選択
「12時を過ぎているしそろそろお昼ご飯にしないかい?」
「んぁ?そうだな。そうするか」
ロッジを発って数時間、一行は現在福島県の郡山市を進んでいる。
ドスンッ!!
啓文の提案をうけ仁はその背に背負う自らの身体よりも大きなバッグを地面に下ろす。
そのバッグには比代理が出来るだけ快適な旅を送れるように様々なキャンプ用に加え、みんなが使う日用品やそれぞれの服等大量の荷物を仁が持っているからである。
しかし、何らかの原因でバラバラになる可能性を危惧して、最低限の荷物を比代理以外も所持しており、比代理は大抵の場合啓文が抱き抱えて移動している。
因みに、プレイヤーインベントリにはゲーム時代のアイテムしか入れられないようなので、仁が背負う大量の荷物を楽に運ぶ事はできない。
「今凄い落としだけど重く無いの?」
「重く無いぞ。近接戦闘は得意じゃ無いけど一応刀使ってプレイしてたからな。筋力も隠しパラメーターのスタミナもそれなりにある」
「そっか。まぁ仁が大丈夫って言うんなら大丈夫なんだろうけど」
「それじゃあ真衣君。僕と仁君はご飯の用意をするから、比代理を頼んだよ」
「了解です」
バッグ上部のチャックと下部のチャックからバーベキューコンロとクーラーボックスを取り出す。啓文によって特注で作られたこのバッグは耐久性もさることながら、大小様々な大量収納で構成されているため簡単に取りたい荷物を取り出すことができる優れものとなっている。
「何作る気なんだ?」
「特性ハンバーガーさ。因みに、野菜が持って明日までしか使えないから夜ご飯はカレーにするつもりだよ」
「カレーですか!?」「カレー!?」
「ああ」
「「やったー!」」
久しぶりのカレーにテンションが上がった二人。
ここが山の中のキャンプ場などであればキャンプやバーベキューにきた家族そのものなのだが、いかんせんここは化け物の闊歩する廃墟と化した日本の町、もとい地獄である。他のものが見れば自殺志願者にしか見えないだろう。
肉はつなぎを使わずに焼きそれをトマトやレタスや玉ねぎといった野菜と、皆それぞれが選んだ特性のソースと一緒にバンズに挟む。
完成したハンバーガーを仁が植物魔法で作り出した木のテーブルに並べてそれを囲む様にみんなで座る。
「「「「頂きます」」」」
仁が選んだソースは辛味のあるもので、肉の旨味とマッチし爆発的な味わいがする。
(美味い。正直チェーン店のハンバーガーよりうめぇ。やっぱ一家に一台啓文だな)
「仁」
一つ目のハンバーガーを平らげ、ソースの違う二つ目に手を伸ばした時、真衣から少し低めの声がかかる。
一瞬、二つ目を食べるのを咎められるのかとも思ったが、元々自分のものだし咎められる筋合いがない。であれば何か今伝えなければならないことができたと言う事。
「誰か来たか?」
「うん、少し前から双眼鏡でこっちの事覗いてる。会話の内容から敵対的な奴等であることは間違いないよ」
「へぇ…本当に耳いいね」
「いや、流石に啓文さんがくれた魔道具無しに会話までは聞き取れないけどね」
「飯食ってる時に襲ってこないんだったらもう襲ってこないんじゃない?」
「いや、夜までストーキングして寝込みを襲うつもりらしいよ」
「根気強い奴らだね。暇なのかな?」
「さぁ?で、どうする?」
(来たところを返り討ちにすんのもこっちから出向くのも良いけど……)
「そいつら、俺の魔法を突破できるくらいに強いと思う?」
「分かんない。腕に自信はあるみたいだけどね」
「どーすっかなぁ…」
「お姉ちゃん達何の話ししてるの?」
「え、それは…」
無邪気にされる質問に言葉に詰まる真衣。
正直に言うか言葉を濁すか。いずれはこんな場面に出くわすと思っていたがその時が思いの外早かったためどちらが正解なのか結論が出そうに無い。
「俺達を襲おうとしてる人間がいるんだよ」
「襲う?」
