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魔力回復はおにぎりで  作者: 金子ふみよ
第四章

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元魔獣の意地とやら

 インコを女騎士の肩に置き、決然として男子高校生が走り出した。あまりの突飛さに現状恐怖に陥っているであろう妹でさえあっけにとられてしまうほどだ。

 フィフェティもインコも、それになぜかイノシシ・クマ魔獣でさえも微動だにせずいること十数秒。姫崎見が帰って来た。手には供えたばかりのフードパック。輪ゴムを勇んで取ると、中身を掴みあげた。おにぎりである。

「しかし! ケン! 今は、ここでは! 魔術が使えないんだ。だから、いくらオニギリがあったとしても! 今は!」

 この状況でもおにぎりの発音だけは抜かりなく片言になっている点はスルーしておかなければならない。

「インコがあの時浄化されたように、そいつも食べれば浄化されるんじゃないのか?」

 試論も仮定である以上、

「ケン殿、それはあの時私が食した、かのオニギリなのか?」

 実食した経験のあるインコ、もといかの地の魔獣が疑義を挟むのは必定。

「いや、違うけど」

「ならば、必ずしも浄化できるとは限りませぬ。かえって魔獣の力を増長させてしまいかねません」

「確かめている余裕なんてないんだぞ」

「だとしても! 可能性よりも」

 紳士用の礼服を着た金髪女子の肩に停まるインコと白熱した議論を展開する高校男子の、

「かといってフィフェティに食わせたとて魔術が行使できるとは限らないんだろ!」

 反論に元魔獣はぐうの音も出ない。

「インコ、食べてみれば?」

 高校女子の、間をすり抜けて来た提案に、インコも高校男子も無言で顔を見合わせる。

「だって、お兄のおにぎり食べて浄化されたんでしょ。それでこっちに来れて、しかも姿をこっちの動物に合わせられていて、それにフィフェティさんと違って魔力がどうのとかのたまわってないのなら、がっつりってわけにはいかないだろうけど、浄化が進んでどうにかなるか、魔力的なパワーがどうにかなるかなるんじゃないの?」

 言われればそうなのかもしれないが、まだしかし可能性と推論の域を出ない。とはいえ、

「妙案かもしれんな」

 組んでいた腕の片方の手を顎に当てた女騎士。というよりも、

「他に手がない」

 女騎士がきりっと指さした。姫崎見を一度指して、それから慌てた様子でインコに。

「まあフィフェティが食ったら、単なるおやつだしな」

 というわけでインコがおにぎりを食べることが決定した。フィフェティの肩へおにぎりを上げる。ついばむインコ。

「鳥ってば、生米でなかったっけ?」

 今更昔話のぼんやりした記憶が浮かぶのだが、この鳥は魔獣である。容赦なくおにぎりをついばんでいく。具まで咽頭を通り過ぎた瞬間である。インコが雄叫びを上げた。目と頬は真っ赤に光り、羽を力強く広げた。かと思うと、嘴を魔獣に向け、カッと開いた。次の瞬間。火炎放射器がかわいく思えるくらいの焔が放たれた。青白い炎だ。

「お兄、消防署って一一一九番だっけ」

 姫崎妙が淡々とスマホをタップしようとしていた。が、

「妙、一が一つ多い」

 状況に動転したのは無理のないことである。

 焔は三十秒ほど続いて鎮火。インコは息の吐き過ぎたせいか肩でつくくらいに呼吸が荒々しい。一方、魔獣は案の定丸焦げである。倒れる焼き魔獣。ほろほろと灰のように崩れて消えてしまった。

「……お寺が火事にならなくて良かった」

 その通り。焼けたのは魔獣のみ。草すら燃えてない。その上肉が焼けた焦げ臭さもなかった。

「魔獣ってあんな感じでいなくなるわけ?」

 姫崎妙の疑問は、実はフィフェティも同じだったらしく、魔獣のいた場所の地面を撫でたり、指で摘んでみたりした。

「いや、違う。こちらではこうなるとも断定できない。なにせ、初見だからな」

 スクッと立ち上がって手を叩いて、手の平についた砂を払う。

「とはいえ、魔獣を殲滅したことに間違いはなさそうだ」

 灰から復活する様子もない。それにしてもである。

「インコが火を吐くなんて」

「魔術、なん?」

 おにぎりが魔力を上げる、それはここでも妥当するようだ。それにもかかわらず、フィフェティの表情は渋い。

「口から炎、そんな魔術あったかな」

 どうやらまたしてもイレギュラーな魔術行使が結果として起きたらしい。とはいえ、一応事態は沈静化した。となれば、帰宅の途に就くのだ。だが、一同不審が一致する。インコが大人しい。見れば、地面に立っている。羽で口を押えて。この一戦の功労者が倒された魔獣並みに完全に沈黙状態。

「み、水を。早く!」

 ようやくの開口一番がこれである。

「か、辛かったのだ」

 姫崎妙が無言のまま携帯しておいたペットボトルから空になったフードパックにミネラルウォーターを注ぐ。それを勇んでついばんでいるようにしか見えないが飲んでいるのだろう。

「辛いって。ケン、あのオニギリはなんだったんだ?」

「……高菜だ。唐辛子がちょこっと入ってる……。もはや魔術というか漫画みたいに辛くてファイヤーだったんだな。いや、もう魔力関係ないじゃん」

 とはいえ結果オーライである。なにせもう魔獣はいないのだ。オーライでないのはインコだけだった。

 インコが水っ腹になるのを待って一同は境内をあとにした。


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