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魔力回復はおにぎりで  作者: 金子ふみよ
第五章

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ラワタ国でおにぎりをこしらえる②

 実に種々多様なおにぎりがだだっ広い木製のテーブル狭しと並べられた。

「腱鞘炎になりそう」

 腕を擦るのは姫崎見以外にはいない。料理長などは

「荘厳だな」

 テーブル上に敷き詰められたおにぎりの列にただただ息を飲んでいた。どんなギネスに申請すれば、そんな評価になるだとか、並べ方によって絵画的完成する過程を映したどんな無料動画投稿サイトだとか、訂正を促すような感想だが、それよりも。感心する前に、医療班でも呼ぶか控えさせておいて、その荘厳だか何だかまでにこしらえた男子高校生をねぎらっても罰は当たらないはずである。

「ケン殿、痛むのですか」

 どっかから見知らぬ女性が寄って来て、姫崎見の腕に薬草を塗り草を張って行った。笑顔がかわいらしい女性であった。どうやら湿布みたいなものだろう。メントール的なスースー感がいかにも炎症っぽさを緩和してくれていた。「これの方が魔術的じゃね?」などと姫崎見が草草した腕をまじまじと見るのも無理はない。

 それにしても。これほどの大量のおにぎりをこしらえなければならなかったのは、どのおにぎりがどのような効果・効能があるのか識別するためだった。焼き鮭、ツナマヨ、梅干しに始まり、焼き海苔と味付け海苔も一枚だけ、二枚、三枚のヴァージョンさらには海苔を巻かないヴァージョンまでそろえなければならなかったのだ。もはやおにぎりのゲシュタルト崩壊寸前まで陥ったが、どうにかこうにか握り終えることができた。

 これだけではない。ラワタ国の稲に似た穀物、塩や調味料、具材を調達。それらを使ってのおにぎりの作成。さらには他の料理人も姫崎見に習っておにぎりを握る。さながら対照実験の様相を呈し来ていたのである。また、それを誰が何を食えば、どうなるのかの検証も相まって、さながら戦へ出陣する前の壮行式とさえ思えるくらいだった。とはいえ、兵士すべてというわけには当然いかず、フィフェティの件も含め魔術が使える者、あるいは使えないとはいえ強者に数えられる者が食した。それでも二十数名。姫崎見がこれまで課程してきた学級のクラスメートの数よりは少ないわけだが、心が折れなかったのは褒められるべきである。

 結果、十名にも満たない数の騎士および戦士に効果があることが分った。とはいえ鮮烈に著しい変化があるのは現段階ではやはりフィフェティと魔獣のみで、他の者は薬草の処方や、治癒魔術および身体機能向上系統の魔術を行使したよりかはわずかに効果的だ、くらいの変化だった。ほっとしたのは姫崎見である。おにぎりを握る個数が限定的だと分かったのは腕だけではなく、心にも優しい。なにせ、フィフェティと魔獣なのだ。大食漢ではないから必然十個も握れば御の字のはずである。


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