「そう。俺達を殺して荷物を奪い去るんだ。比代理、お前さんならこういう時どうしたい?」
「え、仁?」
「いいから。好きに答えな、考えることが一番重要だからな」
「うんとね……逃げる?」
「そうか。いいね、俺たちからすれば平和的で良い判断だ。相手の力も未知数だし無難な判断でとても良い」
「正解ってこと?」
「いや、この問題に正解はないんだ。強いて言うなら何か決断をしたら正解だから、まぁ、正解って言っても良いな」
「やった」
確かにゲーム時代であればその選択が最も賢い者だったろう。しかしそれをするには一つ問題に目を瞑らなくてはならなくなる。
「比代理。もし良ければどうしてそう考えたのか、教えてくれるかい?」
「えっと、戦うのは怖いから」
「うん、それ自体は何の間違いもないよ。だけどこうも考えられないかな?僕達が悪い人達をやっつけないと他の人が被害をうけるって」
「……あ、そっか。でも…」
「そうだね。戦えば僕達が怪我をするかもしれない。それを踏まえて比代理、もう一度答えてほしい。比代理はどうしたい?」
啓文の言葉に俯き一生懸命に考える比代理。
他社の安全か自分達の安全。それを天秤にかけるには少々幼いかもしれないがこの世界で暮らしていく以上考え続けなければならない問題なため、目を逸らさずしっかりと向き合わさせる。
「やっぱり逃げたい」
「どうして?」
「パパ達が死んじゃうのは嫌だから」
「そっか、じゃあ今回は逃げる事にしようか。偉いよ比代理。良く考えられたね」
「間違ってる?」
「仁君がさっきも言った様に正解や間違いは無いんだ。自分で決めた事ならそれが正解、比代理にはこれからも沢山のことを決断してほしい。それが比代理の成長につながると思うから」
「うん。わかった」
最後に比代理の頭を撫で啓文は片付けを始める。
仁は比代理の判断で構わないと思いあまり気にしていない様だが、真衣はそうではないらしく昼食の片付けの途中比代理に聞かれない様に仁へ声をかける。
「仁…」
「ん?」
「こっち覗き見してる奴等、相当なクズ達だよ。正直私はアイツらを野放しにしておきたくない」
食事の間ずっと賊の会話を聞いていた真衣はどうしても賊を始末しておきたいらしい。
「そうかぁ」
「そうかって…アイツら人殺しだけじゃ無くて人を痛めつけたり女の人に酷い事したりして_」
「わかってるよ。安心しろ、こっちで対処しておく」
「…ごめん、ありがと」
「気にすんな。ソイツ等のいる方角は?」
「あっちの大きめの建物の中。数は四で全員男だよ」
「あー。おけ」
それだけ言って地中に根を這わせる。
敵の実力は未知数だが、こんな人気のない場所で燻っている様な者達が実力者にも思えずぼさっと適当に魔法を行使する。
標的がいる建物の下まで近づいた根は地上へ這い出てきて蔦の様に建物に絡みつく。
外壁だけでは無くその内部も人の体程の太さの根が侵食して行き、わずかの間の喧騒の後、賊の声は聞こえなくなった。
「どう?」
「完璧」
「流石俺。満足したならお前さんも主発の用意をしな」
「うん。ほんとに、ありがとね?」
「おう。賊どもの声を聞いたお前さんからすりゃ許せねぇ奴等だったんだろ?気にすんな」
そう言って真衣の頭に手を乗せる仁。
その後一つの憂いもなくその場を後にした一行は、それから人に会う事もなく東京へ近づいていった。
この日の夜に仁が自らの魔法で用意したキャンプファイアは皆に好評で、特に初めて経験した比代理と真衣は声を上げて喜んだ。
…そんな日よりさらに三日が経ち、一行は遂に東京へとたどり着いた。
しかしそこで仁の知る都市は見えず。眼前に広がるのは途方もない程長く広がる高さ数百メートルはあるであろう巨大な壁だけであった。
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