フィフェティ・パースペクティブ感傷に浸る
夜。庭を望むガラス戸を開け、リビングから星空を眺めるフィフェティに姫崎見は声をかけた。すると異世界の女騎士はしおらしく、
「星は違っているが、夜になると星空を眺めたくなるのはラワタでもニホンでも同じだと思ってな」
メルヘンなポエムちっくなささやきをした。金髪の美女のこれまでの言動を完全消去できれば、まさしく映画的なワンシーン。とはいえ姫崎見とて長い時間を共有したわけではない。知っているのはラワタ国の騎士として魔獣と戦う現在でしかない。休みの日になりをしているとか、趣味とか、好き嫌いとか、夢とか、師匠とやらとどう修業したとか、なぜ騎士になろうと思ったとか、悲しかったこととか、うれしいこととか。知らないことの方がずっと多いのだ。だから、フィフェティに乙女な部分があったとしてもなんらおかしいことではないのだ。そんな当たり前のことに、姫崎見は今になって気づいた。肩をすくませて、
「ラワタほど光ってないと思うがな」
心なしかやんわりと相槌を打った。
住宅地といっても地方都市の郊外。ラワタとは灯りの数も光量も桁違い。プラネタリウムに魅了されたことのある姫崎見も、ラワタの夜空には圧倒されたくらいだ。だから、フィフェティにとっては街の空はさぞかしどんよりしていると予想はできたのだが、女騎士はその斜め上をいったのだ。
「それはそうだが、それが違うということだろ。どこも同じだったら面白くはない。違いがあるからこそ心の機微が知れるというものではないか」
「哲学みてえなこと言うなよ」
「そうそう。ガクモンというのをやってみれば、より理解が進むのではないか」
「そうかもしれないが、選ばれた子供たちのパートナーになったモンスターみたいな発音をするなよ」
「そう言われてもな。そういうことも含めて学ぶことで解消されるのだろ」
「そう、だな」
結局はそんないつも通りのコントもどきなのだが、ダイニングテーブルから穏やかには姫崎妙は見ていなかった。その手の下にあったはずの雑誌は買い替えなければならないほどの惨事に見舞われていた。




