姫崎兄妹は外出する、プラス女騎士
土曜日。朝食を済ませると、姫崎見と姫崎妙は制服に着替えた。
「今日は学校は休みなんじゃないのか。部活動か、外部模試というものか」
テレビに首ったけの四六時中のおかげで、異世界の女騎士でも現代日本の学生生活のそんなところまで知り得ていたわけである。
「いや、学校じゃない」
姫崎兄妹の目的はそこではなかった。つっけんどんと言うわけではないが、さりとて丁寧と言うわけではなく、あっさりと言い返した。
「お兄、玄関の花持ってね」
玄関にはバケツに挿した花束が置いてあった。姫崎妙はいそいそと台所と別の部屋を行ったり来たりしていた。それを不思議そうに眺めるフィフェティに、
「墓参りなんだ。両親の」
姫崎見の静かな声に、フィフェティはわずかに目と口を開いた。リビングを出ようとする姫崎見へ、
「私も同行したら邪魔になるだろうか」
静かに問うた。ピタリと止まって、顔を不規則に動かす姫崎見に、
「いいんじゃない。断る理由ないし」
仏間から線香を一つまみ持ってきた姫崎妙はリビングテーブルに置いてあったボックスからティッシュを二枚とって、それをくるんだ。
「だそうだ。急ぎはしないけど身支度は早目にな」
玄関に向かう姫崎見に、
「やっぱり花は私持つ。お兄はお寺でお水もらえるよう空のペットボトル用意してさ。てか、さっきの何を気にして……」
妹は米を入れたアイラップとティッシュに包まれた線香を鞄に入れて追った。
フィフェティは自分の服を摘んだ。甲冑ではない。動きにくさ云々ではなく、日本での暮らしに不要だからである。だからすでに早々に日本のファッションを学んだのである。とはいえ、今着ているのは流行最先端ではない。そこいらで買えるルームウェアである。近くのコンビニへ行くわけではないし、たとえそうであっても、騎士の気概が許さない。彼女にとってはいくら異世界であろうが、旅の恥はかき捨てなんて思いさえも憚られるのである。よって、着替えへ。
「……いや、そうなんだけどさ」
「……そうではない。てか、いつ買ったの?」
玄関で待つ二人が見たのは、礼服姿のフィフェティである。しかも紳士物の。ちゃんと黒のネクタイをしている。
「これが葬儀に参る姿だとテレビで」
その視聴に男性用と女子用の違いを説明していなかったはずはないのだが。とはいえ、そこを根掘り葉掘り訂正していてはいつまでたっても出発できない。年忌法要で親戚が集まるわけでもないし、女騎士の平常運転に構っている場合でもない。
というわけで玄関を開けた。
墓地に向かうまで、何度行き交う人々に振り向かれたか知れない。




