表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅した世界の内側で  作者: めーや
17/35

手紙

「行ってきまーす」

「行ってきまーす!」

「今日から柊君に僕らがいない日の家事をしてもらう事にしたから少し落ち着かないかもしれないけど、対応よろしくね。じゃあ、行ってきます」

「んー」


眠い目でボーッと虚空を眺めながらトボトボとサンドイッチを口に運ぶ。

仁以外の3人はとうに朝食を終え町に繰り出した。何せこの町は雑貨店やカフェは勿論、図書館や劇場、コロシアムにアスレチック遊具場に花畑など多種多様様々な趣向の施設がある。

最初は何もせずにお金がもらえる環境に戸惑っていた真衣達だが、この都市に来て四日経った今ではそれなりに慣れ日常を謳歌している様だ。


(人来るんなら寝癖直して着替えないとか……いや、面倒だからこのままでいいや)


そう考え朝食と歯磨きだけ終わらせて寝巻きのままソファにダイブする。


「くぁぁぁ……」


本を開きながら欠伸をしたのと同時にコンコン、と扉がノックされる音がし、怠いと思いながらも仕方なく体を起こし玄関へ向かう。

扉を開けるとこの都市に来た時にこの都市の説明等を担当した女が立っていた。


(柊ってコイツの事だったのか)


「おはようございます。本日より皆様が啓文様が外出している日に限り家事等をさせて頂くことになりました。至らない点があるかもしれませんが、誠心誠意皆様に尽くさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願いいたします」


丁寧な挨拶をする柊に何の反応も示さずリビングへ行く仁に「失礼致します」と言い柊もついていく。

またソファに寝っ転がり本を開き眠い目でそれを読む仁に以前あったような威圧感がなく戸惑う柊だが、それはそれでやり易いと考え口を開く。


「家事をやらせて頂く前に、御三方から手紙を預かっておりますので、そちらをお渡しいたしますね」


(三人?桜丸の復元を頼んでおいた鍛冶屋と、後誰だ?まぁいいか)


「あんたが読んでくんね?」

「畏まりました。ではまず鍛冶屋[天上の焔]の[ヘファイストス]様からのお手紙です。

【桜丸の復元の件、結論から言うと無理だ。

理由は主に三つ。

一つ目。破壊された刀身はあれど完全に破壊されている為技能による復元が不可能である。

二つ目。素材がない為刀の製作が不可能。

三つ目。そもそも私が刀鍛冶を専門にしているわけではない為技術的に作り抱けるかどうかが不明。


以上のことから残念ながら私では復元はできん。

それに加えて、研究の難しい[植物魔法]と親和性のある装備の製作が私ではできない為、代用の武器すら作ることができない。

私としてもあの[ジン]の扱う武器を作るかとができないのは残念だが、力になれない私を許してほしい。】

と、書いてあります」


元々、桜丸を見せた時からおそらく無理だろうと言われていた為望み薄だと考えていた仁だが、確実に復元不可と言われると流石に気が落ちた。


「続きまして、12席次の[アルラルト]様からのお手紙です。

【暑さ寒さも彼岸までと申しますが、暑さもおさまり涼しくなってまいりました。皆様におかれましてはますますご隆昌のことと存じます。


さて_」

「ああ待って、その手紙堅苦しそうだから要件だけ掻い摘んで教えてくんない?」

「畏まりました。簡潔に申しますと、皆様がこの都市に来てくださった事への感謝な喜びを伝える旨と、出来るだけ長い期間この都市に滞在していただければ嬉しい、と言う旨が書いてあります」

「は?それだけ?」

「え、ええ」

「ゴミじゃん」


うっかり本音を漏らす仁に苦笑いの柊。


「そして最後の手紙なのですが、こちらは私は中身を読む事を禁じられていますので、どうか直接お読み頂きたく存じます」


「だる」と呟き本に栞を挟んで手紙を受け取る。


【この都市のスタッフのウサギの耳かネクタイは盗聴器の役割がある魔道具になっている。その為この手紙は絶対に声に出さずに読んでもらいたい。また、読み終わった後は燃やしてほしい。】


(へぇ、あの耳の魔力の正体がいまいちわかんなかったけど、そう言う機能があったのか)


ある程度魔力の具合で魔法の性質がわかる様になってきた仁だが、盗聴の魔法は初めて接した為その正体がわからずにいた。

その為有益な情報が一文目から書いてあった事で少しだけ手紙絵の興味が湧く。


【陰険な空間魔法使いの桃華から仁君へ


あの日から早三ヶ月が経ったが案の定元気のようで安心したよ。

君がこの都市に来たと聞いて茜ちゃんも君に会いたがっていたよ。


とまぁそんな前置きはどうでもよくて、君はこの都市をどう思っただろうか?

