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破滅した世界の内側で  作者: めーや
12/35

発症

仁と真衣が啓文邸に居候し始め二週間ほどが経った。

何も知らない者がこの日常を除けば、夏休みに別荘に遊びに来ている親子にしか見えないだろう。

しかし、啓文の機械人形に守られていないエリアから出れば大量の化物が闊歩する地獄となっているこの地球において、そんな幸せな日々もそう長くは続かなかった。


「啓文さーん!」

「おはよう。どうしたんだい?」

「おはようございます。あの、比代理ちゃんが熱を出しちゃったみたいで」


その言葉と赤みがかった比代理の顔を見て少し顔をこわばらせる。


「ごめんなさい。連日はしゃぎ過ぎたから、ですよね」

「いや、そんな事はないよ。もともと比代理は病気に弱くてね。むしろ最近は元気な方だったんだ。ありがとう、真衣君のおかげだよ」

「そ、そんな。私は…あの、比代理ちゃん、すぐ治りますよね?」

「ああ、きっと直ぐ良くなるよ。とりあえず今ある薬を飲ませて、それでもダメそうなら一度僕の研究所に運ぼうと思うよ」

「研究所、ですか?」

「ああ。普段はヴァルキリーの制作をしたりしているんだけど、あっちには病院から拝借した器具が揃っているからね」

「成程」

「残念だけど、真衣君達に移すわけにはいかないしね。暫くは_」

「大丈夫です!病気とかなら私も耐性あるんで!私もお世話します!」

「そ、そうかい?そう言ってくれるのは嬉しいけど、少しでも異常を感じたら直ぐに言うんだよ?」

「はい!じゃあ私は比代理ちゃんをベッドまで連れてきますので」

「僕はお粥と真衣君のご飯の用意だね」

「お願いします」

「ああ、任せておくれ」


彼女等を見送った啓文の顔は一層強張る。


「もう、もうなのかい…?ごめんよ比代理。パパ、間に合わなかったよ……」


口惜しく歪んだその表情から捻り出す様に出た言葉。誰に聞こえる事もなく虚空に消えた呟きを嘲笑うかの様に比代理の病状は悪化していく。




「ひ、啓文さん…!」


比代理の発熱から翌日。真衣の献身的な看護も虚しく、比代理は驚く程発熱していた。


「あつい…薬も効かなかったか……。仕方が無い。研究所へ運ぶよ」

「あの!比代理ちゃんは何の病気なんですか?毎日朝晩薬を飲んでいるのは知っていましたし、聞かない方が良いかなって思って何も言いませんでしたけど、比代理ちゃんは何の病気なんですか!?」


