魔力回復はおにぎりで③
「クソ。感触はあると言うのに」
着地し、剣を持つ上腕を擦る。魔獣を打つ腕がすでにしびれて感覚がなくなりつつあった。魔獣の身体の固さをおいておくとして、身体強化の魔術を行使しているのだがその分身体にも反動の負荷がかかっていた。
今だ中空で地上をにらむ魔獣。ところが、フィフェティはその顔が微妙に歪むのを見た。訝しくそれを見上げていたのだが、
「フィフェティ!」
姫崎見が叫んだ。
「ちょっと来い!」
しかも指示ではなく命令を加えて。しかし、フィフェティは従順だった。なぜなら、魔力を回復させなければならなかった。
「なんだ? 要件は手短に」
顎を気にして動かしているテバサ・キの横で姫崎見はしてやったりな顔をしている。
「これを奴の口の放り投げてくれ」
「一体……」
姫崎見が掲げる手から受け渡される。
「焼きおにぎりだ。俺の推測だがたぶん効果はある。こいつみたいに」
立てた親指で並ぶ元魔獣を指す。
「焼きオニギリ……」
どうあっても片言になることは今はかまうべき点ではない。
「頼むぞ、フィフェ、ティ?」
解決の糸口はもう手ぐすねを引いていると言うのに、この段になって姫崎見が怪訝になってしまうのは、
「ケン。この焼きオニギリは一つしかないのか?」
女騎士の口角から垂れだす波を見たからである。もはや「待て」とおあずけ状態のワンコと大差ない。
「……ないことはないけど。お前食うの? 落ちてたのだぞ」
「汚れは落としたのだろ、先ほども聞いたではないか」
すでに三秒をはるかに経過しているのだが、
「それに焼いているとするならば大丈夫だろ、な?」
加熱殺菌という点なら確かに間違いはないだろうが、この食いしん坊にはさすがに
「食いたいなら制止はしないが」
念のために作っておいたもう一つの焼きおにぎりを渡す。
「うん、やはり香ばしい。それになんだ。甘くてしょっぱくて、それでいて濃厚でかといってくどくはなくて。オニギリの可能性がこれほど」
一口胃に落してから朗々と語ったかと思えば、がむしゃらに食って
「よし! 御覚悟よろしくて!」
味噌をつけて焼いたおにぎりを手に、フィフェティはなんだかキラキラとしたオーラにまとわれて血気盛んに魔獣へ飛びかかって行った。
「……なんか、フィフェティ肌艶がピッカピカになってなかったか?」
「それに、声も弾んで。……騎士というか……」
おにぎりを食して魔力の回復。それが発端となり種々のおにぎりの効果があった。現に魔獣が獣人にもなった。ところがこんな変化はなかった。魔法少女フィフェティかと誤解するくらいに上品になるなんて。逆に言えばフィフェティを上品にさせてしまうほどのおにぎりということになる。
その焼きおにぎりを食った魔獣は、白い一匹の猫になった。