上層の者達は日々酒池肉林を貪り、下層の者達は毎日命の危険を冒しエネミーを狩るか、朝早くから夜遅くまで低賃金で必死に働くか、はたまた涙を流し自らの身体を売り日銭を稼いでいる。

そうでもしなければ奴隷に落とされ今までよりも辛い地獄の様な日々が待っている。

そんな都市を見て、君が憤りを覚えてくれていると私は嬉しい。


私は、いや私達はこの現状を変えようと[聖女ちゃん信仰隊]という一つのクランを結成した。

活動内容は

力の弱い者達の戦闘技術や生産技能獲得の支援、

外での狩をする際のサポート、

怪我した者への治癒、

孤児の保護、

厳しい環境下で家畜以下の扱いを受けている奴隷の買取等、主に弱者と称される者達への支援をしている。


だが、なまじ都市の規模が大きく、人口も100万人を悠に超えている為私達だけでは救える数に限りが出てきてしまう。

そこで、前々から戦力を募り都市へのクーデターを起こそうと画策し、レベルが100を超えた者を二百人と私を含めレベル150の者を四人集める事に成功した。

しかし、大抵の者は12席次の思想に飲まれてしまっている為私達の敵となる者は多く、このままクーデターを起こすぞと脅しをかけたところで弱者への待遇を良くするとは考えにくく、実際クーデターを起こしても成功するかどうか怪しい。


そこで、仁にお願いしたいことがある。

察しているだろうが私達の助けとなって欲しいのだ。

世界改変初日、仁を襲った私と茜ちゃんに良い印象を持っていないのは承知している。

だが頼む。勿論協力してくれた暁には出来る限り君の希望にそう報酬を出すと約束する。

だからどうかあの日の事は一時忘れて、私達を助けてください。


最後に返事の方法だが、一週間後に『ロミオとジュリエット』の劇が公演されるからそれの夜の部を見にきてほしい。

司祭用の特別席にて落合い、その後は私達の家に招待をするから私達の家でじっくりと話し合おう】


(…か。まぁ無理だな。俺にとってはどう転んでもどうでもいい事だし、コイツ等に加担する事であいつ等に危険が及ぶ可能性が高まるのは勘弁したいしな。つか、[アルラルト]とか言うやつの能力で都市が成り立ってるって聞いたけど、クーデター起こしたらそいつが死のうが死ななかろうがもう協力はしてもらえないだろ。どうやってこの都市を運営していくつもりなんだ?)


等々、思考を巡らせながらキッチンへ向かいガスコンロで手紙を焼く。


「おい都市運営の上層部、聞いてんだろ?よく俺相手に盗み聞きをしてくれたな?今回は許してやるが、次からコイツの服は魔道具じゃ無い物を着させろ。もし次舐めた真似をしてくれたら、南区を崩壊させてやるよ。まぁ、改装工事をしたいってんなら好きにしてもらっていいけどな」

「申し訳ございません!」

「アンタが謝る事じゃねぇだろ。つかとっととそれを外に置いてこい」

「畏まりました。直ちに置いて参ります」


(さて、啓文の魔道具のお陰であの魔道が使用者を必要とせずに機能する物だとしても家の中の音を盗み聞きされる事はない筈。危ない危ない。まったく油断も隙もないな)