答えるべきか否か。悩み悩み言葉が出ない啓文。

そんな彼に助け舟を出す者がいた。


「おい真衣。そんなのは後でいいだろ。啓文さんも、さっさとその研究所に連れてきな」

「そうかもしれないけど……」

「ごめんね真衣君。後で必ず話すから…!」


真剣な啓文の顔に冷静さを少し取り戻す真衣。


「ごめんなさい。比代理ちゃんを、お願いします」



「私も行きたい」と言う言葉も押し込み、啓文と比代理を見送る。


「じゃあ、家の事は頼んだよ。二人とも」

「ああ、分かったからさっさと行け」

「………。」


空へ飛び上がるヴァルキリーを見上げて無力感が真衣を襲う。

自分は何故、人を殺す技術しか持っていないのだろう。そんな後悔が真衣の脳を埋め尽くす。


「何しょげていやがる。おめぇがそんなんだとあいつ等の運気もさがんぞ」

「……だって…」


父親が死んだと泣いていたあの日から、漸く心から笑う事ができた真衣がまた暗くなった事に少しイラつきを感じる仁。

勿論そのイラつきの先はマイではなく、暇つぶしとばかりに世界を混沌の渦に飲み込んだ無謀の神へ向けたものだが。


「別に治んねぇって決まったわけじゃねぇじゃねぇか。ガキだし免疫があんまり強くねぇだけだろ?ほら、料理でも練習して元気になったアイツに食わせてやろうぜ」

「……頭」

「ん?」

「頭撫でて」

「しょうがねぇなぁ…」


溜息混じりに真衣の頭を撫でる仁。

二ヶ月前の自分は近い将来こんな事をしている何て夢にも見ていなかっただろう。


「下手くそ」

「悪かったな」

「でも、少し元気出た」

「…そうか。んじゃあ…まて、薬を飲んでいたのは比代理だけか?」

「え?何急に」

「いや、少しな。で、どうなん?」

「啓文さんも比代理ちゃんとおんなじ薬飲んでたよ」

「薬の名前は?」

「知らないよそこまでは」

「そうか」

「何か気になることでもあるの?」

「いや、病気は専門外だからな。全くわからん」

「だよねぇ…」


(全くわからん。分からんが、親子揃って決まった時間に薬の服用となると、遺伝する病気か?でも遺伝する病気なんざ沢山あるしなぁ)




その晩。久しぶりに真衣ととこに着いた仁は眠い頭をフル回転させる。


(病気の正体は全く分らねぇ。が、あいつが能動的にラグナロクを引き起こしたとは正直考えずらい。なら恐らく真衣と同様衝動的に発現させた人形共を御しきれなかったと推測できる。

これまではいい。

問題は何故あいつが扱いきれない人形をだしたのかだ。何も考えていなかったのならそれまでだが、真衣の様に激しい怒りといった感情から起きた事態であった場合、普段温厚的な奴が激怒する様な事…)


ふと、世界改変初日、一度力を使うまで力の使い方を知らなかったことを思い出す。

そればかりか、恐らく目の前で父を食われた真衣や妹の声に気付けなかった悠二も力の使い方を最初から理解していなかった事を考えつく。

であれば、それは啓文も同じだろう。


(完全な憶測。最早妄想の域だろう。だが無理やりに仮説を立てるのなら…。

力を使えることを知らない啓文は使えない奴等同様避難所に避難した、でもあのエネミーの数だ、どの避難所も破壊され恐らく発電所に行き着いたのだろう。

病気持ちが避難所で困ることといえば医者や薬の問題だ。この世界じゃ専門知識を持った医療従事者や薬は重宝される。

もし医者が全員死んでいたのなら…いや、そうでなくとも力を使う事のできる者に独占されていたのなら。限られた薬の中で優先的にもらう事ができるのはプレイヤーか?

薬を貰えず激怒した、とか?)


そこまで考え自分の考えに疑問が生まれる。


(いやまて、仮に鈍臭そうなアイツが力も無しにエネミーから逃げ切って発電所に着き、人形を暴走させてここまで逃げてきたとして、アイツなら薬を複製すればいいんじゃないか?それとも必要な薬がなかったのか?いや、それなら毎日服用していた薬は何なんだ?

となると材料がなかった、もしくは分からなかった…いや、もしかして医師って基本技能の範囲じゃ無いのか?

それでも、避難する最中病気が発症した時の特効薬を持ち出さないのも、特効薬を使い切ったのもあまり考えられねぇな)


「比代理ちゃん。直ぐ病気になるからあんまり外に出れなくて、友達もいなかったんだって。だから…今すごく楽しいって……グスッ……あんなにいい子なのに……ねぇ?…本当に大丈夫だよね…?」


涙ぐんで抱きついてくる真衣の頭を撫でながらどうにか宥めようと努める。


「ああ。不安になる気持ちは分かるが安心して寝ろ。人間そんなに脆くねぇよ」

「うん……そう、だよね………ねぇ、仁なら…どうにかならない…?」

「病気は専門外だ。色々考えてみるが期待はするなよ」

「うん。ありがと……グスッ…」


(外に出られない…?なら最近はどうして外に出られていたんだ?力を使える様になったからか?ならどうして病気が発症した?まて、何故アイツは発熱程度であんなに焦っていたんだ?毎日の薬の服用は何だったんだ?外出が出来なくなるって、一体どんな病気だ?最近の薬を服用してもダメなのか?)


先程までの考えが頭から消え、また病気の正体を考え始める。しかし、今まで碌に勉強してこなかった仁では中々答えに辿りたけない。


(いや待て、何でプレイヤーの啓文まで薬を飲んでいるんだ?アイツのことだ、諸々の耐性を所持してるはず。だがもしその耐性すらもろともしないものがあれば…なにそれ本当に病気なの?

