?」ってちょっと期待しちゃうじゃねぇか…!)


「させねぇよ!!」


ヘイムダルの下へ向かう真衣を止めようと群がるヴァルキリーを無数の枝で叩きのめす。

が、真衣を止めようとする者はヴァルキリーだけでは無かった。


「ちっ!!もってくれよ世界樹!」


雷のハンマー[ミョルニル]を持つ神[トール]がその身に纏わた雷を徐々にハンマーへと向わせ十分に帯電したハンマーを真衣のいる方向へ向けて振るう。

ただそれだけの動作で、視界を奪い耳をつん裂く雷撃がユグドラシルの枝を焼き払い真衣を襲う。

直撃すれば一撃で生命力を全て持っていかれかねないその攻撃をユグドラシルの枝を何重にも編み込み重ねる事で無理やり防ぎ、隙の生じたトールの首を仁が切りつける。


「はは、首は欲張り過ぎたかね?」


仁の攻撃は左手の甲で受け止められその甲にかすり傷をつけるだけに終わる。

籠手はついていない筈だが、トールのその強靭な体はそう簡単に傷つけることができない。


「っ!!」


反撃とばかりに振るわれるミョルニルをトールの銅を足場に跳ぶ事で交わし、真衣と他の神々の方へ一瞬だけ視界を逸らす。


(神々はまだ積極的に動くつもりがないらしい、この点はゲームと一緒だな。このまま順調にヘイムダルを殺せれば神々も本格的に動き出す筈、そうなる前に鬱陶しいヴァルキリーを出来るだけ片付けないとな)



<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<



自分の身長よりも大きな大剣を片手でもち、ユグドラシルの枝を駆け抜けヘイムダルへと駆けつける真衣。

今までやったどの戦闘よりも勝ち目がないのにも関わらず、彼女は今までにない程の安心感を持って戦っていた。


(仁さんが生命力を回復してくれるから存在解放のデメリットはまだまだ平気、時間が経てば生命力の消耗量はます一方だけどそれでもまだまだ戦える。それだけじゃない、仁さんのバフでヘイムダルのデバフは相殺できてるし、むしろバフの方が勝ってるから今までで一番調子がいい!それに何より周りの攻撃に気を使う必要もないからやりやすい。過保護すぎて仁さんの魔力量が心配だけど、それだけ期待されてるんだ。私だって神の一体や二体くらい倒してみせる!!)


「はぁあ!!」


遂にヘイムダルの元へ辿り着いた真衣が魔剣を振り下ろすが、その一撃は魔法障壁によって防がれてしまう。


「まだまだぁ!!!」


二度三度、四度五度斬りつけるがびくともしない。

それもその筈、ゲーム時代のヘイムダルの障壁ランクはSで耐久値は十億。つまり耐久のステータスがSのプレイヤーの生命力を十億削る量のダメージを与えないと障壁が割れることはなく、障壁への攻撃でクリティカル判定は発生しない。

そして、ゲームであれば創作属性への特攻効果のあるスルトの炎のお陰で割と簡単に障壁を破壊できていたが今はそれすらない。


(流石に硬い!数字が出ないからどれだけ削れてるかわかんないし、もう奥の手使うしかないの?)


奥の手を使えば障壁は突破できるかもしれない。しかしヘイムダルを殺せずに自滅する可能性もある。


(どうすれば…えっ…?)


何度切りかかろうと壊せない障壁に焦りを感じる真衣に更なる力が流れ込んでくる。

春の暖かみを感じさせるこの魔力は恐らく仁のものだろう。


(ホント、魔力切れ起こさなきゃいいけど)


押さえつけられなくなりそうな程湧いてくる力を使い全力で魔剣を振り下ろす。

その衝撃で障壁にはヒビが入り、危険を感じたヘイムダルは退避しようとするがユグドラシルがそれを阻む。


「わ!れ!ろぉぉぉぉ!!」


パリィィィィン!!!!!!