「置いて参りました」

「ん、乙。んじゃあもう俺相手に敬語はいらんから、素で話してくれ」

「えっ、いえいえ、そうはいきませんよ、私共は_」

「いいから、堅苦しい話し方は好きじゃないんだよ。それとも上層部にお前さんが言うことを聞いてくれなかったって報告すりゃいいかい?」

「……わかった。本当にこんなんで良いんだよね?」

「ああ良いね。それじゃあ適当に家事を終わらせて暇になったら俺のとこに来てくれ、リビングで寛いでるから」

「畏まり…じゃなくて、了解」


そうして人目を気にせずソファにダイブする。

本の続きを読もうかと思った仁だが、何となくその気分にはなれず静かな空間に響く生活音に耳をたてて懐かしさに浸る。

食器を洗う音、掃除をする音、植物に水をあげる音、洗濯物を畳む音。

啓文のロッジじゃあ比代理の相手を何だかんだしていたし、世界改変前は殆ど自室に引きこもっていたのでこうして静かな空間で生活音を聞くのは高校生以来にもなる。

そんな懐かしい環境に、仁はいつのまにか意識を手放していた。


「あの、終わったんだけど…寝ちゃってるかな?」


寝息を立てる仁に起こして良いのか迷う柊。


(何か思ったより怖くない人っぽいし、起こしても大丈夫かな?でも起こした所で私に何の用があるんだろう?もしかして犯されるのかな?……気持ちよさそうに寝てるところ起こすのはまずいと思って起こすの辞めたって言えば許してくれるかな?…多分、大丈夫だよね)


結局起こさない事にして暇潰しに本を読もうとダイニングテーブルへ向かおうとする柊だが、タイミング良く仁の欠伸が聞こえた。


「くぁぁぁあ………んぁ寝てたのか。柊っつたっけ?家事は終わった?」

「え、ええ。すいません。気持ちよさそうに寝ていたので起こすのは良くないかと思いまして…」

「別にそれは良いけど、また敬語出てんぞ」

「ご、ごめん」

「んじゃ暇になったんならここ座って」


目の前の床にクッションを敷いて指を刺す。


「うん。あのさ、これから何するの?」

「お前さんの長い髪の毛を貸してほしいんだよね」

「髪の毛?」

「あぁそうさ。ほら、俺の連れに女の子が二人いただろう?あいつ等も普通ならオシャレやらを人間社会で学んでいく筈だったけど旅をしているとそれも難しくなってくる。年頃の娘なのにおめかしのやり方が分からないのは可哀想だろうと思ってな。人殺し以外脳の無いポンコツな俺だけど、せめてこの位は勉強して助けになってやりたいと思ってな」


仁の考えからは初めて会った時の高圧的な雰囲気が微塵も感じられず内心物凄く驚く柊。

嘘かとも思ったがそんな嘘をつく必要が分からずますます混乱する。


「だからさ、アンタにもメイクのやり方とか教わりたいんよね」

「………。」

「あれ、ダメ?」

「え!?うぅうん!全然、そんな事ないよ。ただ、その、びっくりしちゃって」

「ははは。まぁ、驚くわな。ああ勿論、俺の素については他言無用だぞ、気恥ずかしいから真衣達にもな。言ったらお前が親密にしている人間を調べ上げてそいつ等の肉をお前に食わせてやるからな」