そもそも…まて、もしかして全部フェイクなのか?あの優しい父親像も、病気の事も薬の服用の事も比代理が発症した熱の事もあの心配した顔も…!

わからない。まだ決まったわけじゃ無い。だが……アイツ、一体何考えてんだ?)


「真衣。どうせ寝れねぇだろ」

「うん。そうだけど…」

「いくぞ」

「えっでも私達が行ったら…」

「別に構わんだろ。行かないのか?」

「いく!」

「んじゃあ着替えて出発だ」






研究所の場所は木々を通じて以前探し当てていた為目的地ははっきりしている。

強化された体で森を疾走する二人だが。


「ごめんなさい啓文さん!」


研究所に近づく者を感知して襲ってくるヴァルキリーを魔剣や魔法で蹴散らし先へ進んで行く。


「この茂みを抜ければ研究じ_ちっ!!」


降り注ぐ雷撃の数々を魔法で防ぐ。

あと少し、もう研究所まで後数十メートルのところまで近づいた。しかしその残り少しが一体の神の存在によって遠く感じられる。


「トール…!?そっか、啓文さんだもんね」

「俺がやる。お前は先に行け、ただ危なくなったら戻ってこいよ」

「わかった!」


真衣に雷撃を落とそうとするトールまで一瞬で飛び上がり強化された体で思いっきり蹴り落とす。

土煙でトールの状態は見れないが、腐ってもトールだ。恐らく無傷だろう。


「さて。桜丸はなし、通常の魔法じゃお前さんにダメージを碌に与えられんし時間がかかる、ユグドラシルは研究所まで吹き飛ばす恐れがある。肉弾戦は好きじゃ無いが…仕方が無いか。[存在解放、春眠の誘い][存在昇華、原初の大樹]…さて、待たせたなぁ?んじゃあ、やろうか!」


植物と化した身体でトールへ接近する。

上へ逃げようとするトールの足を掴み、地面へ叩き落とす。

雷撃を繰り出し引き剥がそうとするトールだが今の仁にその足掻きは意味をなさず、それを悟ったトールは体中に雷を纏わせ身体能力を強化する。

心臓がある胸部へ拳を連打する仁の顔面へ左フックを飛ばし引き剥がす。


「いてぇじゃねぇの。受け止めた腕がちっと痺れやがるぜぇ?」


「でも」と言葉を続けつつ再び接近する。


「前より弱いんじゃねぇの!?」


仁の拳をミョルニルで防ごうとするがいつの間にか後ろに回り込んだ仁がトールの脳天に踵落としをいれる。


「真衣から聞いたぜ?お前等一応人間の脳の部分に信号伝達パーツがあるんだってなぁ?どうした?頭叩かれて脳震盪でも起こしたかぁ!?ご自慢の雷の鎧がぁぁ_」


喋りつつもトールの足を払い耐性を崩したトールに向けてダブルスレッジハンマーを繰り出し叩き落とす。


「乱れてんじゃねぇかあ!」


大声と共に倒れたトールの心臓へ鋭く変形させた素手を突き刺す。


「じゃあなトール!!の、どうせ試作品だろ」


握ったコアを壊すことはなく、トールの体へ侵入した手から根を這わせ内側からその体を破壊する。

しかし幾ら破壊されようがコアがある以上、欠損箇所を雷で補い動き続けようとする。


「しつけぇなぁ…っらよお!!!」


幾つもの幹によって肥大化した仁の手は、あのトールのコアを握りつぶした。


「はぁぁ……。意外と何とかなったか…。ははは、こりゃあ真衣には見せられねぇな」


内側から侵入した根によって排出されたトールの目玉が、月明かりを反射し異形と化した仁を映し出す。

その様子に暖かな人肌は感じられず、仁を構成するものは今や、何重にも編まれた木の幹と唯一残った目玉だけだった。


「さて」


このままでは真衣の後を追いにくいので[春眠の誘い]を能力で最大魔力量の一割を犠牲に[春眠の誘い]発動時の状態にリセットする。


「真衣はアイツ等の元まで辿り着けたかねぇ?…ま、とりあえず後を追うか」


最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!!!

もし宜しければいいねやレビューの方よろしくお願いします!!!

何より次の話もお読みいただければ幸いです!!!!!!!

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