兵站にて①
陣というか、運動会の本部席みたいなテントで、姫崎見は給仕係となっていた。周りにはそれこそテントが設けられ医療スタッフもいた。先陣二人の治療待ちではない。兵士らもいるのだ。魔獣がフィフェティとテバサ・キをかいくぐって攻めて来た時の防御として幾重もの柵やら盾やらを構えなければならなかったのだ。そういう兵士たちの滋養のためにも調理係が要る。そこへ姫崎見も加わったのである。よって、姫崎見はキーパーソンなはずなのに、戦況を目撃できないというじれったい位置にいることになる。がしかし、姫崎見はごねることはなかった。フィフェティたちの邪魔になっては本末転倒だということが分っていたからである。
「まあ、戻って来た時に美味いもん食わせたいからな」
炊き立てのご飯を木べらで切りながら独り言をした。
「きっと大丈夫です。ケン殿がいらっしゃったのですから」
なぜか甲冑に身を固めた第二王女がいる。陣頭指揮を買って出たとは聞いていたが、ここにいるとは姫崎見にも驚きだ。
「時にケン殿」
第二王女は微動だにせず、顔だけ少し動かしてためらいがちに、
「朝食から時間が経ったのだが、少しだけ気持ちばかりなのだが小腹が満たされてないような感じがしなくもないので、オニギリをいただけないだろうか」
早口に言った。勇猛果敢と言っても、姫崎見から見れば妹よりも一つばかり年下である。顔が柔らかくなった。
「かしこまりました。具は何がお好みで?」
作って恭しく頭を垂れてみた。第二王女は人目を憚らずに
「ツナマヨがいい!」
にんまりとした。おにぎりの発音は例に漏れず片言なのに、ツナマヨのそれはなんとも活舌が良い。
「おお、それならば私はたらこを」
「何を言う。めんたいに決まっているだろ」
「いいや、角煮だろ」
などなどと兵士らがざわめき始めた。こないだまで焼きたらこも辛子明太子も、豚の角煮も知らなかった連中だが。
「そちたらには十分な食料が用意されておるだろ!」
第二王女は慌てて制止させようとする。それでもそこは戦場を忘れたようににぎやかになってしまっている。その口々からはやはり「オニギリ」と似非外国人の片言発音が矯正されることはなかった。




