魔獣が来た
そこにいたのは、
「魔獣か、一体どうやって」
フィフェティが苦虫を噛むような顔をした。
「いや、でもあれって」
「なんか違うような」
姫崎見がラワタで目撃した二種類の魔獣はいかにもな容姿をしており、帰還したのち調べてみれば、確かにUMAも敵わぬであろう想像上の怪物感丸出しだった。
ところが、いま目の前にいるのは、頭部がイノシシで、身体が熊みたいな動物である。下手をしたら未知の生物が山野からひょっこり現れた可能性がゼロとは思えないほどである。あるいはキメラ的な実験の結果、被験体がどこかの施設から逃げて来た、なんてこともないこともないのかもしれない。いずれにせよ、身の保全が最優先である。
「剣はないというのに」
今にも地団駄を踏むばかりのフィフェティと、
「私とてこれ以上は」
しかめっ面のインコが、猟友会への連絡をためらわせるに十分だった。
「マジもんてことか」
冷たい汗が額から流れる感覚。袖は力強く握られ、後方に引っ張られている。
顕現した魔獣はフィフェティを睨みつけ、幸いなことに咆哮の一つさえ発してない。いやすでに境内の防犯カメラが異常を住職のスマホに通知しているかもしれず、だとすれば警察への通報が行われているかもしれない。
とはいえ、それら打開策が仮定と憶測とでしか成立していない以上、どうにかして魔獣をせめてペットほどに大人しくさせなければならない。なぜなら、フィフェティと魔獣はあからさまに対決しそうな間合いとなっているのである。
がしかし、その緊迫した状況がラワタへ渡航した男子高校生に近視感を催させ、それが引いては
「お前、本当に魔獣なんだよな、あの」
もうガサッと力強く握るほどにインコを手にした。下手をすれば動物虐待である。
「いかにも。その通りだが」
迷惑そうなインコはどうにかして姫崎見の手中から逃れようとする。本物の魔獣なら人間の手なんぞ易々と取っ払ってしまいそうなものだが、というような疑念は不要である。なぜなら、今現在インコなのだから。
「待ってろ」