止めとばかりに振り下ろされた魔剣は障壁を叩き割りヘイムダルの脳天へ直撃した。

笛の音が止み真衣のステータスがさらに向上し、いつか仁を一度殺した者を思わせる神速の斬撃でヘイムダルに追撃する。

咄嗟に転移魔法で回避しようとするがこの空はもう仁の鳥籠も同然。転移魔法という繊細で高度な魔法は満ち満たされた仁の魔力により妨害され不発に終わる。


スパッ_


左肩から右肘まで容易く両断されたヘイムダルの体は再生することもなく、地面へ落ちていった。


「っ!仁!!ヘイムダル!ちゃんと倒したよ!!!」

「ナイス真衣!!!でも気を抜くな!?戦闘が本職の神様達が一気に動き出すぞ!!」

「わかってる!……ねぇ仁」

「何だ!?」


トール神と激しい戦闘を繰り広げている仁へ、震える唇でお願いを口にする。


「オーディンは私がやりたい!!」

「は、そんな事!?別にいいぞ!!」

「ありがとう!」


そう言って泣きそうに笑う真衣。


(やっぱり、神話とか興味なさそうだしワールドイベントの設定資料も読んでないよね。良かった)


「さぁオーディン!!フェンリルじゃなくて悪いけど、私がアンタを殺す!!!」



<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<



ユグドラシルの根が吸収した地球の生命力と魔力が大河の如く体に流れ込んでくる。

人の身に余る魔力の摂取と消費の連続に、仁の体は摩耗し、徐々に生命力の最大値が削られていく。


「っははは!」


トールが振り下ろしたハンマーを受け流し下段から切り返す。

衣服を貫通し筋肉をかすめた桜丸だが、それでも謎の素材で作られた筋肉を傷つけることは叶わず無造作に振り上げられるミョルニルを避ける為更なる追撃を諦め躱す。

この最中にも、大量の魔力を使い魔法の研究を進める仁。


(すげぇ…!ゲーム時代とは全然違う!画面をクリックして、ただ魔法の理念を当てはめるだけのパズルじみた作業とは全然違う!)


ゲーム時代とは考えられない程の速度で魔法の強化と最適化を進めていく。

あの頃は出来なかった同じ魔法の並列使用も、匙を投げていた魔法の製作も、魔法の発現時間延長も全て可能になっていく感覚に漠然とした全能感が湧いてくる。


「おっと、[テュール]君!つれないなぁ!俺はさん対一でも全然いけるぜぇ?」


([殺戮技巧、剣式、桜花爛漫])


オーディンに加勢しようとした隻腕の神の行手を大量の枝で阻み、ついでとばかりに10を超える分身でテュールへ襲い掛かる。

しかしその分身はテュールごと[ロキ]が炎で分身を焼き尽くしてしまう。


(ナイスロキ、俺達いいチームワークだな?)


ガァァァアァァァァアァァァァァアァン!!!!!!!


鼓膜に響く金属を置き去りにしてトールが吹き飛ぶ。

容易く裂かれたトールの身体の奥には深く青く光る神の心臓がみえる。


「ちっ!」


(コアまでは行けなかったか、まぁいい。どのみち両腕は切り落としたしもうミョルニルは振るえねぇだろ)


トールを撃破した事でほんの少しの油断が生じた仁へ巨大な炎の塊が飛来する。

回避か防御か、その二択を迫られるが回避に動いたところをテュールが待ち構えているようなのでここはユグドラシルの枝を用いた防御を選択する。


「あっっつ!!」


しかしユグドラシルの枝でもロキの炎を防ぐ事は叶わず、轟々と燃え盛る炎はユグドラシルの枝を炭へ灰へ塵へと変えていく。ユグドラシルで受けきれない以上仁があの炎を直に受けてしまえばタダでは済まないだろう。


「っぶねぇな!何処見て魔法使ってやがる!!」


眼前まで迫る炎は数多のバフで今までに無く強化を施されている為間一髪避けることができた。しかしもし避けることができなければ[存在解放]の性質上生命力がゼロになる事はなくとも自分と真衣にかけているバフが途切れるところだった。

そうなってしまえば仁はともかく真衣はただでは済まなかっただろう。そんな最悪なifを思い浮かべ額に流れる汗が現れるがそんなものを拭う暇もなくテュールが振り下ろした剣を受け止める。


(いってぇ!!クソが!バカみたいな量のバフかけてんのに腕が痺れやがる!!単純な膂力だけならトール超えてんじゃねぇの!?コイツ!!!)