「こわ!考えが怖すぎるでしょ」

「冗談じゃなくてマジでやるから気をつけろよ。後頭を動かすな、やりにきぃぞ」

「おっけーおっけー、秘密にしとく」


体が改変され以前より器用になった為思っていたよりも簡単にハーフアップを作れた事に喜びつつ、後ろ髪が見えるように鏡を持って感想を聞く。


「うーん。大体できてるけど、こことここをもう少し綺麗にできたら良いかも」

「成程」


髪を元に戻してまた一から先程よりも丁寧にハーフアップを作っていく。


「そういや、お前さんいつもはどんな仕事してんだ?」

「え?うーん、仁君達が来る前は新規の人の受付をしてたんだけど、まぁこんな世界でここまで辿り着ける人はあんまり居ないし大体ずっと書類仕事してたかな?」

「へぇ…」

「あー後、仕事の息抜きにスタッフを呼びつけて性欲発散する上司がいたからたまにそっちもしてたよ」

「うへぇ…最悪だなそれ」

「もう!ほんっとに最悪だよ!あのエロジジィ!…って、ごめんね大声出して」

「ははは!別に構わんよ、あの魔道具がある以上四六時中監視されてた様なもんなんだろ?こう言う時くらい愚痴らんとやってられんだろ」

「…ありがと、優しいね君は」

「優しくなんかねぇよ。さっきも言った通り俺達に敵対する奴には一切慈悲を持たず徹底的にやるからな」

「そっか。そう言えば、仁君は他の三人と血縁関係無いよね?」

「そうね」

「あの人達とは世界がこうなる前からの知り合いなのかな?」

「いや?別にそう言うわけじゃ無いぞ。ただ成り行きで一緒にいるだけ。レベルも高いし足手纏いにならんのなら良いかなって思ってな」

「そっか。あの女の子とは恋人関係とかじゃ無いの?」

「いやぁ?アイツまだ高校生だぞ?流石にヤバイだろ」

「そうなんだ。でも法律なんて無くなった様な物だし未成年相手でも良いんじゃ無い?」

「いやぁ…ヤバイだろ」

「もしかして結構真面目?」

「まさか、こちとらサボり過ぎて大学留年してんだぞ」

「ははは、良いなぁ…大学生に戻りたいよ」

「それは俺も思う」

「えっ?仁君って強いんだしこっちの世界の方が暮らしやすく無い?」

「なわけ、ネット無いと流石に暇だし俺は前の生活に不満なかったから戻ってくれた方がいい」

「そうなんだ。意外」

「そうかい。んでさっきっから鏡もって感想待ってんだけどそろそろなんか言ってくんね?」

「えっ」


過去に思いを馳せて会話をしていた為、髪をいじられていない事に気がつかず「ごめん!」と言って直ぐに出来栄えを吟味する。


「うん、完璧。手先器用だね。私は髪の毛弄るの苦手だから少し羨ましいかも」

「そうか?メイクは良くできてるし、髪型なんざストレートでも良いじゃん」

「そんな事ないよ。私より綺麗な人なんてごまんと居るし…」

「ははは。随分自信ねぇのな。まぁ俺の感性なんざ当てにならんし向上心があるのは良い事か」


また髪を崩して違う髪型を作っていく。

柊の愚痴を聞きつつ、それとなく都市運営スタッフしか知りえない様な情報を聞き出しながら色々な髪型に挑戦し、たまに息抜きにネイルの付け方を教えてもらったり、昼には柊にご飯を作ってもらい一緒に食べたり、午後はまた髪型の勉強に付き合ってもらった。


「んあ。柊、あいつ等帰ってきたみたいだから今日はここまでで良いよ。付き合ってくれてサンキューな」

「うぅうん。こっちこそ、愚痴とか聞いてくれてありがと。今日は凄く楽しかったよ」

「そ、まぁそうなら良かった。あぁそうだ、もし上司にちょっかいかけられそうになったら俺の名前だして断って良いぞ」

「え!?いいの!?」

「あぁ、オタクは独占欲が強いらしいって言っときゃ納得するだろ。まぁ、俺がこの都市から出てくまでしか使えん言い訳だけどな」

「あ……そ、そうだよね。ずっとここに居るわけないよね」

「まぁ、ここには刀を直してもらうために来ただけだしな。もうちょい滞在するだろうけど…長くて一年程度かなぁ」


仁の言葉に肩を落とす柊だが、肩を落とした理由が『仁の権力を使えなくなる』為なんじゃないかと考えると自分に少し嫌気が刺した。


「じゃあ、またね」

「ああ、またな」


それだけ言って柊は帰って行った。

誰も居なくなった家で伸びをしてまたソファにダイブする。


「良い感じの駒が手に入ったなぁ。ペラペラ割となんでも喋ってくれたし、何か気になることがあったらアイツ経由で情報は揃えられそうだ」


(ただまぁ、ああやってお互い素を見せて接すると何だが情が湧くんだよなぁ…最近は殺人衝動すらほとんど無くなってきたし)


「あー失敗した!もうちょっと人格改変受け入れとくんだった。この世界で生きるにゃぁいらん感情が多すぎる!」


そんな事を一人でぶつくさ言っていると、ほど無くして真衣達が帰ってきた。

今日街であった出来事なんかを楽しそうに話す真衣と比代理に耳を傾けつつ、(柊には前の方が良いなんて言ったけど、こんな賑やかな空間にも慣れてそれなりに楽しんでいるし、やっぱりこのままでも良いかな)何て柄にもない事を考えてまた、何事もなく今日が終わる。


返事の日まで後一週間あるが、果たして仁の考えが変わる事はあるのだろうか。


最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!!!!!

もし宜しければ良いねやご感想等よろしくお願いいたします!!!

次の話も是非読んでください!!!!!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