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魔力回復はおにぎりで  作者: 金子ふみよ
第三章

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フィフェティ・パースペクティブは勉強をする

 翌日からフィフェティは現代日本での学校教育課程を姫崎宅で自習し始めた。一日で幼稚園から小学校六年生まで履修し、二日目には中学三年間の内容を、三日目には高一レベルを、四日目には高二レベルを理解していた。

「さすがに、……国お抱えの騎士ってところか。なんか、腑に落ちないのはなぜだろう」

 とりわけ数学に、というか分数と小数に興味を持ったようだ。教師役を率先して買って出たのは、兄と美女とを接近させてはならないまったくもって私的理由によるものだが、思いのほか学習能力の高い騎士に素直に感心を示すのに非常にためらいがあった。

「妹君はよく分かるように教えてくれる。ありがたい」

 またテレビの視聴は情報の収集というよりそれ自体が学習になっていた。ただ魔力や魔術に関わる正式な情報がないと嘆いていた。が、ファンタジーアニメを興奮して見ていたのはどういうことだろう。

 フィフェティが現代を学ぶ。学生の全課程をさらっていれば、当然ぶち当たる科目がある。英語である。フィフェティにしてみれば、トリリンガルになる勢いなのだが、

「なんか気になることでもあるの?」

 辞書を開いて動きを止める女騎士が妙で姫崎妙が尋ねると、

「この単語がな。近親感を覚えてな」

「親近感ね」

 抑え気味なとげのある声。とはいえ、頬が染まっていたのはきっと気温のせいだろう、そうに違いない。

「私の家名がパースペクティブなのだ。そう言えば、ケンが以前私の名を聞いたら変な顔をしたことがあったな」

 変な言葉遣いはこれから存分に訂正してやるという決意は今は保留しておいて、

「それってお兄が初めて行った時じゃない?」

 半ばあきれたようすで確認した。

 上目遣いになったのは天井を見つめるためではない。

「妹君はさすがだな。魔術でも使っているのか」

 つまりはご明察通りだと。女騎士の言ったことは冗談とかボケとかではないだろう。感心を素で表現しただけである。そんなことにいちいちツッコミとか訂正を促してとかしていても仕方ない。アンガーマネジメントを調べておくことにした。

「人が良いって言っても、なんでお兄がって思ってたけど、そういうことか。どうりで放っておかないわけだ」

「どういうことだ?」

 本当にキョトンとした表情である、騎士なのに。

「フィフェティさんの国だと、パースペクティブってどういう意味なの?」

 答える代わりに、どうせ兄が確認したであろう異世界の名前の由来を聞く。

「移住してきた先祖が開拓して土地に根付いた時に開けた海が見えた、そこでその光景に願いを込めて、とは聞いたことがある」

 思い出しながらたどたどしく語った。騎士が誇り高き家名のことをである。

「はあ、なるほどね」

 もうほとんど吐しゃする勢いのため息である。

「どういうことだ?」

 素朴というか、良く言えば純朴な騎士には解釈せよとでも指を置いた。辞書のその単語の意味の一つに。

 姫崎妙は一度聞いたことがある。父母が亡くなって半年ほど経ったころだろうか。自分が昼寝をしてしまったから、きっとその隙にとでも思ったのだろう。兄がリビングにいなかった。買い物かもしれない。ふと目が覚めて不安にかられて声を上げそうになったが、仏間から聞こえてきた。兄が仏壇に向かって泣き声で絞り出していたのだ。妹を、そう妹の将来を、“展望”を決して暗いものにしないと、それが家族の未来なのだと。

 そんなことを思い出していると、

「妹君、熱いのか? ジュースでも持って来ようか」

 女騎士に労われるほどに顔色が変わっていたようだ。


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