あなたの使命は何ですか?
僕は寒さを感じないはずだが、全身に震えが生まれた。これが身震いというものか。身震い──そんな言葉はどこで覚えたのだろう。こんな疑問を抱くのも、いつぶりだろうか。
なんだか、いつもと違う。いつもと違うときは、決まって「使命の樹」を見上げた。
「ABスター、あんたも感じた?」
エシャレルがヘッドフォンを外し、真っ赤な瞳を僕へと向けた。
そのとき、僕の知っている全ての「美しい」を詰め込んだ、僕の知らない音色があたりを潤した。
「す、すげー旋律だな。おっかない」
「僕にはとても美しいものに聞こえるよ」
僕が美しいと感じたものに対し、エシャレルがあんまりな反応をしたので、残念に思った。エシャレルが使命としているものは音楽であるから、なおさらだ。
ただ、それは美しいながらどこか暗い成分を含んでいた。
そうして目の前に現れたのが、君なんだ──。
身体中が重くて、痛くて、苦しかったような気がするのに、ふわふわとしたものに包まれているうち、そんな感覚は気のせいだったのではないかと思えてきた。
ふわふわ、からいきなり落とされたが、落とされた先もふわふわとしていた。
「ここは……」
「やあ。君は自分の名前、自分の使命が何なのか、わかっているかい?」
「ABスター、だからいきなりやってきた子にその質問、やめなよ。でもあんなメロディーは聞いたことがないよ。あんた、あたしと同じ音楽関係の使命を背負っているんじゃない?」
赤い瞳の少女は、首にはヘッドフォン、左手には何か細長い楽器を持っていた。リコーダーよりは長く、色は黒く、複雑な造形をした、私の知らない楽器である。
もう一人。背の高い銀髪の少年はこれといった装飾品を身に着けている訳ではなかったが、存在そのものが奇異であった。気高く、奇妙で、不思議な感じがした。
「じゃあ名前は『ドレミ』とか?」
「そんなの単調すぎるよ。せめて『レミファ』とか」
「じゃあ、『ミファソ』?」
「それでいいです! ──それで、いいです」
「本人が言うなら決まりだね。よろしく、ミファ」
少女は無垢な笑みを浮かべて私の新しい名を呼んだ。私の関与できないところで話が進むのが嫌で、つい口を挟んでしまった。
二人の会話に水を差してしまっただろうか。思えば私はいつも空気が読めず、会話を終わらせてしまうところがあった。そうだ、私は──
「私の使命」
「ん? 思い出したかい?」
「私の使命は、終わらせること」