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魔力回復はおにぎりで  作者: 金子ふみよ
第三章

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20/49

姫崎見のランチタイム

 翌日。日中。学校。

 ざわついている教室。机をいくつかかためて複数のグループになる生徒、本を見ながら静かに一人でいる生徒などなど。昼食時間の教室。

「おーい、姫崎買って来たぞ」

 級友の鶴子が何人か連れ添って購買から戻って来た。

 姫崎見は凝視していたスマホを鞄に入れた。級友が机に乗せた焼きそばパンの値段をちらと見て百二十円を差し出す。

 前の席の椅子をくるりと回転させてから座った鶴子は、

「二十円いらん」

 百円玉だけ姫崎見の手に平から摘もうとするが、

「ほら」

 さらに手を突き出す姫崎見の意に逆らうことがそれ以上出来ず、

「遠慮なく」

 がさっと料金をさらった。この級友でさえ、親しくなりかけのころには「鶴子って誰?」と妹にメンチを切られた。苗字なのに、すっかり言いが女性の名前であった。しかし、その件があったせいでか、おかげか鶴子は姫崎兄妹ともに親しい間柄になった。姫崎妙は情報源と扱っていはいたが。

「でも珍しいな。お前が購買なんて」

 もう自分のコロッケパンを開封して一口。紙のオレンジジュースをストローで啜る。

「ああ、分量を間違えた」

 姫崎見の机上にはおかずのみの弁当があった。

「ふーん、てかさっきもだけどよ、今日はやたらにスマホ出して何してんの? 彼女からの連絡を心待ちにしている付き合いたての彼氏か」

 瞬く間にコロッケパンを頬張ってから、メンチカツパンを開封する。両親がおらず料理に勤しむ級友にお付き合い相手どころか、ときめきのお相手さえいないことを十全に知った上でのからかいである。

「どっちかって言うと、子供がなにかしでかさないか不安で仕方ないって方だな」

 ポテトサラダを口に入れてから焼きそばパンをかじる姫崎見に、変な顔をした鶴子の、

「子供ってお前……。とうとう」

「例えだ、例え。とうとうってなんだよ」

 さっきまでの軽妙さが消えたので、慌てて取り繕った。

「まあ、だろうな」

「だろうなってなんだよ」

「俺らよりも先にお目通りして許可求めないと、お前は誰とも付き合えないだろうし」

「は? どういうことだよ」

「妹のチェックがあるんだろ」

「妙は小姑じゃねえよ」

「そういうことじゃねえよ」

「お前が言ってることは分からん」

 級友以上によく分からんことになっているのは、姫崎家にいるはずのフィフェティである。起床後、朝食を摂っている間に気付いてしまったことが、いや考えないようにしていたことがあった。登校している間の異世界騎士の処遇である。学校に連れて行くわけにはいかないから、在宅になるのだが、大人しくしているのかどうか不安でならなかった。室内カメラの注文を深刻に悩んだほどである。買いに行くにしてもホームセンターのオープン時間でもなかった。

「リビングのテレビを一心不乱に見続けて日本の生活とか実情を知ってもらった方がいいんじゃないの?」

 妹がまさに妙案を提示した。女騎士は淀みなく納得を示した。

となれば、フィフェティの昼食分を至急こしらえなければならない事態となり、思いついたのは自身の弁当をフィフェティのランチとして残しておくことだった。それは翻って自分の分の弁当をどうにかしなければならないこととなり、冷蔵庫からアットランダムに詰められる分だけ詰めた次第である。それはまあ仕方ないとして、弁当をどう食べさせるのかと次の難点が浮かんだ。腹が減ったら食えというのはもっともシンプルで簡易な伝達だが、日本での暮らしがある以上、どうしたって教えておかなければならないことがある。時間である。よって、リビングの壁掛け時計を、時計という器機がどういうものなのかの説明からしなければ本来はならないのだが、それは帰宅以降ということでとりあえず、

「長い針と短い針が、この数字、これは数字だぞ、十二な、これ、十二になったら弁当を食べるんだ」

 こう女騎士に言い聞かせて出て来たのだった。後はチャイムが鳴っても、電話が鳴っても出ないことなどなどがあったが、

「つまりはテ・レ・ビというのをじっと見て、弁当以外は何もするなということだろ」

 フィフェティにしては簡潔に納得してもらえて何よりだった。前夜すでに入浴と同時にトイレの仕方も姫崎妙が教授しているからその点は免れたとしても、落ち着いていられない。自身がラワタへ行った際、確かに何かをしでかしたわけではないが、現代とは違うもろもろの様相に興味とか好奇心が皆無だったわけではないのだ。目が移ろうといったことをカウントするならば、十分に挙動不審だった自信はある。それがフィフェティとなれば、どこに安堵する余地が生まれるのだろうか。出るなといった以上、こちらから電話をかけるわけにもいかない。と同時に、よもやとは思うものの、元魔獣から何かしらの接触がないのかが気になっていたのだ。

「ま、なんにしろ、妹のご機嫌取ることだな」

「だから、妙がなんで」

 確かに昨晩以降妹は機嫌が優れないのは間違いない。その理由に見当がつかない兄は、

「今晩は何を作ろうかなあ」

 メニューを考える。頭に浮かんだ何個かはどれも妹の好物ばかりだった。


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