とうとう余裕が無くなってきた仁は長期戦は不利と判断し分身を作り出していく。


(分身と枝で隙を出させてアサシンキルかトールとおんなじ様な初見殺しでとりあえずロキを_)


焦る気持ちを抑え込み貪欲に勝利を勝ち取ろうと思考を巡らせる仁だが、ロキとテュール()ばかり見てもう一体の神の攻撃に気づくことができなかった。


________!!!!!


耳をつん裂く雷鳴と共に、仁の体は消滅した。


(今のはっ…!やっばっ!!)


[存在解放:春眠の誘い]の能力で攻撃を無効化したのは良いが、存在解放を使用した後にかけたバフが全てリセットされた。

認識外から自分を襲った攻撃に理解が追いつかず混乱する仁に向けて、雷を纏ったミョルニルは無慈悲に振り下ろされる。


________!!!!!


雷でもって欠損した身体を補うトールから確かな殺気を込めて放たれる雷撃は、ユグドラシルの枝を容易く消滅させ仁を襲う。


「無っ_!」


これでニ度目、[存在解放]によって無かったことにできる死の数は残り七回。これのまま復活と同時に殺されればあっという間に命を落とすだろう。


「理ゲーだろこれぇ!」


復活と同時に走り出す。

ユグドラシルの枝に隠れながら走る事でなるべくトールに狙われないように。

しかしそんなもので対処できる程トールは甘くなく、雷よりも素早く移動するトールの一撃をモロに喰らい三度目の目覚めを迎える。


(そもそも何でミョルニル持てんだよ!両腕切ってやっただろうが!!って何あれ!?雷で身体そのものを作っていやがんのか!?……あぁ、なるほどねぇ?)


「俺も真似っこしてやろうか!!」


人体に枝を通すのは以前やった事があったが、自身の身体を魔法に置換する試みは流石に初めて行う仁。

(桜の木よりも、ユグドラシルよりも強い強いからだを…!)そう考え魔力で身体を置換していく。


_____!!!


三度目の雷撃。

即死は免れたが残りの生命力は僅か。それでも生きているのならばいくらでも回復できる。

地球から生命力と魔力を奪い雷撃で欠損した半身を再構成する。


(こんなんじゃすばしっこい神々に一方的に殴られるだけだ。もっと強く、そしてしなやかに…!)


そんな仁を放置してくれる程甘くない三体の神々は仁を切りつけ、叩きつけ、燃やしつけ、その命に手を伸ばす。

テュールの剣戟で四肢を切断され、トールの雷撃でその心臓を貫かれ、ロキの炎で全身を燃やされても尚、仁は必死に生へしがみつく。


そして漸く

神々の攻撃を無理やり耐え抜いたプレイヤーは

人を超えた。


「待たせたなぁ?」


その場から霧散する様に消えたボロボロの体の仁はテュールの背後に現れガラ空きの胴に膝蹴りを入れ吹き飛ばす。

その体は人とは遠いものとなっており、大量の木の枝が絡み合い作り出された人形(ひとがた)の身体に人間の頭が付いているという異形のものとなっていた。


「漸く確信できたよ。あんたら、ゲーム時代より格段に弱いし、何よりテメェ等は人の殺し方をしらねぇだろ。ゲーム時代にゃスペックの暴力で誤魔化せていたみたいだが、植え付けられた本能のままに力を振るってるだけじゃいつまで経っても俺を殺せねぇぞ?」


トールのハンマーを桜丸で受け流し剥き出しになった心臓へ突きを返し、ロキの炎を強化されたユグドラシルで防ぎ、テュールの剣戟を真っ向から受け止める。

一見優勢に見える仁だが、慣れない体で全て捌き切るのは無理があり二度三度と神々の攻撃を受ける。

そればかりか、仁の動きを学習したのかどんどんと攻撃が当たらなくなっていき、更に膨大な魔力と生命力を吸収し間髪入れずに放出し続けているせいで気を抜くとどんどん身体が崩壊を続け、仁の生命力の最大値は元の半分程度になっていた。


