一人映画派の僕が幼馴染と一緒に映画の試写会に行く、ただそれだけのお話の筈なのに
「太一! これを見よ」
僕の幼馴染の佳香が、仰々しく何かを掲げていた。
「まさか! それは、あっあのアニメ映画の試写会のチケットか!」
人気のTVアニメの続編が劇場版になって来月から上映されるのだ。それを他の人たちよりも先に見られるこのチケットは、スマホアプリのダウンロード特典として申し込む事が出来るものだった。
「そうなのよ。応募したらなんと当たったの!」
「凄いな。一般試写会は定員300名の所、応募総数30万を超えていた筈だ」
その確率0.1%以下!
「なんとペアなのです」
訂正、その確率0.05%以下!
「おお、神よ! 貴方は何故、各クール一話は全アニメチェックしているし、映画館にも月に2・3回かよっているアニメ&映画好きの僕ではなく、大して興味も持っていない佳香に微笑んだのですかぁ!」
「ふふん、無欲の勝利なのよ」
平均より発育の良くない胸を張って腰に手を当てている幼馴染の足元に秒で土下座した。
「佳香、頼む。一生のお願いだ! 一枚どうか僕に譲ってくれ」
「えー、折角だから友達と一緒に行きたいもん」
涙目で見上げる僕に容赦のない言葉が降り注ぐ。
「そこをなんとか」
「太一は映画は一人派じゃん」
つまり佳香は一人で行きたくないという事だろう。
「じゃあ、一緒に行こう。行くのは友達じゃなくても構わないのだろ。いや幼馴染は寧ろ友達の上位互換ではないか」
何故か、友達という括りにされるのは嫌だった。
「それって、でー……何でもない。仕方ないから一緒に行く役に任命してあげる」
僕はガッツポーズで喜びに浸っていた。
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試写会当日。僕は先導して座席番号を確認しながら進む。
「こことここだな」
そのまま座ると佳香の左側に座る事になってしまい、おさまりの悪い感じだったが後ろに人が閊えていたので諦めてそのまま座った。
そんな事も映画が始まれば些細な事だった。あっという間に僕は映画に没頭していったのだった。
クライマックスに向けて盛り上がりを見せ始めた時に、僕はいつも通りポップコーンに手を伸ばした。
だが今日はいつも通りでは無かった。試写会という事でポップコーンは買っていないのだ。僕の右手が掴んだのは、ひじ掛けに乗っていた佳香の左手だった。
慌てて放そうとした手は、佳香によって握り返された。
僕の鼓動が早くなる。右手から感じる熱が、佳香の気持ちそのものに感じられて、初めて彼女を幼馴染ではなく一人の女性として意識したのだった。