姫崎見と姫崎妙
昼食を終えても、姫崎見はしばらくキッチンにいた。
「よし」
冷蔵庫にはいくつものタッパーが積まれた。
「何日分作ってんの」
姫崎妙はリビングからそれをずっと見ていた。
「……いや作ってたら、こんだけになっただけ」
不安そうな妹にこれ以上苛まれるようなことを告げてはならなかった。いくら騎士と魔獣が誓ったからと言っても、万全無事を楽観視するほど姫崎見は浅慮ではなかった。けれどそれを妹に察せられてもいけなかった。
デイバックを担いだ。いかにもずっしりとした中身の音が鳴った。準備し取りそろえた各種のグッズが入っている。
「用意はいいか?」
甲冑に身を整えたフィフェティ。リビングテーブルの上で魔力球を羽でいじるインコ。
「お兄」
すくっと立ち上がって姫崎見に並んだ。自分では平素を作っていたつもりが、
「大丈夫。ちょっくら行って、来る! から」
兄にはお見通しだったらしい。それからはっとしたようになってから、息を吸って
「うん」
応答をした。
「参ろう!」
フィフェティとインコが短いフレーズを口にした。魔力球からほのかな光が広がる。それが二人と一羽を包んだ。思わず姫崎妙は目を閉じてしまった。これではいけないとすぐにまぶたを開いた。光はもう収束していた。彼女以外誰もいないリビング。凍るような空気を感じて、姫崎妙は大きく息を吐いた。ゆっくりと吸った。リビングチェアに腰を下ろした。テーブルの上のポットから自分の湯飲みにお湯を注いでお茶の粉を溶かした。ポットの横の小さな丸いトレーには逆さになった湯飲みがもう一つある。姫崎見用の湯飲みである。それを手に取ってぎゅっと包んだ。
「早く帰って来てね、お兄、……お兄ちゃん」
ぎゅっと結んだ目からは流れて止まらなかった。