(しょうがない。どうせこのままいけばジリ貧だ、存在解放を解除するか)


先程から生命力が全損した時は存在解放のバックアップで死を無かった事にできていたが、もうそれも通用しない。

ここから先は一つのヘマも取り返しがつかなくなる。


(俺の限界も近いし、さっさとこいつ等を地面に叩き落とさねぇと…っておいおいトールさんよぉ!何だよその魔力さっきとは段違いじゃねぇか!)


トールの雷撃がミョルニルをへ集まっていく。先程までは保険があったが、今これを食らい一瞬でも隙を作って仕舞えば動きを学習した神々に畳み掛けられあっという間に殺される可能性がある。

そして、[春眠の誘い]を解いてしまっている現状、次に殺されればユグドラシルが枯れる。

避けようとも他の神々が魔力を高めて待ち構えている。

ならば。


(受け止めてやろうじゃねぇの…!)


魔法の研究はもう十二分にやった、今ならできると確信しその口を開く。


「[殺戮技巧、魔技、常春のさざめき])


通常、この魔法は地面でしか使えない。

しかし、ユグドラシルを地面の代わりとしそれに寄生させるようにして植物を生やす。


_____!!!


放たれた雷撃は仁ごとユグドラシルの上に咲き誇った花畑を飲み込んだ。

されども、トールの雷撃もロキの炎もものともせず悠然とそこに佇む花々と仁。この空間では、何人も死ぬ事が許されない。


(あっぶねぇ…さて、[常春のさざめき]を使った以上急がないとユグドラシルの活動限界ももうすぐ来そうだ。チンタラしてる余裕はねぇ。一気に仕留める…![咲き誇れ、五色桜][舞い踊れ、八重桜][殺戮技巧、剣式、桜花爛漫])


今までで最も強く、最も大規模に魔法を行使する。

ユグドラシルに咲き渡った桜の花は、散っては舞い、舞っては神々を殺しにかかる。

鬱陶しそうに魔法で焼き払おうとするが、生まれ変わったこれらの魔法の特性は舞う刃桜全てに一つの生命力をもつ。

あらゆる生命が死に絶えないこの環境では、空間ごと消滅させない限り刃桜が消失することはない。


舞う刃桜に増えゆく分身。これ等で神々を落としにかかる。


「はぁぁあ!!」


ガギィィィィィィン!!!


ミョルニルと桜丸が衝突し花々がゆれると同時に分身二体で背後から首をきる。

が、トールの耐久力は伊達ではなく一センチも刃が通らずにとまる。


(でもそれでいい。そのまま分身でトールの首根っこ挟んで花畑まで落とせれば…!)


しかし簡単にトールは仁の分身を吹き飛ばし追撃をしてくる。


(ちっ!流石に無理か。これで落とせれば楽なんだけどなぁ。なら…!)


別の枝へ飛び乗り[常春のさざめき]の効果範囲内の枝を下へ移動させる。

[常春のさざめき]の範囲外に出た事で分身は神々の攻撃に容易くその身体を消滅させられる。

トールで三体、ロキで五体、テュールで一体。散っていった分身が仁の身体を強化する。


(後一体倒してくれれば完璧だったが時間がねぇ。残り1秒、まずはトールを殺す!!!)


数多のバフで俊敏を生かしトールの首に渾身の一撃を叩き込む。


風を切り進む桜丸。

狙いはガラ空きのトールの首。

叩き込むは今の仁が放てる究極に近い一撃。




その一撃で、トールを倒す事ができる。




筈だった。




パリィィィィン!!!!!



響きわかる破壊音。



仁の一撃はトールの首に達することはできずミョルニルに阻まれ。


仁の愛刀桜丸は


その刀身が半ばから砕け散った。



ここまでお読みいただきありがとうございます!!!

もし宜しければ良いねとか良いねやレビューをくださると嬉しいです!!!

そして次の話も読んでください!!!!!

次の次の話も読んでください!!!!!

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